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     Romanov & Hapsburg-4 でぶちんロマノフ

 あっという間に、ロマノフはハプスブルグより大きくなってしまった。


 ロマノフはレスリングが大好きだけれど、ハプスブルグはあまり好きではない。

それでもハプスブルグはお兄ちゃんなので、ロマノフに付き合ってやっている。

ところが、成長過程のロマノフは、どんどん大きくなる自分を把握していない。

しかも、いつも全力投球だ。

マッチョータイプでない貴公子のハプスブルグは、そんなデカ弟をもてあまし始めた。


 さらに、粗野なロマノフは春に目覚めたらしく、

中性っぽい美形のハプスブルグに、妙な勘違いをし始めた。

と言う事で、私たちは、我が家の平和のために、早々に、去勢の予約を取ることにした。


 手術前日の夕方、猫ちゃんたちは動物病院に連れて行かれ、手術翌日の午後に引き取られた。

帰ってきた2匹は、やれやれという感じだった。

看護士さんによると、ここでもハプスブルグはお兄ちゃんぶりを発揮したらしい。


 図体がデカいだけの弱虫ロマノフは、当然、病院でも怖がった。

ハプスブルグは、自分より大きくても縮こまっているロマノフを上から覆って隠そうとする。

とは言っても、大きい亀の上に、小さい亀が乗っかっているようなもので隠せるはずはない。

しかも、病院の、しかもケージの中で、いったい誰がロマノフを襲うというのだ。

ハプスブルグは、麻酔が切れて自分も具合が悪いのに、弟思いの兄は一生懸命だった。


 さらに看護師が手術後の経過を診るために、二匹をケージから出して歩かせると、

ハプスブルグはロマノフを壁側に押し付け、

まるで一匹の猫のように並んで、さささっと歩いたそうだ。


 ところで、帰ってきたばかりのハプスブルグは、

直りかけた傷口がかゆいらしく、やたら局部を舐める。

そこで再び病院に連れて行かれ、かゆみ止めの注射を打たれ、かゆみ止めのパウダーを出してもらった。

エリザベスカラーも着けられたけれど、すぐに自分で外してしまった。


 私は、頻繁にハプスブルグをひっくり返し、

局部に、トントンッとパウダーの容器をたたいて、かゆみ止めの粉をふる。

ハプスブルグもかわいそうだったけれど、私自身、「何でこんなことをしているんだ」と、

ちょっと情けないような気分になってしまった。

ハプスブルグの**のあった所には、

小さな可愛い傷跡が、てんてんと、二つ仲良く並んで付いていた。


 とにかく去勢の効果あってか、ロマノフの春は落ち着き、我が家に再び平和が戻ってきた。

そして成長過程にあったロマノフは、その後もどんどん大きくなっていった。

大人となった今でも、たまにハプスブルグを襲う。

が、パシッと怒られて、しゅんとする。

そして、引き続き、大好きなレスリングで遊んでもらってドタバタと騒いでいる。


 そんなロマノフを見ていると、本当にお兄ちゃんが好きなんだなと思う。

ロマノフには、自分が上になろうだなんて野心はこれっぽっちもない。

何の考えもなく、ただ無邪気に遊んでいるだけだ。


 さて、この二匹はもともと外猫にするつもりだったので、

少しずつ外に出し始めることにした。

初めは裏庭だけ。

道に飛び出さないように気を付け、しばらく遊ばせてから、家に入るように名前を呼ぶ。

ロマノフは、ちょっと匂いを嗅いで回った後、ただそこで丸くなって座っている。(隠れているつもり)

緑の草がいっぱい敷き詰められた裏庭で、

白黒柄のクッションでも落ちているかのようなロマノフを見つけるのは、簡単だった。

呼ばれたロマノフは、「やっとお家に入れる」と嬉しそうだ。


 反対に、木に登ったりして、外を満喫していたハプスブルグは遊び足らない。

捕まえようとすると逃げるので、私はゆっくりと追いかける。

家の周りを三回ぐらい回って跡を付けると、諦めて自分で裏ドアへ行く。(近所の人が見ていたら、当然、私たちを変に思うだろう)

その内、道には飛び出さないようなので、もっと長い時間、ほっておくようにした。


 ところが、ハプスブルグは、どこへ行くのか、だんだん姿が見えなくなってきた。

名前を呼ぶと、どこからともなく、忍者の様に、ふいっと現れる。


 そんなある日、どんなに呼んでもハプスブルグは帰って来なかった。

ロマノフはその夜遅くまで、悲しいくらいに、何度も何度も薄暗い裏ドアの方を覗く。

私たちは、ハプスブルグの死を覚悟した。


 そして次の朝になって、ハプスブルグは、物置小屋からひょいと出てきた。

ハプスブルグが、夜通し何をしていたのかは知らないけれど、

私たちは、この日、二匹を、外猫にするのはやめた。


 残念ながら、ロマノフは外に順応できそうにもない。

かといって、ハプスブルグだけを外に出すわけにもいかない。

そう思い初めていた時の、この事件だった。


 そんなある日、ベッドルームの窓の外側で、

目を真ん丸くしたパニック状態のロマノフを見つけた。

「どうやって外へ出たの?」と思ったら、

台所の小さな窓の網戸がちょっと開いている。

どうも、そこから落ちたらしい。


 その窓は、外からとても気持ちの良い風が吹いてくる。

二匹の猫たちはそこに座るのが大好きだ。

ところが、座っている内に、網戸に寄りかかり、戸が開いて落ちてしまったのだ。

しかもその台所の窓は、外からは高過ぎて戻れない。

ハプスブルグは一回で学び、その後はそこに座っても、二度と落ちる事はなかった。

ところが、ロマノフは学ばない。


 落っこちたロマノフは、慌てふためいて中へ入れる方法を探す。

裏ドアは締っている。

ベッドルームの比較的に低い窓が開いているのを見つけた。

「やったー!」と思ってそこにジャンプして上る。

が、網戸が邪魔して中に入れない。

怖さのためか、すでに声は出ない。

網戸をスクラッチして、想像上の敵に悟られては元も子もない。

耳を後ろに向けて、後ろを気にしつつ、ただひたすら気付かれないようにじっと待つ。

いや、ご主人様たちには気付いてもらいたい。

と、まあ、そういう所を発見された訳だ。


 そして、落ちる度にそれを繰り返す。

「何で同じ災難を何度も繰り返すの?」と理解に苦しむ。

その内、目の下に三日月のような傷まで付けてしまった。

結局、窓の網戸に鍵を付けて問題は解決した。(初めからそうすれば良かったのだけれど)


 このようにして、家の中で、のんびり幸せに暮らし

問題が起こる度に他人(猫)に解決してもらうロマノフは大きくなりすぎた。

歩く時も、ドシドシと音がするのでお相撲さんみたいだ。

それで獣医から減量するように言われてしまった。

ところが、問題は減食できない事だ。


 ロマノフは、がつがつ食べるけれど、ハプスブルグは、楚々と上品に食べる。

しかもロマノフの食べっぷりに食欲を失い、プイッといなくなる。

そして、餌がなくならないことを知っているハプスブルグは、後で戻ってきて一匹で静かに食べる。


 ロマノフは子猫の時、兄弟姉妹の内で一番小さく貧弱だったので、

大きくなっても、慌てて満腹にしようとするのかもしれない。

とにかく、ハプスブルグの餌まで食べてしまうので、減食は不可能だ。

「ますます太ったロマノフと、やせこけたハプスブルグ」

という展開になるのは目に見えている。


 そこでティムは、ロマノフにエクササイズをさせることにした。

ここで、なんと、ロマノフの「怖がりと学ばない性格」が、役に立つことになる。


 先ずティムは、ロマノフを裏庭の端っこに連れて行き、そこで離す。

ロマノフは安全な家の中へと、一目散に裏ドアへ向かって走る。

なのにドアは閉まっている!

ティムは、中に入れなくておろおろしているロマノフを捕まえると、再びスタート地点に戻る。

しかもそれを、毎日十回も繰り返す。


 数ヵ月後、再び獣医に診てもらったロマノフは、一キロ以上体重が減っていた。

獣医がびっくりして、どうやったのかとティム聞いた。

獣医の猫も減量が必要なのだけれど、うまくいかないらしい。(八匹もいる)

とは言うものの、参考にはならなかったと思う。

ロマノフの、その時、唯一の、野性味のある走りは、とても美しかった。


 獣医の言葉に気を良くしたティムは、もっと効果を上げようと、ロマノフを公園に連れ出した。

フリスキーも何事ぞと付いて行く。

ところが、あまりに広すぎるので、ロマノフは、

子供用サッカ−グランドの、真ん中に座り込んでしまって動こうとしない。

ティムが、一生懸命励まし、ついにロマノフは走り出した。


 「バーン!」 

ロマノフは、公園のワイヤーフェンスに思いっきり、しかも真正面にぶつかった。

ワイヤーフェンスから透けて見える我が家に向かって直行し、フェンスを回って出口を探るなんて余裕、もしくは頭はない。

今や、何が起こったのか分からないロマノフは、もうパニック状態で腰がぬけて動けない。

ティムはあわてて駆け寄る。

一部始終をじっと見ていたフリスキーは、

「やれやれ」と言わんばかりに、来た方向へと戻って行った。

この計画は失敗に終わった。


 もちろん私たちは、ロマノフのエクササイズのために、おもちゃも色々揃えた。

ペットボトルの蓋とか、身の回りにあるものでも結構楽しく遊んでいる。

ロマノフは、熟していない緑色のチェリートマトで遊ぶのが好きだ。

ころころと転がして、どたどたと走り回る。

トマトは真ん丸ではないので、真っ直ぐには転がらない。

だから、あたふたとトマトを追いかけるロマノフは、

見ているだけでも飽きない。

ある日、ロマノフの顔が何か変だなと思ったら、

小さな緑のトマトが、口いっぱいに入っていた。


 ハプスブルグは、減量の心配はないけれど、何を考えたのか、

ベッドの縁を使って背中をストレッチをしているティムの横で真似をする。

あまりにも面白いので、私が写真を取ろうとしたら、あわててこっちを見た。


 時は過ぎロマノフは、誰も自分の餌を狙わないので、がっつく事もなくなり、

もはや太り過ぎではないと獣医に言われた。

ちゃんと腰の括れも確認できる。

それでも、引き続き大きな猫なので、私はそのまま

「チャビー」とか、「デブチン」なんて言ったりしている。

ティムはそれが気に入らない。

その度に、

「違う! 獣医は、もともと大きいサイズの猫だ、と言った。」

と反論する。

とにかくロマノフは、今の所、メタボの心配はなさそうで、私たちは嬉しい。


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