表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/53

     ティーの子犬たち-3 フィニー(Finny)

 お調子者のフィニーは可愛い。

優しい性格で、愛想が良く、誰とでも仲良くしたがる。

できれば、先住猫たちの、お友達にもなりたかったけれど、

猫の方は、犬、特に子犬と仲良くするつもりはないので、ふられてしまった。


 フィニーは、犬のアルファになる気はない。

アルファは、偉くて、皆からも一目置かれたりする。(特に狼の世界では)

それと共に、皆の安全を守るという大切な責任も担っている。

ところがフィニーは、別に偉くなりたくないし、そんな責任も面倒くさいだけだ。

自分を世話をしてくれる人間さえ、しっかりしてくれたらOKで、後は、可笑しく楽しく過ごしたい。


 そんなフィニーだけれど、変に頭が良いところがあった。

例えば、紐の付いた猫用おもちゃで遊んでやると、

初めは追いかけていたのに、すぐにそのパターンを読み取り、先回りしてキャッチする。

(ココは、まじめに後を追って遊んでくれる)


 フィニーは、ひ弱な子犬ちゃんも演じる。

寒がりで、いつも誰かにくっついている。

また、ちょっとのことで、「キャーン!」と悲鳴を上げる。(それはパパ譲り)

そして、「人間の膝は自分のもの」と言わんばかりに乗ってきて甘える。 

うるさくして、ティムに部屋から閉め出されようものなら、

いつまでも「フューン、フューン」と哀れな声で鳴き続けて同情を買おうとする。

哀れ声もいろいろで、「ヒュン・・・ヒェン」と、まるで蚊の鳴くようなのもある。 

かと思えば、鏡や窓ガラスに写った自分を、よそ者と勘違いし、雄々しくしっかり吠える。

そんな、小ざかしい性格が、成長と共に膨らんできた。


 まさに、タフィーパパとティーママの遺伝子を受け継いでいる。

その性格は、兄と妹が生家を去り、一人っ子になった時、頭を持ち上げてきたらしい。

次男坊のフィニーは、「我が家で一番可愛い子犬」という輝かしい座を得たのだ。


 フィニーは、ナナに対しても低姿勢だ。

それで、ナナに怒られることなく、すくすくと育っていった。

ティーママの愛情を独り占めにし、遊んでもらい、一緒にお昼寝をする。

夜も、ママと一緒のケージの中で、ぴったりとくっついて寝る。

ティーママのお尻やお腹は、フィニーの枕だった。

また、ふあふあほうき毛のタフィーパパは、格好のテディベアで、寄り添って寝たりする。 


 ところで、生まれた時に真っ黒だったフィニーの毛は、(ヨーキーだから)

しばらくして、毛の根元が白っぽい毛に変わり始めた。

すると頭のてっぺんが、はげているようになった。

それで、あだ名は「ジャガちゃん」から「パゲ」に変わった。(子犬に「はげ」はかわいそう)

さらに伸びると、お皿が乗っかっているみたいで、「カッパちゃん」と呼ばれた。


 さて、春になり暖かくなると、外へ出る時間も多くなる。

我が家の狭い裏庭は、子犬にとって草原となり、フィニーはジャンプしながら走り回る。

そして、大人たちと一緒に、フェンス越しに近所の犬に向かって吠える。(窓越しの時もある)

ところが、面倒な時には、人(犬)任せにして自分は吠えない。


 ワクチンがすむと、皆と一緒にお散歩へも行く。

外の世界は面白くて、見るもの嗅ぐものがいっぱいだった。

そして疲れると、ティムに抱っこしてもらう。

こうして調子の良いお子ちゃまワンコは、自分の世界を広げていった。


 フィニーの困った問題は、足拭きマットに、そそうをすることだ。

マーキングのつもりかもしれない。

うっかりすると、きれいなのに替えたとたん、振り返ると黄色いマークが付いている。

足拭きマットは簡単に洗えるけれど、カーペットは床に敷けなくなってしまった。


 アルフィーは、この点、問題がなかった。

ところが、聞くところによると、アルファ気質をますます反映して、家を制覇しているらしい。

名前も、ご主人様によって「チューイ」に変わっていた。(Chewy)

所かまわず噛むのでその名が付いたそうだ。


 子犬は歯が生え変わる時、あちこち噛んでしまう。

フィニーもいくらか噛むけれど、時々お泊りに来るココは、手当たりしだいに噛む。

ココが、高価な家具の足を噛んでしまった時、私はガックリした。

ラタン製のペットベッドの端を噛んで、飲み込み、吐き出したこともある。

しかも、ウンチのような形に絡まって出てきた。

その時に付いた鼻の傷跡は、治るのに、ずいぶん掛かってしまった。


 さて、我が家では、人間が食べている物を、犬にお皿からやるのは、ご法度のはずだ。

ところがティムは、目で語ると言うヨーキー、特にフィニーのパッチリお目々を無視できない。

その弱みに付け込もうと、フィニーの頭はますます冴えてくる。

こうなると、人間ティム vs フィニーの戦いだ。

ティムは、フィニーに食事を邪魔されたくない時には、「何とかしてくれー」と私に言う。

私は、何もしない。

蒔いたのはティムだから、自分で刈り取って欲しい。

その後、ティムは、再度その癖を直したのだけれど、犬たちは、しっかりと覚えている。(と言うか、前の時は本当に直したのかも怪しい)

特にフィニーはあきらめていない。


 そうしたある日、お気楽なフィニーが、なんと、

アメリカンピットブルに襲われる、という騒動が起こった。


 その日、私たちは、郊外の、年配の日本婦人宅へ行き、

ティムが電気の付け替えなどの雑用をしている間、

私は、四匹の犬たちを連れて、近所を散歩することにした。


 私たちは、通りから外れると、湖に向かう真っ直ぐな道を行った。

湖の近くで左に曲がると、道は湖に沿って、ゆっくりカーブしている。

そこに歩道は無かったけれど、車通りは少ない。

道から下の方に湖があり、湖畔には素敵な家々が並んでいる。

道の両側から、木々が覆いかぶさるように生えていて、初夏の緑が美しい。

木々の間から湖と家々を眺めながら、私たちは気持ちの良い散歩を楽しんでいた。


 ふと見ると、湖畔の一軒の家の前庭に、繋がれていない大型犬と飼い主がいる。

少し離れていて、私たちに気付いていないようだし、そのまま通り過ぎる。

それからしばらくして、私は引き返すことにした。

元の道に戻るには、このまま行くより引き返した方が良さそうだった。

そして、私は、先ほど見た犬のことなど、すっかり忘れてしまっていた。


 かなり歩いたので、四匹分のリードは絡まっている。

私は立ち止まって、絡まったリードを解き始めた。

突然、犬たちが吠える。

振り向くと、あの大型犬、ベージュ色のアメリカンピットブルが、

私の真後ろに立っていた。


 私は、手のひらを犬の方に真っ直ぐに向け「ノーッ!」と声を上げ、あとすざりする。

ピットブルは、動かない。

そして私は前を向き、サッサと歩き始めた。

すると、また犬たちが吠える。

ピットブルは、私たちに、ぴったり付いて歩いていた。


 そしてピットブルは、突然、フィニーを噛んだ。

と言うより、くわえた、と言った方が正しいかもしれない。

それからピットブルは、"Now, what?"(えー、これからどうしよう)

とでも言うように私を見上げた。

犬たちが騒いでいたので、一番小さいフィニーをくわえたらしい。

フィニーは、もう怖くて、キャーキャー騒いでいる。

私は、ピットブルの首輪のチェーンを引き上げた。

犬、特に大型犬は、首輪を、頭の方に引き上げるように締めるとコントロールしやすい。

ピットブルはフィニーを放した。


 ところが、今度は私が転倒してしまった。

私の足に、吠える犬たちのリードが絡まってしまったのだ。

ピットブルは、今度はフィニーのお尻の方をくわえた。

私は立ち上がると、すぐにピットブルの首輪をしっかり握る。

フィニーは再び自由になった。


 私は、犬の散歩の時、リードを二つのカラビナに通し、それを繋いで出かける。

もし、犬たちがリードにつながれていなかったら、逃げてしまい、

ピットブルに追いかけられ、殺されていたかもしれない。


 そうしている内に、やっと飼い主の若い女性が現れた。

彼女は、少し離れた所から自分の犬を呼ぶ。

私はピットブルの首輪を放すつもりはない。

今は大人しくしていても、次にどんな行動に出るのか分からないからだ。

飼い主も、こちらの犬が吠えているので、近付くのを躊躇している。

私は、「こちらへ来てくれませんか」と頼んだ。

とにかく、私は、知らない犬を信じたりしない。


 ついに、飼い主は近付いてきたので、首輪を手渡す。

彼女は、少し離れると、振り返って、

「私の犬は、あなたの犬を襲おうとしたのですか?」

と聞いた。

私は、フィニーのお腹を調べてみた。

内腿に、牙でひっかかれたピンク色の擦り傷があっただけで、他に怪我はなかった。

「いいえ、きっと、私の犬と遊ぼうとして、騒動になったのだと思います。」

と答える。


 私たちはそこを去ると、湖を後にし、真っ直ぐな道の歩道を足早に歩いた。

犬たちも不安らしく、真剣に付いて来る。

ティーは、いつになく緊張している。

フィニーもティーママの体にぴったりとくっついて、一生懸命に歩く。

遠くで、犬の吠え声が聞こえた。

ティーは、キッキッと辺りを見回し、安全かどうかを確める。


 車通りの多い道路に近付くと、その騒音は、私たちの緊張をほぐしてくれた。

フィニーはやっと安心して、ママから離れて歩き出した。

自然界では、毎日のように繰り広げられている危険だけれど、

フィニーにとっては大冒険だった。

私も、転んだ時に、はいていたジーンズの膝が破れ、擦り傷で血もにじんでいた。


 ティーは愛想の良い犬で、大型犬も好きだ。

ところが、アメリカンピットブルには近付かない。

我が家のお向かいさんがこの犬種のMIXを飼い始めたのだけれど、ティーは怖がる。

無理もないと思う。


 ところが、フィニーは、すぐに立ち直ってしまった。

この騒動から数日後、近所の別の純血ピットブルが表に出ていると、

フィニーは、近寄ろうとするではないか。

私は慌てて止める。

そして「学ばないやつ」と思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ