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第10章 ティーの子犬たち-1 びっくり仰天、子犬の誕生 

 秋も深まり、十一月下旬、ティーが我が家へやって来て九ヶ月が過ぎた。

その日の朝、私とティムは旅行から戻ったニッキーを空港へ迎えに行き、ついでにシアトルで買い物をする。

午後にニッキーを送り届け、ペギー宅へ行き、ティーを引き取った。

九月に妊娠したティーのお腹は、すでにパンパンになっていた。

出産予定日は数日先と思っていたのだけれど、念のため預けていたのだ。


 私たちが家へ戻ると、留守番をしていたナナとタフィーが嬉しそうに迎えてくれる。

二匹を用足しのため外に出し、ティーもウッドデッキへ出た。

ナナは、ティーのお尻をちょっと嗅ぐ。

そして、タフィーを追って階段を下りていった。

残されたティーは、そこでしゃがんだ、と思ったら、何か黒いものが出てくる。

「エッ! ウンチ?」にしては丸い、なんとそれは、子犬の入ったパウチ(袋)ではないか!

私は、「ティーム!」と叫んだ。


 生まれたばかりの子犬をお尻にくっつけたまま、ティーを産箱に入れる。

ところがティーは、へその緒を切ろうとしない。(私は器具の準備をまだしていなかった)

生まれた子犬はオスで、かなり小さい。

急いでペギーに電話する。


 その時、私の頭の中では、「ナナをどうするんだー!?」が渦を巻いていた。

家の中に戻ってきたナナは、異常を感じてティーに向かって吠える。

ティムは、ナナとタフィーをケージに入れた。

それでもナナは吠え続け、吠え声は家中に響く。

ティーは、へその緒を切ると、子犬をくわえ、別の部屋へ隠そうとする。

私たちは、ティーと子犬を産箱に戻す。

騒然となった我が家で、私たちは、ティーと子犬を押さえているしかなかった。


 ペギーがやって来ると、二匹目が生まれた。

ペギーは、手際よく袋を破き、へその緒を切ると、鼻吸い器で鼻や口から羊水を出す。

二匹目は、普通の大きさの元気なオスだった。


 次に生まれたのは双子だ。

一匹はメスで、これも普通の大きさだったけれど、

残りの一匹はとても小さくて死んでいた。

かなり前に死んでいたらしい。

五匹目もメスだったけれど、それも死んでいた。

ペギーは、死んで一週間ぐらい経っているかもしれないと言う。


 ティーのお産中、私たちは、子犬たちの体温が下がらないよう胸元に入れて暖めた。

吠えるナナを、外の車の中に移したのだけれど、

ティーママは、子犬たちを隠すのを止めなかったからだ。


 それに、小さな長男は、初め、お乳を吸おうとしなかった。

ペット用ミルクを買ってきて与えたり、ティーのお乳を絞って舐めさせたりする。

そうして長男は、数時間後にやっとおっぱいを飲んでくれた。


 ペギーは、ティーの後産あとざんがはっきり確認できないので、獣医に診せるよう勧めた。

それで次の日、母子を動物病院へ連れて行くと、

獣医は、「ティーの体内はきれいなので心配はない」

そして、「母子共に健康だ」と言ってくれた。

死んだ子犬たちも見せると、

「ヨークシャーテリアは多産ではないので、母体が耐えられなかったのでは」と慰めてくれた。


 ペギーがいてくれ、本当によかった。

私は、ナナの時のお産が簡単だったので油断していた。

準備もまだだった。(やっていたのは産箱だけ)

ペギーは、ティーを休ませるためナナとタフィーを連れていってくれた。

私は、前もって、ペギーとジョイに、ナナを預かってもらうよう頼んでいたのだけれど、

子犬が先に生まれてしまったのだ。


 子犬が産まれた日、朝に空港へ行く前にティーを預けた時には出産の気配はなかった。

ところが午後に迎えに行くと、ペギーは、

「ティーは、私たちが戻ってくるのを待っていた。」と言い、

「様子が変なので、お産が近いかも」と付け加えた。

ティーは、お産するのを私たちが戻るまで待っていたのだ。


 カレンダーには、ティーがタフィーを受け入れた日のしるしが付いている。

それに従えば、出産日はまだ先のはずだった。

ところが私は二十四時間、彼らを見張っていたわけではないので、誤算が起きていたらしい。


 タフィーは子犬に関心がないから心配ないけれど、ナナは要注意だった。

ナナとティーとの抗争に、子犬たちが巻き込まれる恐れがあったからだ。

それにナナの母性本能が強いのも問題だった。


 いつか見たテレビ番組で、研究者が世話していたメスの狼が、

ランク下のメスの子供を奪って、自分の子と一緒に育てたのを見たことがある。

母狼がボス・メスの目を盗んで、密かに、わが子に会いに行ったのは心にジーンときた。

子狼たちはすぐに大きくなり、母親と再会しハッピーエンドだった。


 同じように、ナナも子犬たちを自分のものにしようとするかもしれない。

一度ナナを、子犬たちがまだ離乳していないころに会わせたことがある。

その匂いと鳴き声で、ナナの母性本能は呼び起こされてしまった。(かなり騒いだ)

ところが自分の子はいないし避妊されているから、お乳が出るとも思えない。

ナナは子犬をずっと抱いているとは思うけれど、子犬の方はお腹がすく。


 ナナは子犬たちが巣立つ日まで戻って来ないことになっている。

とはいっても、ティーにはそんなことは分からないから、引き続き子犬を隠そうとする。

それで子犬たちを小さなケージ(Kennel)に入れ、母子を離して世話することにした。

ケージの下にヒーティングパッドを敷いて暖める。(湯たんぽの方が良いという人もいる)

パッドはケージの半分だけに敷いて、温度も熱すぎないようにする。

熱くなれば、子犬たちは涼しいところに移って、自分で体温調節をする。

まだ目も耳も開いていない子犬たちが、芋虫みたいに、もそもそと動く。

ケージの中を見るたびに、子犬が移動して寝ているのは可愛かった。


 子犬たちの授乳は、夜から朝はベッドの上、日中はカウチ(ソファ)の上でする。

初めは一~二時間おきだ。

それから少しずつ時間を延ばしていく。

つまりそれを二十四時間、夜中もするのだ。

しかも、長男のためのおっぱいを、次男に取られないように見張らなければならない。

長男に一番お乳の出そうなおっぱいを含ませ、体重を増やす。

その手間たるや、ナナの時とはえらい違いだ。

(ブリーダーの中には、事故を避けるため、初めから母子を離して育てたりする人もいる)



 ところで今回は、タフィーにとって初めての男の子誕生だ。

長男は小さいので「ちぃちゃん」、次男は「大ちゃん」と呼んだ。

尻尾切り(ヨーキーとかにする)も、ちぃちゃんは数日遅れで無事に終わった。


 数週間後には子犬たちの目と耳が開き、動く範囲も広がった。

今回は、お古のパピーペン(Puppy Pen)をもらっていた。

パピーペンはベニヤ板で作られていて、半畳より大きいサイズだ。

それを折りたたみ式テーブルの下に置く。

テーブルの片面リーフがペンの半分を、屋根のように斜めに覆う。

そのテーブルの上には、いつものようにフリスキーがいる。

フリスキーは、まるで子犬たちを見守る長老(オスライオン?)みたいに座っていた。


 パピーペンの壁は、ティーがジャンプして入れる高さしかないけれど、

子犬を踏むおそれがあるから、外側に踏み台を置いた。

時々ティーは、踏み台の上に座って、上から子犬たちを見守る。

もう、ティーは子犬を隠さなくなっていた。


 中に夜用のケージも置いてあり、子犬たちは出たり入ったりする。

疲れたら、ケージの中かヒーティングパッドの上で昼寝をする。

起きると、よちよち歩きで散策する。(下に敷いてある新聞を破いたりして悪さをする)

子犬の歩き方は、初め、ぎこちなくて、壊れかけたロボットみたいだ。


 そうして子犬たちは大きくなっていった。

「ちいちゃん」は、もう小さくない。

あっという間に、「大ちゃん」を追い抜いてしまった。

そしてパピーペンの角で二足立ちをして、

「外に出せー」とせがむ、わんぱく坊主になった。

オリーブの飼い主たちが、子犬を見に来た時に「アルフィー」という名前に替えてくれた。

アルファーは、ギリシャ語のアルファベットの一番目だ。

最後に「ィー」が付くのはご愛嬌で、犬にとって反応しやすい音らしい。


 次男の大ちゃんの名は、「ジャガちゃん」に替わった。

ハンサムな長男に比べ、次男は田舎の「イモ」と言う感じだ。

ジャガイモの「ジャガちゃん」なのだ。


 三番目のメスは「女の子」と呼ばれた。

ナナの時は三匹ともメスだったので、気が付かなかったのだけれど、

不思議なことに、子犬の時から、男の子と女の子はすでに違う。

女の子は、二匹の兄弟たちとは違い、花のように、女の子らしく育っていった。



 「生き物がそんなに多いと大変でしょう」と、色々な人たちから言われる。

これだけ増えると、費用以外は一匹増えたからと言って、さほど変わらない。

かさむ費用は、夫に稼いでもらうしかない。

フリスキーを先頭に、猫が増え、犬も増え、今や我が家はアニマルハウスと化してしまった。


 それでもティムは、「猫好きだったマーク・トゥエインからすると些細なものだ」と言う。

マーク・トゥエインは、猫たちに囲まれた生活をしていた。(晩年に自分を「猫のエキスパート」と書いている)

旅行の滞在先でも、三匹の子猫を、近くの農家から返すのを条件にやっと借してもらったりしている。

別の時は、小さな女の子と仲良くなって、そこの子猫二匹を買おうとしたのだけれど、

女の子に泣かれてしまい、あきらめたそうだ。(特に、子猫と年寄り猫が好きらしい)


 ところで、「男性は収集癖が強い」と友人の男性が言っていた。

そして、ティムの本のコレクションを見て、

「自分も集めたい物があるのだけれど、奥さんが許してくれない」と言い、

彼の奥さんは私に「良く我慢できるわね」と言った。

私は、読書好きの母の影響もあったので、あまり気にならなかったのだ。

犬と猫がこんなに増えてしまったのも、その収集癖ゆえだったのかもしれない。

とにかく、男性の収集癖は、女性には理解しがたいところがある。


 我が家に来るお客様たちは、

「そんなに動物たちがいるとは思えないほど静かだし、匂いもしない」と言ってくれる。

匂いに敏感な私は、悪臭に耐えられない。

そして私は、皆が心地よく暮らせるよう、日夜、努力している。

そんな中で、ティムが「ティーに子犬が産まれたら、一匹は我が家で飼う」と言った時、

私の感覚は、もはや麻痺していたらしく、反論する気すらなかった。


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