ティーの子犬たち-2 穏やかな旅立ち
ティムは、うちで飼う子犬の名前を「フィンランド」と決めていた。
短くして「フィニー」と呼ぶ。(Finny)
どうらや「フェニー」の変化形らしい。
ティムは、女の子を欲しいとも思っていた。
ところが、生まれた女の子は一匹だけで、すでに行き先は決まっている。
それで矛先は、生まれた時小さかった長男、ちぃちゃんに向いた。
不憫な子ほど可愛い。
と思っていたら、長男はすくすくと育ち、立派なハンサムボーイになってしまった。
性格も自信に満ちていて、名前もアルフィーに変わる。(Alfie)
となると、ちょこっと話が違ってきた。
アルフィーは、次男坊のジャガちゃんと、追いかけっこや取っ組み合いをして遊ぶのが好きだ。
そして、ジャガちゃんより大きくなると、主導権を握った。
おされ気味になったジャガちゃんは、時々、困っている風でもある。
しかもアルフィーは、ミスティーの水飲みや、砂箱でのプライバシーを邪魔する。
仕方がないので、ミスティーのためにバリケードを作った。(猫は通れても子犬は通れない)
それもアルフィーの成長とともに、次々と突破される。
高齢猫ミスティーは、迷惑していた。
その名の如くアルファ気質を持っているアルフィーは、いずれナナと問題を起こすかもしれない。
さらに、タフィーパパとの関係も微妙になりそうだ。
タフィーが譲るのは女性、もとい、メス犬たちだけなのだ。(ジョージにでさえ譲らない)
こうして、うちに残る子犬は、最も確率の低かったジャガちゃんに決定した。
イモだったジャガちゃんは、フィニーに昇格したのだ。
さて、今回は床がタイルなので、ナナの時とは違い、掃除が楽だった。
ナナの子犬たちを訓練したように、ティーの子犬たちも訓練する。
一応、どこで用足しをするのか教えることは出来た。
ただし子犬だから、大人ほど上手に出来ない。
子犬たちは昼寝をしていなければ、パピーペンから出たがる。
そして走り回る。(特に男の子たち)
遊びに夢中になり、つい、その場でもよおしてしまう。
子供だから仕方が無い。(個々のご主人様たちに、続きの訓練を委ねたい)
次第に、子犬たちは、パピーペンの外で遊ぶ時間が長くなってきた。
夕方になり、仕事を終えたニッキーが来ると、薄暗い玄関めがけて三匹は走っていく。
それはまるで、黒い大きな虫が、ザーッと、獲物めがけて床をすべっていくようで、
「キャーッ!」と、ニッキーは叫ぶ。
怖い映画にでも出てきそうなシーンだ。(これを毎回くり返す)
子犬たちは、ティーママとも一緒に走って遊ぶ。
四方八方、ランダムに走り回り、ドドドッと音がしそうなほど迫力がある。
もちろん、ぶつかりそうにもなる。
ティーは、前方に子犬が来ると、タッとその上をジャンプする。
「さすが母親!」と感心するけれど、
ティーには、ナナのように身を挺して子を守る「昔なつかし日本の母」という雰囲気はない。
どちらかと言うと「金髪ギャルママが子供たちとジャレている」と言う感じだ。
お乳をやるのと、お尻の世話以外は、他人任せだから所帯臭くない。
ティーは、全力疾走の時は普通の走り方だけれど、小走りの時は変わった走り方をする。
前足を外から回して、まるで輪を描いているような足運びだ。
その癖は、子犬たちにもいくらか見られる。
ティーの面白い足運びは、他にもある。
我が家では、散歩から帰って来た犬たちの足を、ぬるま湯につけて洗う。
それでティーを持ち上げると、空中で、必死に手足を動かして、泳ぐ動作をする。
ティーは泳ぎがうまいかもしれない。(他の時はこの動作をしない)
子犬たちも、後になってからだけれど、
チョイチョイと申し訳なさそうに、泳ぐまねをするようになった。
ところで、そんなティーに、沈水していたはずの困った問題が、潜水艦のごとく浮上してきた。
ナナ不在のこの家で、自分の天下となったティーは、外へ行かなくなった。
つまり、用足しを外でしたくない。
子犬たちが生まれたのは十一月下旬。
冬の寒さは増していた。
しかも、ここは、冬には夕方の四時になると日も暮れ、あっという間に暗くなる。
朝も明けるのが遅く、一日の内三分の一しか明るくない。(下手すると、モグラのような生活になる)
「寒くて暗い外には行きたくないわ」とでもティーは言いたいのかもしれない。
ところが丁度その時、ペギーは、新しく飼い始めたウサギちゃんたちに、
去勢・避妊手術をすることにした。
メス二匹、オス一匹の兄弟姉妹たちだから、そのままにしていたらとんでもないことになる。
ある年配の婦人は、飼っていたウサギが二~三年後には二百匹以上に増え、
動物保護センターが介入せざるを得なかった。
犬や猫より寿命の短いウサギちゃんだけれど、その繁殖力はすごい。
と言うことで、手術後のウサギちゃんたちを安静にさせたい。
それで、タフィーは我が家へ戻り、ナナはジョイの家に移動した。
ティーはタフィーに付いて、しょうことなしに外へ行くようになったのだけれど、
この問題が完全に解決するには、ナナが戻ってくるまで待たねばならなかった。
つまり、ナナと仲の悪いティーだけれど、ナナがいなければ、まともでもないわけだ。
ところでナナは、ジョイ宅で、猛烈なかゆみに襲われてしまった。
ナナにはかゆみの問題があったのに、私は忙しさにかまけて忘れてしまっていたのだ。
急きょナナをジョイ宅へ迎えに行き、ペギーのところへ直行する。
ペギー宅の門を開けると、ナナはトリミングショップへ向かって、一目散に駆けていった。
そしてドアを引っかく。
それはまるで、ペギーに「助けてー!」と訴えているかのようだった。
ペギーが助けてくれるのをナナは知っている。
こうしてナナはグルーミングされ、薬をつけてもらい、落ち着いたトサ、メデタシ・メデタシ。
では終わらず、ナナは再びジョイ宅へ戻されてしまった。
こんな時のナナは聞き分けが良い。
私がジョイ宅を去る時、ナナは何も言わず、窓からじーっと私を見つめていた。
家へ戻ったタフィーはと言うと、嬉しかったけれど、うるさい子犬たちに閉口していた。
かといって子犬を襲うわけでもなく、たまに「ワゥ!」と声を上げる。
ティーママは、「えっ?」と思うかどうかは知らないけれど、気にする素振りはない。
タフィーが子犬たちを襲うはずはない、とでも思っているのだろうか。
そこまでの考えがあるのかは疑問だけれど、明らかにナナママとは違う。
とにかくタフィーは、ナナの時のようにティーに襲われる心配はなかった。
そして、ただ無心になって、いつものように、窓際で外を見張ることに専念していた。
子犬たちは、成長と共に性格がはっきりしてきた。
アルフィーはパパに似て、とても頭が良い。
八週目ですでに、用足しは外でもするし、家の中ではおしっこシートに行く。(たまに、はみ出している)
気も強い。
リーダーの雰囲気がムンムンと感じられる。
次男のフィニーには、アルフィーのようなシャープさはなかった。
性格も優しい。
フィニーという名前が付いても、しばらく私はジャガちゃんと呼んでいた。
(呼び名は変えない方がよいので、ニッキーとの会話の中での呼び名だ)
以前の大ちゃんの呼び名も似合っていた。
子犬の頃のフィニーは、そんな土臭いところがあった。
アルフィーから比べると、おっとりしているようにも見える。
もちろん、ヨークシャーテリアの気質はおっとり型ではない。
その本当の姿が明らかになるのは、アルフィーが去った後だった。
女の子は、ココという名前に決まっていた。(Coco)
アメリカではココアの意味だけれど、フランス名のココ・シャネルから貰った。
しっかりした女の子だ。
ティーの子なのに、ウザい雰囲気がない。
ココは、ニッキーのお気に入りでもある。
似たもの同士なのか、両者は気が合うらしい。
ニッキーはココとよく遊ぶ・・・と言うか、可愛いココで、ついお人形さん遊びをしてしまう。
アンティーックのオークション売買をやっているニッキーは、
バービードールのコレクションもやっている。(これは売り物ではない)
そしてニッキーは、なぜか今でも動物が苦手である。
ココは動物ではないのか?(動物と言うよりはお人形さん;ニッキー談)
彼女らの関係は不思議だ。
そして時は過ぎ、子犬たちはご主人様のもとへ巣立つころになった。
ココは、オリーブのご主人様の、親夫婦の元に行き、
アルフィーは、オリーブのご主人様の、友人家族へ行く。
皆さんは、オリーブが可愛かったので、その兄弟姉妹が欲しかったのだそうだ。
ココは、同じ市内に留まるけれど、
アルフィーは、オレゴン州のポートランドへ行く。(高速道路で二時間のドライブ)
ココは二日先に引き取られ、その日、ナナが家に戻って来た。
我慢していたナナは、もう限界だった。
ナナは、アルフィーとフィニーに対面して、ちょっと戸惑っているようだった。
子犬たちは、もう赤ちゃんではない。
ちょっとの間だったので、ナナとアルフィーはもめる事もなかった。
アルフィーが去る日の朝、珍しく雪が積もっていた。
うっすらと雪化粧した外は美しくて、穏やかな朝だった。
ドアを開けると、二匹の子犬たちは大喜びでウッドデッキへ出る。
そして、たくさんの足跡をつけた。
子犬なのに、もうすでに雪が大好きなのだ。
庭にも下りて、ティーママと最後の時を楽しむ。
昼近くになって、ポートランドから新しい家族がやって来てた。
しばらく一緒に遊んだ後、アルフィーは生まれた家を去って行った。
後には、フィニーがママと共に残され、急に家の中は静かになった。
外の雪は解け始め、子犬たちが付けた足跡も消えていく。
いつも追いかけてきていたアルフィーは、もういない。
フィニーは、ちょっと寂しかったけれど、眠くなってきた。
そして、ガス暖炉の前で、ぬくぬくと、パパやママと一緒にお昼寝をした。