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     ティーの子犬たち-4 隣犬騒動・番外編

 ティーとフィニーは、ゴールデンレトリバーのレクシーが大好きだ。

レクシーは、隣のメス犬で、うちへ来ると、ティーとフィニーの大歓迎を受ける。

いつもウザイほど口を舐められるレクシーは、迷惑そうなのだけれど、怒ったりしない。

レクシーの口の中に、フィニーが、その小さな頭を突っ込んで舐めていた時にはびっくりした。

レクシーの下唇が、フィニーの小さい鼻で押され、ビヨーンと伸びていた。


 さて、レクシーがやって来たのは、数年前だ。

お隣のルイーズが去り、寂しいと思っていたら、

二匹の大型犬と共に、二十歳代の男性が引っ越してきた。

二匹目は、クーマという名のオスのラブラドールレトリバーで、彼の婚約者の犬だった。


 すぐに二匹は、裏庭から脱走し、うちの前をうろうろするようになる。

クーマは、自信みなぎるオス犬といった感じで、あっという間にティムと私に慣れた。

レクシーの方は、用心深いらしく、慣れるのに少し時間がかかった。


 レクシーとクーマの間には、二回、子犬が産まれた。

二回目に妊娠したころ、クーマのご主人様は世話が出来なくなり、(彼女は、通いながら犬の世話をしていた)

クーマは、よそに引き取られていった。

それからしばらくして、四匹の子犬が産まれた。


 飼い主と婚約者は、子犬が、きちんとした人に引き取られるよう一生懸命だった。

ところが、最後の一匹の引き取り手は、なかなか見つからない。

そうして子犬は、人間で言えば、小学生ぐらいの年頃となり、

レクシーママと一緒に脱走し始めた。


 私やティムが犬の散歩に出かけると、レクシーは付いてくる。

初め、子犬は、家から少し離れるとそれ以上は付いて来なかった。

ところが、ある日、ついに、レクシーママと一緒に後を付けて来た。

心配だけれど、私にはどうする事もできない。

飼い主も子犬の脱走を知っていたし、遅かれ早かれ起こることだった。

自然界で、子供は、親に従っていれば守ってもらえる。

子犬にとって、レクシーママに付いて来ることは重要だった。


 私たちは公園で湖を一周する。

そして子犬は、そこで会ったおばあさんと、二人の小さなお孫さんたちと仲良くなった。

私たちが公園から離れようとすると、子犬は付いて来ない。

レクシーママは、子犬を呼んで連れて帰ろうとする。

それでも子犬は来ない。

私たちは、どんどん離れていく。

レクシーは、私たちと子犬との間を行ったり来たりしていた。

そして、ついに子犬をあきらめ、私たちと共に帰路についた。

そうして、その子犬は迷子になってしまった。


 次の日、お隣の婚約者に、子犬を見なかったかと聞かれたので、公園でのことを説明する。

そして数日後、公園で、あのおばあさんに会ったので、子犬について聞いてみた。

おばあさんも、子犬は家に帰ったものと思っていたそうだ。

とても良い性格の子犬だったし、孫たちに飼いたいとせがまれたとも言っていた。

ところが、自分も犬を飼っている。

そして、孫たちの家は遠くフロリダにあり、

大型犬を二匹飼っているので、子犬を引き取るのは無理だった。


 ティムも、犬の散歩をしながら子犬を捜した。

すると、子犬を保護しているという張り紙を見つけた。

ティムは、すぐに携帯で連絡し、子犬は無事に戻ってきた。

しかも、保護した人の弟のガールフレンドが、この子犬をとても気に入ったそうで、

三日後にそこへ引き取られていった。

なかなかご主人様が見つからない最後の子犬だったから、ほっとした。


 私は、お隣さんに、レクシーに避妊手術をするよう勧めた。

そして私は、レクシーは避妊されたものと思っていた。


 さて、フィニーにとって初めての夏になり、

隣に、ピーカという名前のスプリンガースパニエルがやって来た。

知り合いの犬を預かったそうだ。

二匹は共に脱走すると、我が家へやって来る。

その夏、我が家の表は、この二匹の犬たちで占領され、

私のオフィスの窓の外に置かれたベンチは、格好の昼寝用ベッドと化した。

ティムは、時々、裏のウッドデッキに二匹を入れてやり、うちの犬たちとも遊ばせる。

その内、この二匹は、うちの犬のようになってしまった。

そして驚いたことに、二匹は、ほぼ同時に発情期を迎えた。


 ところで、我が家には、去勢されていないオス犬タフィーがいる。

恋の季節に突入したタフィーは、まさに狂わんばかりだった。

とは言っても、体の大きさが違から、妊娠はありえない、と私は思っていた。

しばらくすると、ピーカには妊娠の兆候が現れ、飼い主のところへ戻された。

そして、レクシーのおっぱいも大きくなっていった。


 十一月のある朝、珍しく早い霜が降り、寒い日だった。(フィニーは一歳になった)

昼近くになって、ティムは犬の散歩へ行くことにする。

この頃までに、ティムは、レクシーもついでに散歩に連れて行くようになっていた。

私が隣の門を開けると、いつもそこで待っているレクシーがいない。(脱走経路はふさがれていた)

私は、門を閉め、「レクシーは家の中にいるらしい」とティムに告げ、家へ向かう。

ふと、違和感を覚える。

私は戻ると、門から裏庭に入った。

レクシーは、家の壁沿いに掘った穴に横たわっていた。

そして、なんと、子犬が産まれていたのだ。


 私は、隣の家のドアベルを何度も押し、ドアをたたく。

しばらくして、やっと飼い主が出てきた。

彼は、夜中の二時に帰ってきて、レクシーを中に入れるのを忘れて寝てしまったそうだ。

彼の頭は半分寝ているらしく、話が通じない。

それで「私が何とかします」と言って、家へ戻り

ペギーに電話をかけながら、再びレクシーの元に行くと、

お隣さんは、やっとレクシーがお産をしたのに気付いたらしく外へ出てきた。

しかも、なぜかレクシーに水をやろうとして、誤って子犬に水をかけてしまった。

ペギーは電話で、「子犬を暖かい家の中に入れるべき」と言う。

ドア付き犬小屋もあるのに、レクシーは、できるだけ暖かいところでお産をしようと、

ガス暖炉の暖かい空気が家の外へ抜け出る「空気抜け」の下に穴を掘っていた。


 お隣さんは、私に申し訳なさそうに、「自分で世話する」と言う。

「それでは、お任せして・・・」と私は思ったのだけれど、

この、まだ半分眠っているかもしれない飼い主に、任せてよいのか不安だった。

「初めてではないので大丈夫」と、彼は重ねて言う。

ところが、そこに立ったままで、何もしない。

「子犬を家の中に入れないの?」と聞くと、

「母犬から子犬を取り上げたら、どんな反応をするか分からない」と答える。


 「では私がやります」と私は言った。

そして、穴の中に横になっているレクシーの片足を持ち上げ、子犬を拾うと、

ホイホイと彼に渡した。

子犬は四匹いた。

それから家の中に連れて行き、部屋の角にブランケットを敷き、子犬をレクシーに抱かせる。

レクシーはこの後、もう一匹生んだので、五匹になった。


 子犬たちは歩き回るようになると、外の犬小屋に移された。

子犬たちは、ふかふかのベージュ色で可愛いのだけれど、なぜかおっさん顔だった。

子犬たちの父親は、思っていた通り、タフィーがいつも警戒している、

あの近所の、チャウMIXだったのだ。


 ティムと私は、子犬たちの衛生も気になっていた。

お隣さんは、仕事が忙しいので、子犬の世話が思うように出来ない。

そして、ついに見かねたティムは、犬小屋とウッドデッキを掃除し、

犬小屋の中の、湿って汚れたマットレスを捨てて、寝わらを敷いた。

寝わらのアイディアは、ペギーが教えてくれた。

千円ほどで、かなりの量のわらを買えた。

子犬たちも、アルプスの少女ハイジのような、ふかふかのベッドで大喜びだった。(お隣さんも喜んでいた)


 その後も私たちは、水を換えたり、掃除をして寝わらを換えたり、遊んだりもした。

こちらのウッドデッキからも、子犬たちの遊ぶ様子が見れる。

時には、五匹がコロンコロンと、おにぎりのように並んで座っていた。

そうして、子犬たちは大きくなっていった。

今回も、子犬の引き取り手を心配したけれど、飼い主の婚約者の必死の努力もあって、

子犬たちは、無事に巣立っていった。


 ところで、ピーカの生んだ子犬たちだけれど、聞いた話では、

ロットワイラーのような子犬だったそうだ。

うちの近所の二件でロットワイラーが飼われているけれど、それらはメスたちだ。

ヨーキーの子犬はロットワイラーに似ている。

タフィーの子供かもしれない。

子犬が成長すれば、はっきりするのだけれど、結局、分からずじまいだった。


 ピーカはタフィーに関心があったけれど、レクシーは全くなかった。

どう考えても、大型犬のゴールデンが、ちんけなヨーキーに恋をするはずはない。(ヨーキーはチワワの次に小さい)

ところが、次の年の夏、予期せぬ事態となった。


 八月の最後の週末に、お隣さんは結婚した。

そして私たちは、その前後数ヶ月の間、レクシーを預かっていた。

そこまでは良かったのだけれど、

彼らがハネムーンに行っている最中に、レクシーは再び発情してしまったのだ。


 また妊娠されては困るので、レクシーを外に出すのは内庭だけだ。

チャウMIXは、何とかしてレクシーの元へ行こうと、隣の裏庭にまで入り込む。

それで我が家の四方は、このオス犬に一週間以上ウロウロされてしまった。

もちろん、タフィーは怒り狂う。

ついでに他の犬たちも、ワァーワァーキャーキャー騒ぐ。

レクシーはといえば、まるでロミオを待つジュリエットの如くチャウMIXを待つ。

我が家のウッドデッキは、ジュリエットのバルコニーと化していた。

そこから、ロミオの家の裏庭が見えるのだ。


 そして、いつまで待ってもやって来ないロミオをあきらめたレクシーは、

「ちっ、しょうがない、こいつで我慢するか。」

とでも言わんばかりに、タフィーを受け入れる。

ところが、タフィーは小さすぎるので届かない。(レクシーが伏せると、今度は低すぎる)

結局、レクシーは妊娠しなかった。

私は、ただひたすら、「不幸中の幸い」と安堵した。

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