秘密研究所発見!!
真っ暗な洞窟の中、わずかに聞こえてくるのは水の滴る音のみ。その中に一人の少女の悲鳴が響いた。
「わぁ‼︎」
『マーヤ! 大丈夫か? 返事してくれ‼︎』
「娘は捕らえたぞ」
『な、何者だ⁉︎』
「この娘を返して欲しいければオレの要望を聴いてくれるな?」
『なんでもする、なんでもするから彼女に何もしないでくれマーヤは僕の大事な…』
「ブッ、ハハハハ」
『マ、マーヤ?』
「タク、必死になりすぎ。フハハハハおながいたひ」
マーヤと呼ばれた少女は一人で光がほとんど届かない洞窟の中で呑気に腹を抱えて笑ていた。
マーヤに弄ばれてかなり焦っていた相手は通信の向こう側にいる。
『やめてよ、なんで急にそんなことするの、 本当に心配したじゃないか?』
叱るように通信から声を響かせているのは若い少年である。
「だって、退屈だもん。いくら進んでも何もないし、本当にここであってるよね? この前みたいに、蛇の巣窟でしたってオチだったらメシ奢らせてもらうからね?」
『だ、大丈夫だよ。その近くの集落の人たちに怪しい人物が確かにその洞窟に入っていたと言う目撃情報があるから』
「前にも似たような目撃情報を信じたらただのホームレスだったと言うことも…、あれ?」
通話の相手と話しながら洞窟の中を歩いていたマーヤの目に小さな光が差し込む。
『マーヤ、どうした…』
「シッ、多分見つけた」
相手に静かにするように促すマーヤも囁き声になる。
その光が差している方に恐る恐る、ゆっくりと進む。
やがて、今まで進んできた暗くて狭い洞窟とは比較にならない程広く、明るく、周りはどう見ても人工的に造られたとしか思えないコンクリートの壁と天井。床はアスファルトのような砂と石で固まっている。
壁につけられた照明が光の源になっている。
マーヤの目が暗視モードから通常モードに切り替えると緑色一色に染まっていた視界が彩られる。
前にある、開くのに入力パスワードが必須の金属でできた扉を見つめる。
少し山の奥にある古臭いこの洞窟の入り口を思い出すマーヤ。
こんなモノが洞窟の奥深く、暗くて狭いところの先にあるのは怪しいとしか考えられない。
「タク、写真送るからこれ見てくれ」
そう言って目を2回、ゆっくり瞬きをして、それに合わせてパッシャ、となる音。
『なるほど…。隠れた研究所だとしか思えないね。と言いうか、それ以外のものを思いつかない』
「わからないよ? もしかしたらエロ本の隠し倉庫と言う可能性も否定できないよね。タク?」
『だから、あれはエロ本じゃなくて、ライトノベルと言ってだね、昔流行ってた…』
「大丈夫だよ。タクも男の子だし、誰にも言わないから」
「だから、違うって言ってるよね?」
ある個室でメガネを掛けた少年が両手に特殊なグローブをつけている。少年の手の動きは傍から見ると空中で埃と遊んでいるようにしか見えないが、その少年の視点からはメガネのガラスの先にマーヤが撮った写真が写っていて、グローブによってその映像に干渉ができるようになっている。
メガネの耳の上にかける部分は小さなスピーカになっていて、そこから任務中にも拘らず、閑話をするマーヤの声が少年の耳に響いている。