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     葡萄の枝-2 パージャ (Purrsia)

 肌寒くなった十月下旬、帰宅したティムは、、

「とても、人懐っこい猫がいた!」と、高揚した口調で言った。

白いペルシャ猫だそうだ。

一年前から、ある家のガレージに住み着いていると言う。

そこの家の人は、犬と猫を飼っていたので、このホームレスの猫にも餌を分けてやっていた。

家の人は、ティムに話しながら、開いたドアの隙間を足でふさいでいる。

猫は、家の中に入りたかったのだ。


 私が、「その猫が欲しいんでしょう? 連れてきたら?」

と言うと、ティムはすっ飛んでいった。


 フリスキーが死んで、まだ三ヶ月も経ってない。

ティムは、かなり前から、

「フリスキーがいなくなったら、フリスキーの後釜を迎えたい」と言っていた。

ところが、私たちには、三匹の猫と四匹の犬がいたし、ココも預かっている。

「次を迎えてもいいけれど、今いる年上の子たちを見送ってからにしましょう」

と答えた私だったのに、簡単に折れてしまった。

フリスキーは、ティムにとって特別な猫だったのだ。 


 さて、連れて来られた猫は、車の後部座席のダンボール箱の中で縮こまっていた。

白い毛は汚れていて毛玉だらけだ。

目頭は目やにで真っ黒だし、耳も汚れている。

当然、ノミもいっぱい付いている。

それで、"Kritter Klips"(ペギーのグルーミングショップ)に連れて行かれた。


 数時間後、丸刈りにされた猫は、綺麗になって戻ってきた。

ペギーが言うには、健康な三歳ぐらいのメスで、避妊手術の跡もある。

とにかく、この猫は、やっと家の中に入れてもらえた。

私たちは、バスルームに砂箱と餌、水を準備する。

猫は、バスルームと隣のウォークイン・クローゼットに、こもりたいらしい。

それで、隠れ家としてペットキャリーも置いてやった。


 短毛となったこのペルシャ猫は、鼻と目の色以外はタイニーに似ている。

性格も、タイニーのように優しい。

ティムは、この新参猫の名前をパージャにした。

英語で、ペルシャは、パージャという。(Persia)

また、この猫は、良く喉をゴロゴロと鳴らす。(Purr)

だから、二つの語を合わせてパージャなのだ。(Purrsia)

英語では、なかなか良く出来た名前だと思うけれど、

日本語で考えると、「パーじゃ!」で、ちょっと笑ってしまった。


 パージャを一週間隔離した後、他の猫たちに会わせた。

ロマノフとハプスブルグは、怖がっているパージャを刺激しない。(その後ハプスブルグは、パージャの隣に座るようになった)

レディジェーンとは少し騒動があったけれど、ミスティーやタイニーの時のようでは無い。

そうして、バスルームのお姫様・パージャは、行動範囲を広げ、

ベッドの下にも落ち着き場所を見つけたりした。


 そんな時、犬たちと、ちょっとした騒動があった。

夜、犬たちはベッドルームのケージで寝る。

ある夜、ベッドルームに入ってきた犬の一匹が、

ベッドの下に隠れているパージャを見つけてしまったのだ。

びっくりしたパージャは犬を威嚇し、犬たちは徒党を組んでパージャを追いかける。

パジャーは、ベッドの上に逃げた。

すると、ナナが先頭を切ってベッドの上に乗る。

パージャがベッドの下へ降りると、犬たちも後を追って降りる。

こうして、ベッドの上と下を二~三度回転すると、犬たちは混乱し、

パージャは、するりとバスルームへ逃れた。

後に残されたナナは、ベッドの上で「?」の表情をする。

他の犬たちも、うんざりしたらしく、もう、どうでも良かった。


 元々、うちの犬たちは、猫が威嚇しなければ何もしない。

猫たちも、ティーとフィニーに対しては、威嚇しない。

ティーとフィニーが猫たちのいるベッドに乗ってきても、猫たちは怒らない。

たまに、フィニーがベッドルームで吠えていることはある。

何事ぞと思って行くと、ベッドの上の猫たちの近くで、フィニーが意味もなく吠えていた。

フィニーだけでは、相手にされないらしい。


 ティムがベッドの上で読書をしていると、

猫たちは、ティーやフィニーとベッドの上で寝ていたりする。

最近は、お隣のレクシーもベッドの横にいる。

レクシーに猫を追いかけないように教えるのは、ちょっと手間がかかった。

もちろん、今でも、うっかりすると猫を追いかける。

もっとも、レクシーは、騒動を起こせば自分の方が追い出されるのは分かっている。

だから、おとなしくせざるを得ない。


 レクシーは、毎日のようにうちにいる。

「隣に住んでいる親戚の子」と言う感じだ。

ところで、ヨーキーとは違って、ゴールデンの抜け毛は多い。

それで、私たちは、レクシーの抜け毛の掃除に忙しくなってしまった。

レクシーが、そのふさふさの尻尾を振る度に、何かが飛んでいる。

その時、レクシーの後ろを通るちっこいタフィーは、ビシバシと尻尾のパンチを受ける。

そんなタフィーは迷惑顔をする。

「後ろを通るんじゃない!」と言いたいけれど、礼儀をわきまえているタフィーらしい。

もちろん、メス犬レクシーのお尻チェックの時も後ろにいる。


 その後、預かっていたココは、我が家の犬に戻った。

ココは、フィニーとは違い、猫が気になる。

初めは、ココもパージャを追いかけていたけれど、ベッドの上はパージャが優先される。

ココは、それをすぐに悟った。

そこでは、レディジェーンにもちょっかいを出さない。


 ココだけは、私たちとベッドで寝ることを許されている。

指示をすれば、いつでもキャリーに行くし、

明け方には、自分でキャリーの中に入って寝る。

キャリーの戸が開いていても、その前を行くパージャを追いかけない。

ココは、謙虚さ(?)のあるヨーキーだった。(食い意地だけは張っているけれど)

そのココのケージで、レディジェーンは昼寝をする。

そんなレディジェーンとココは、お互いをつつき合う姉妹たちのようだ。


 さて、パージャは、ゆっくりと、ここの生活にも慣れてきた。

夜は、フリスキーのように、私の枕に乗って寝る。

それで、フリスキーが使っていた枕をパージャ用にした。

パージャは、毎晩、私の枕の横の、自分の枕の上で寝る。


 丸刈りだったパージャの毛も伸びてきて、ゴージャスなペルシャ猫に変わった。

とは言うものの、ペルシャ猫の毛は手入れが必要だ。

フリスキーが死んだ後、私は、次の猫は、レディジェーンのような短毛猫がいいと思っていた。

それでも、ミスティーのゴージャス観、タイニーの優しさ、フリスキーの私の枕で寝る癖、と、

失った三匹の猫が戻ってきたようで不満はない。

ないのだけれど、「フリスキー・再び」と言う感じだ。


 パージャがホームレスになったのは、タイニーが死んだ頃かもしれない。

そして、パージャは、私たちにめぐり合うまで、お家の中で住みたいと思っていた。

家の中が好きなのだ。

避妊手術もされたペルシャ猫が、どうしてホームレスになったのかは知らないけれど、

飼い主は、パージャを失って悲しかったと思う。

動物保護センターに問い合わせても、飼い主を見つけるのは難しいと言われた。


 私とティムは、数年経っても、未だに、盗まれたフェニーのことを思っている。

最近、私たちは、フェニーに似た犬を連れた男性が、散歩しているのを見かけた。

ティムは、ナナを連れてその犬に近付いてみたのだけれど、フェニーではなかった。

どんなに様変わりしていても、ナナにはフェニーだと分かる。

私たちも、忘れない。

フェニーが幸せであれば、返して欲しいとは言わないけれど、

せめて、どうしているのか知りたいと思っている。


 一緒に過ごした子たちのことは、時々、ふっと思い出したりする。

先日、日本の母と電話で話していたら、前の家で、外から入ってきたフリスキーが、

自分の椅子にトンッと乗って、そこで昼寝をしていたのを覚えていると言う。

写真を捜してみると、椅子の上で寝ているフリスキーがいた。

私も、フリスキーが私たちを待っていた道を通る時、

もう何年も前のことなのに、今でも、ひょいっと、フリスキーが飛び出して来るような気がする。


 私たちがフリスキーに出会ったきっかけは、引越しだったけれど、

引越しによって、自分のペットを失う人たちもいる。

ある家族は、引越した後、それまで飼っていた二匹の猫を、外で飼うことにしたそうだ。

立派な新築の家で、家の中に猫の毛を入れたくないと、ご主人が決めたのだ。

しばらくして、一匹の猫はその家を去り、もう一匹も時々しか姿を見せなくなった。

そして、奥さんは、数キロ先で見かけたという痩せた自分の猫を必死で捜した。

私も手伝ったけれど、見つからなかった。

そこの庭はかなり広く、まだ大人になっていない元気な犬が走り回っていた。

猫は、元の家に戻ろうとしたのかもしれない。

飼い主の、この扱いは、猫の習性を知っていたとは思えない。

とは言うものの、私にはどうすることもできない


 逆に、日本のある友人は、迷子の鶏たちを世話していた。

初め、一羽がやって来たので、門に迷子の札を掛けたそうだ。

ところが、数日後にまた一羽と、だんだん増えていき、

私が訪問した時は、その美しい日本庭園に十羽ほどいたと思う。


 私たちが、応接間でお茶を飲んでいると、タタタッと鶏の一団がやって来て、

応接間の、開いたガラス戸の外に立ち止まり、私たちを見つめ、それから去っていく。

そして、反対側からやって来た別の一団が、また立ち止まって私たちを見つめる。

私は、お茶を飲みながら、私たちの方が動物園の動物のように思えた。

その家族は、居座ってしまった鶏たちのために、娘の部屋の前に止まり木を作ってやったそうだ。

すると、鶏たちは、朝早く、その部屋の窓に向かって、けたたましく鳴くようになった。


 人が飼っている動物は、人を好きらしい。

だから、人と一緒にいたがる。

反対に、野生の動物は、人といるよりは、美しく、力強く、自然の中で生きようとする。

私たちと一緒にいてくれる動物は、神様からのプレゼントなのだ。

私は、そんな子たちに、私たちの中で、幸せに暮らして欲しいと思っている。

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