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鍵をかけたい

作者: 平沼小国
掲載日:2020/02/15

目覚めると、質素な部屋に居た。


目の前にドアがある。


ぐるりと見渡すと、ドアを背にして右側には古びた机と椅子が一脚、置いてある。


左側には引き出しの5つついた不透明な箱。


前には窓があるが、はめ殺しになっていて開かない。


外は暗かった。部屋の明かりとして薄暗い蛍光灯がついている。 


しかしスイッチらしきものは見当たらない。


ドアを見直して気づいたが、この部屋には鍵がかからないらしい。


どうにかして鍵をかけてみようと思った。


なぜかは分からないが、とりあえずかけてみようと思った。


鍵をかけることが、俺の使命だと思った。


早速引き出しのついた箱を調べることにした。


一番上の段を開けると、ガムテープが入っていた。


これを使ってドアが開かないようにすれば鍵になる、とはさすがに思わない。


これは無視して、2段目をあける。3万円が入っていた。


これで市販の鍵を買ってドアにつければいいのか。


ドアを開けると、目の前にホームセンターがあった。


部屋を出て、ホームセンターに入り、鍵を買う。


公共のトイレで見るような、簡単なスライド式の鍵である。


取り付け方は簡単だったので、早速取り付けた。


鍵のついたドアに満足して、眠りにつこうと思った。


眠りにつくには、鍵が必要だ。やはり鍵がないと安心できない。そうだ。


眠りにつこうと目を閉じたが、すぐに目を開けてもう一度ドアを見ると、鍵は消えていた。


落ちたとか、壊れたとか、そういうことじゃなく、消えていた。


これは、常識では説明できないことだ。


不可解だが、考えることをあきらめて3段目の引き出しを開けることにした。


驚くべきことに何も入っていない。


4段目。南京錠のセットが入っていた。


これならば。と、早速取り付けた。


今度こそ、と眠りにつこうと思い、横になった。


目を閉じた。


しかし、ふと、明かりが気になって目を開けた瞬間のことだった。


これはもはや完全なる恐怖体験と言ってもいいだろう。南京錠は消えていた。


なんということだ。


引き出しの最後、5段目に突入した。


やっと、普通の家についているような、鍵穴の付いたドアノブを見つけた。


これを取り付ければ・・・


待てよ。取り付けた後、目を閉じて開ければまた鍵は消えてしまうに違いない。


それはさっきまでの出来事からの直感だ。


何が悪いのか。


どうして鍵は消えてしまうのか。


消えてしまいたいときって、なんだ。


俺は目覚める前、つまりこの空間に放り出される前の、普段の生活を思い出した。


そうだ俺は、仕事でミスをすることが多かった。


それで、上司の信頼を失いつつあった。


それで、昨日(にあたるはずの日に、)たまには出来るところを見せなければと、


普段の数倍働いた。


しかし、上司の顔は曇ったままだった。


ミスこそなかったが、やはり普段の事があるからだろう。


ほめられはしなかった。俺は悲しくなった。会社から消えてしまいたくもなった。


そうだ。消えてしまいたくなったのだ。


だからか?


こんな訳の分からない部屋に飛ばされたということは、


現実から消されてしまったということなのか?


消えるのは鍵だけでいい。俺は元の世界に戻りたくなった。


同時に、もう一つ気づいた。


鍵が消えるのは、信用されていないからなのではないか?


鍵が消えたときはどちらも、俺が心配して目を向けたときだ。


そうか、鍵を信用してやって、すぐに眠りについてやればいいのだ。


よく考えれば、俺の仕事のミスの原因は、俺が心配性過ぎることなのだ。


要領が悪く、思ったように事が運ばない。


加減が大事なのだ。


なんだか分からないが、鍵から俺に課せられたこの「試練」は、


そんな俺の心配性を直そうという、そういう心意気から生じたものなのではないか。


そう思うと、やってやろう、という気持ちになった。


俺は鍵を取り付け、そして床に横になり目を閉じた。


とはいえ、性格はそうは簡単には変わらない。


なんとなく、玄関が気になる。目を開けてしまいたくなった。


それをぐっとこらえ、ひたすら目を閉じ続けた。


何分、いや何時間経っただろうか。それは分からなかったが、急に強烈な眠気が襲った。


やった。眠れる。俺はついに眠りについた。


俺は再び目覚めた。周りは暗い。


近くにスイッチがないか探すと、慣れた位置にスイッチが見つかった。


明かりをつける。


見慣れた光景。


そうだ。俺は自分の部屋に戻ってきたのだ。


心配性に打ち勝ち、あの部屋の鍵をかけたまま眠りについたのだ。


これからは、鍵をかけたかどうか心配して何度も起きる事がなくなるだろう。


そう思った。

 

さっきのは何だったのだろう。


夢なのであろうが、どうも、実際にあの不思議な体験をしていた気もする。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その体験をした日から、仕事が捗っている。


やっと、上司の信頼を得て、以前より大きな仕事を任されるようになった。


俺はあの体験を、心配性な俺を鍵のかかる部屋に閉じ込めて出てこないようにしたのだと解釈している。


一つ心配があるとすれば、心配性な俺は、


あの部屋から出たがって無理矢理鍵をこじ開けるかもしれないことだ。


しかし、そうなっても、きっと俺はその「別の俺」を閉じ込める事が出来る気がした。


しかしいい事ばかりではない。あの日から無性にいろんな鍵を開けてみたくなる。


他人の家、夜間金庫、その他、開けては行けないものもろもろ。


心配性な俺の、鍵を開けたいという欲求からくるものかもしれない。


これと戦わなければ行けない日々は、しばらく続きそうだ。


ここまで考えて、俺は一人で笑いそうになった。


こんな事考えてるのも、おかしいな。


俺は気を取り直して仕事に取りかかった。


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