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幕間 モリオン


 

 バギエ公国の春の潮騒は、いつも狂おしいほどの勢いで散っていく。カリュブデスの産卵が終わったばかりの海峡は、生命に溢れ、荒れていた。

 絶えず寄せては返す波の音のなか、エランは泣いてしまいそうだった。もう16歳だというのに、5歳の頃のように泣きじゃくってしまいそうだった。

 目の前で、ミヌレとオニクスが並んでいる。

 千年前の砂漠帝国から【時間跳躍】して、この時代に迷い込んだふたりは、ふたたび【時間跳躍】してあるべき時代へ帰るため、ぴったりと寄り添っていた。

 童話に登場する善い妖精と悪い魔法使いみたいだ。

 エランは今までのこともこれからのことも知っていた。

 己を誘拐から救ってくれた善き妖精は、過去の姿。

 今は時の女神となっている。

 時が戻るか滅してしまえば、今の自分の気持ちだって消えてなくなってしまうのだ。ミヌレの役に立つために雑貨を集めた日々や、無事を祈った夜も、そしてこの思い出さえも失ってしまう。跡形もなく。

 潮風が吹き抜けていく。

 海から吹いてくる風は、胸が痛くなるほど涙の匂いに似ていた。


「……ここにいるエランのこと。妖精さんの役に立ちたかったエランを、忘れないで」  


 そう言いながらエランは、ミヌレに抱き着いた。

 己より年下のミヌレ。

 自分は思い出を抱えていれらないけど、せめてミヌレには覚えておいてほしかった。

「この時代に……わたしはいるんでしょう」

「妖精さんは大丈夫。ただエラン、寂しくなっちゃっただけ。今の妖精さんと別れたくないだけなの」

 笑顔を取り繕う。

 ミヌレの腕の中には、瓶入りのシュガーボンボン。

 幸せだった幼い思い出が、そのまま砂糖になったみたいなお菓子だった。あのシュガーボンボンの代わりに、自分が抱きかかえられて一緒に行きたい。

 だけど自分を抱えて、時を渉れないだろう。

 きっとあのふたりだから、時間を越えていける。

 エランは根拠なくそう思っていた。

 ヴリルの銀環が腕輪から錫杖へと姿を転じる。

 別れの時刻だ。

「汝は時間! 障壁に囚われし、絶対の君臨者!」

 瓶から媒介の炭を撒く。

 エランの網膜には、炭がちらちらと虹色に輝いているように映った。万華鏡めいてくるくる変化する。あれは時間障壁の輝きだ。

「我は汝にかしずくことなく挑むもの! 因果を射て、摂理を切りて、法則を縊るもの!」

 錫杖を打ち鳴らし、高らかに叫ぶ。

「今こそ汝を越えていく! 【時間跳躍】!」 

 そしてミヌレは時間を渉る。

 空間がうねる。まるでシャボン玉が混ざったみたいに周囲は歪み、滲み、無音にはじけた。

 あとはただ潮騒の静寂が満ちるのみ。

 長い夢から醒めた気分だ。

 エランは屋敷に戻る。

 日差しの届かない翳に、別荘の管理人が無言で佇んでいた。

 アッシュラヴェンダー色のヴェールを被り、黒の喪服を纏っている。紫水晶のブローチだけがたったひとつの飾り気で、円やかな反射をしていた。

 気配無く佇む姿は、まるで厳かで清らかな幽霊だ。

 エランは管理人を人見知りだと吹聴していたが、アスィエ商会が対人がままならない人間を雇うわけがない。ただ彼女は、オニクスの前に姿を現したくなかっただけなのだ。

「ほんとうに管理人さんは挨拶しなくてよかったの?」

「今更、交わす言葉はありません」

 喪服姿の管理人は、震える声でそう呟いた。十二年前は夫と赤ん坊のため、そして今となっては弟のための喪服だった。

 魔女を討ち取るため、【破魂】という不全魔術を使った弟に捧げる哀悼だ。

「でも弟さんでしょ」

「わたくしは十二年前に、弟へ言ってはならぬことを言ってしまいました」 

「魔女のせいなのに?」

 エランはどんな言葉が投げかけられたのか知らない。

 ただ魔女に精神を毀されたせいで、騒霊現象を暴走させて、心身ともに癒えない傷が残っている。そう異母兄のレトンから聞いた。

 そしてヴェールの下の顔は、二目とみられないほど酷い傷跡があると。

 彼女は被害者だ。

 引け目を感じるのは間違っている気がした。理不尽だ。

「エランお嬢さま。どんな理由があろうと、けして言ってはならなかったことです。それを口にしてしまった以上、わたくしはもう姉ではないのです」

 告げる言葉の厳かさに、エランは反論できない。したい気持ちはある。

「お嬢さま。もうここに滞在する必要はありません。ご帰宅の準備をしてよろしいでしょうか」

 別荘の管理人として語る。

 弟の件に関してもう喋ることはないという、礼儀正しくはっきりとした拒絶だ。

「もう少し滞在したいわ。名残惜しいの」

 名残惜しさとは少し違う。

 帰宅の準備が無駄だと知っているからだ。 

 もうすぐこの時間軸は終わる。

 『夢魔の女王』ゼルヴァナ・アカラナによって。




 

 夕食後、エランは普段は控えているお菓子を平らげて、ドードー鳥と遊ぶ。

 時間軸が終局するのだ。

 何をしたって構わない。

 夜が更ければベッドの中で隠れて、【光】の護符で娯楽小説を読む。集中していた意識に、馬の嘶きが届いた。

 この別荘に、いや、それどころかこの島に馬はいない。

 鳥たちの楽園だ。

 エランは寝床から起きて、【光】の護符を片手に、薄いネグリジェのまま階段を降りた。

 応接間から、赤くて澄んだ光が零れている。もしこの輝きが何か知らなければ、火事かと思う揺らめきと色合いだった。 

 無作法に扉を開ける。

 応接間の暖炉には、不死鳥フェニックスが翼を休めている。応接間に並んだ酒瓶は、翼やしだり尾の輝きに照らされていた。絨毯の上には、使い古された魔導銃、革製の魔弾盒、そして柘榴石が填められた九曲がりのクリス・ダガーが転がっている。

 そして暗がりに、青年がひとり立っていた。

「いらっしゃい、リオ」

 エランは幼なじみのモリオンに、愛想のない歓迎をする。

 モリオンはマントもローブも脱ぎ捨て、生々しい傷がある膚を晒していた。真新しく、深い傷だ。戦場から帰還したばかりのような空気が、赤蜜色の肌から立ち込めていた。

「リオが怪我するの珍しいわね」

「ああ、連合軍の敗残兵処理に手間取っただけだよ。大した傷じゃない」

 素っ気なく言って、ブランデーをグラスに注ぐ。

 鍵付き引き出しを開けた。

 ヘルメス気密の小瓶が並んでいる。阿片チンキに、アルケミラ雫、そして不死鳥の血だ。

 自分が手懐けている不死鳥から血を採取して、有事の時に使えるよう、バギエ公国の別荘に溜めている。 

 モリオンは片手で器用に気密を解いて、グラスの中で血とブランデーと半々に混ぜ合わせた。そして大沼蛇ヒュドラの胆汁をほんの一滴。死を凌駕する不死鳥の血と、再生繰り返す蛇の体液と、生命の水と謳われる葡萄の蒸留酒オー・ド・ヴィー・ド・ヴァンが、くるりと一体化する。

 飲むためではない。

 これは魔術インクだ。

 夢孔雀シームルグの羽根に魔術インクをひたし、傷に塗りこめながら呪文を綴った。

「我は蛇の裔、手足ありても地を這う身ゆえ、脱皮を願う」

 詠唱すれば傷から焼ける匂いが立つ。


「【再生】」


 生々しい傷を新しい皮膚が覆う。

 体力と魔力を消費して、強引に肉体を再生しているのだ。大沼蛇ヒュドラの胆汁のせいで痛みを伴うが、再生のためには避けられない激痛だ。

「………ッ」

 モリオンは痛みを堪え、脂汗を掻きながら、肉体を強制的に回復させていく。

「妖精さんに癒してもらわないの?」

「ミヌレさまの尊い魔力を、こんな下らないことに使うなんて論外だ」

 強い口調で言い切る。

「時の箍を外すことに、専念して頂かなくては」

「リオ。失礼なこと聞くから怒ってもいいけど、妖精さんへの求婚は………」

「ああ、断られた」

 そう告げて気付け薬代わりに酒を煽る。 

 ピエール18世時代に作られた稀少な酒だが、惜しむ必要はない。もはや時間は戻るのだ。この時間軸の酒を飲み干す勢いで、強いブランデーを呷った。甘やかな香りに反して、喉を焼くほど酒精は強い。モリオンの焦燥はさらに強い。

「修道院の薬草酒もあるわよ」

「あれは美味しくない」

 二杯目を注ぐ。

「お父上そっくりね。やけ酒を飲む姿」

 エランの意地悪に対して、モリオンは鼻で嗤った。

「父上そっくりか。忌々しいな。だったらミヌレさまは、どうしてボクを選んで下さらないんだ。ミヌレさまが幸せなら、あの男の名前で呼ばれて生きたってかまわないのに!」

 ミヌレの罪深い選択を、彼はずっと止めたかった。父の身代わりになってもいいと思った。モリオンという己を殺し、父オニクスのように振舞ってもいいと覚悟していた。

 腐るほどに愚痴を聞かせた美酒を、モリオンは一気に喉へと流し込こむ。呟かれた懊悩は彼の喉を通って腹に戻り、肺腑を蝕み、ふたたび愚痴となって吐かれていった。

「好きな相手じゃないもの。血が繋がっていても、似てても、選ばないのは当たり前じゃない」

 エランの率直な言葉に、モリオンは呻く。

 そんなことはモリオンだって指摘されるまでもなく理解していたのだ。

 自分はオニクスではない。

 だからどれほど似ていても、どれほど真似ても、ミヌレはけっして己を選ばない。

「エラ。報告書を仕込んだ鞄、ミヌレさまに渡してくれたか?」

「ええ、大喜びだったわ!」

 アンティークの時計を飾った革の旅行鞄。

 二重底になっており、モリオンの調査結果が綴られている。

 オプシディエンヌの隠れ家や財産の一覧だ。

「妖精さんに教えちゃダメなの?」  

「過去がどこまで戻るか分からないからな。オプシディエンヌはミヌレさまを監禁した時、眼球に【盗視】の呪符を仕込んでいた。オプシディエンヌにそれを視られたら、逃走されるか罠を張られるか、事態はややこしくなる」

 エランはブランデーの淡い酩酊をかき分けながら、モリオンの隣に腰を下ろす。

「やっぱり妖精さんは時間を戻すのね」

「決意は変わらない。ミヌレさまは父上が生きている時点まで、時間を戻す……いや、戻すっていうのは語弊があるかな」

 モリオンは飲みかけのグラスを置く。

「この宇宙域、時間障壁の内側に在る時間という現象は、過去と未来は等しく、流れているようで流れていない。現在という概念を持つからこそ、時間が流れていると判断してしまうけど、その概念を取り払ってしまえば時間は流れていないと理解できる。そもそも『現在』という概念そのものが、時間の正確に理解できなくさせているんだ」

 滔々と流れる説明に対して、エランはあくびした。

「エラ、結論だけ言えばいいかい?」

「最初からそうすればいいのに」

 馬鹿にしたような言い草は、癇に障ったが、モリオンは後回しにしていた結論を告げることにした。

「この時間障壁内が消滅する可能性がある」

「時間を戻すと、世界が消滅するの意味が分からないわね」

「この宇宙は創世アヌバタカしているんだよ。つまり最終人類が地球の終焉を予知して過去へと跳び、それが原始人類のはじまりになったんだ。だから過去を進み続ければ未来に行くし、未来を進み続ければ過去に跳ぶ。ひとつの大きな輪になっているんだ。ミヌレさまはその輪を砕く。環だった時間を砕いたらどうなるか。ミヌレさまの望むようになるかもしれないけど、世界が消滅する可能性の方が高いね」

「妖精さんはきっとやり遂げるわ」

 エランは微笑んでいた。

 世界の消滅を目の前に出されても、なにひとつ揺らいでいない。

 いろいろと説明した自分が馬鹿みたいな気分だ。実際に馬鹿だろう。こんな意味のないやけ酒をしているのだから。モリオンは己の愚かさを自覚し、残った酒をまた呷った。

「リオは妖精さんを信じてないの?」

「確率の問題を語っただけだよ。たぶんきっと………ミヌレさまの望みは叶うんだろう。あのひとはそういう運命をお持ちだ」

「ならいいじゃない」

 事も無げに言い放つ。

「ほんとにエランの記憶は無くなっちゃうの?」

「無くなるよ。時間軸の消滅だからね。無かったことになる。ただ時属性の適性者だけが、保持できるかもしれない。ぜんぶ仮説に仮説を重ねているだけだから、どうなるか分からないけどね」

「勉強した分は身についてほしいわ。スフェール学院って授業が早すぎるもの」

 エランはおどけた調子で頭を抱える。

 魔力だけは申し分ないが、座学に関しては問題があった。実技も問題がある。ついていける授業もあるが、遅れている授業も少なくない。

「だったらおとなしくリトテラピー女学園に入っていればよかったじゃないか。あそこだったらスフェール学院の一年分の授業を、三年かけてやってくれる」

「見学に行ったけど、肌に合わなかったって言ったじゃない。あのお嬢様学校の校風とか校則とか」

 リトテラピー女学園はレベルは高いが、どちらかといえば魔術も勉強できる令嬢学校という位置だ。

 学問より、礼儀作法と教養を重んじる。

 魔術論と魔術史。星智学と数学、薬草学、鉱石学、地質学、護符作りまで行うが、リトテラピー女学園では基礎だけ。

 ほとんどは社交と教養の授業だ。

 国語として古典文学や古典詩、美術として水彩画や美術史、音楽として声楽やチェンバロ、体育はワルツと乗馬。他には招待状や礼状の書き方、装飾手芸などである。

 慈善バザーを催し、文学サロンを開ける貴婦人を目指しているのだ。

 リトテラピー女学園にとって魔術は実践でなく、教養の一環であった。

「授業についていけなかったら意味がない。きみの家族もそう説得してたじゃないか」

「でも校風に合わないのと勉強が難しいのだったら、難しい方がまだ努力でなんとかできる分いいでしょ。あんな奥さま養成学校じゃ、エランは幸せになれません」

「よくそれで家族が折れてくれたものだね」

「だってエランの幸せが、父さまと母さまの幸せじゃない」

 エランの瞳は、真っすぐで一点の曇りも無かった。

 その澄み切った眼差しに、モリオンは呆気にとられる。気が抜けたまま、鼻で嗤いたくなった。嗤わなかったのが不思議なくらいだ。

「レトン兄さまとエグマリヌ義姉さまだってそう思っていらっしゃるわ。エランが幸せなのが、いちばん大事」

「………お幸せなことだな」

 酒に塗れた唇から皮肉を絞り出し、嗤いを飲み干す。

 モリオンはエランが嫌いだ。

 過去形ではなく現在進行形で嫌いなのだ。

 愛されて育ったその無垢さが忌まわしくてたまらない。時間が戻るならば、いっそここで殺してもいいだろうかと不穏な考えが浮かぶほど、エランが嫌いだった。

 肩の古傷が熱を帯びる。

 酒精のせいか、苛立ちのせいか、どちらにしてもくっきりとした熱だ。

 蜘蛛の咬み跡は、十数年の時を経ようとモリオンを苛んでいた。養母に優しくされても、幼馴染の世話を焼いても、友人が出来ても、喰い殺されかけた絶望が残っている。

 その絶望や癇癪を放たぬよう、踏みとどまる。

 自制の理由は優しさではない。

 ミヌレとクワルトスに対しての敬意あらばこそ。

 幼かったモリオンはミヌレに対して、そしてクワルトスに対しても、加害した。

 それは1617年のこと、クワルトスがオプシディエンヌの手で馬車で事故死を装わされた。オプシディエンヌが実行犯であったが、狙撃犯はモリオンだった。車輪を撃ち抜き、御者を狙撃し、追い詰めた。

 プレニット農園の跡取り息子クワルトスという人生を殺したのは、モリオンなのだ。

 それなのにこの十二年、いつ終わるとも分からぬ旅路の中、ふたりともモリオンに対してどれほど優しく振舞ってくれたか。思い返すだけで泣きたくなる。

 ふたりを想って、エランへの苛立ちを腹に収めた。

 モリオンはブランデーの残りを、喉へ流し込む。きつい酒精によって、胃の腑が焼かれた。

「エグマリヌ義姉さま、妖精さんのこと止めるって言ってたわ。世界を滅ぼさせたくないって」

「ああ、ミヌレさまに殺されてるよ」

 エランが息を呑む。

 強張った空気に、モリオンはため息を落とした。

 自分はどこまでいっても他人に優しくはできない。

「嘘だよ。親友同士なんだから、そんなことするわけないだろう。怪我をしているけど、きみの異母兄が看病してるよ」 

 モリオンは冗談めかして嗤う。

 真実を告げても、時間が戻るか滅するか、ふたつにひとつ。

 何を言っても構わないが、モリオンは真実を遅まきながら取り繕った。

「リオって嘘が下手ね」

「そうだね」 

「エランはリオのそういうところも嫌い。上品ぶってるくせに、癇癪持ちだし。愛想笑いは得意なのに、他人に好かれる言い方は苦手で。父親嫌いなのに父親の真似して妖精さんの気を引こうとしてるなんて、特にぞっとする。そういう自由じゃない生き方って、妖精さんのいちばん嫌うところじゃない」

「うん、知ってる」

 モリオンが嫌っているのと同じくらい、エランに嫌われているのも知っている。

 だからこそ気兼ねなく会えるのだ。

 結局、モリオンは捻くれているのだ。どうしようもないくらい。

「ボクはミヌレさまのところに戻るよ。術式はほぼ完成している」

 語りながら、脱ぎ散らかした服を手に取る。身支度を整え、弾丸満たした魔弾盒を腰に括り、九曲がりのクリス・ダガーを飾り帯に挿した。ついでにクワルトスの土産に、プレニット農園の赤葡萄酒を取る。

 エランがマントへ寝転がってきた。手入れされた美しい髪が乱れ、マントに広がる。

「邪魔」

「邪魔してるのよ」

「なんで?」

「管理人さんに挨拶していかないの?」

「ママンのお説教は長くなるから、また今度にする」

「………そうね」

 長い沈黙と短い返事を吐き出し、エランは起き上がる。髪は乱れたままだった。

 また今度。

 その言葉があればいい。

 モリオンは身支度を整え終わり、暖炉へと手を伸ばした。不死鳥は甲高く囀って、モリオンに寄り添う。

「さよなら、エラ。時間が戻ったら、次は友達になろう」

「馬鹿ね。ずっと友達だったじゃない」

 呼吸するように吐かれた単語に、モリオンは毒気が抜かれた。

「そうかな?」

「そうよ。またね、リオ」

「そうだね。また会おう」

 




 ミヌレは世界を、正しく戻すだろう。

 


 醜き過去を喰らいて、美しき未来を齎さん。世界と魂を等しく生まれ変わらせし時間超越神。

 それこそ『夢魔の女王』ゼルヴァナ・アカラナなのだから。




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