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第9章 Tea-1 迷い犬

 "Ditzy Blonde"(Dumb Blonde)と言う、あまりよろしからぬ英語の表現がある。

「いまいましいブロンド女」、と訳せるかもしれない。

ブロンドの美しさとは反対に、あまり賢くないという意味だ。

ところが、当のブロンド女性が言うには、

ささいな失敗をした時、(車の運転とか、わざとかも・・・)

「ブロンドだからしょうがない」、と、

マッチョーな男たちに、ちゃっかりと許してもらう表現でもあるらしい。


 我が家にも、まさに、それを地でいくワンコが来てしまった。

しかも、フェニーが消えたのは、十二月九日、

このワンコが来たのは、二月、同じ九日と、

たったの二ヶ月しか経っていない。

その悲しみ覚めやらぬと言うのに、「なぜ?」と私だって言いたい。

それに私は、「犬をこれ以上増やせない」と言っていたはずだ。


 とにかく、私たちは、必死になってフェニーを捜していた。

テイムは、毎日のように、仕事のついでに動物保護センターにも寄る。

犬の識別は難しいので、電話より、実際に見て確かめた方が良いそうだ。

ところが、そうしている内に、今度は、迷子ヨーキーの世話をする羽目になってしまった。


 郊外に住んでいる年配の夫婦が、市内でヨーキーを見つけ、連れて帰り、

市内の保護センターへ連絡してきたのだ。

発見された場所は、フェニーがさ迷っているあたりだった。

ヨーキーが迷子になるのは珍しく、一瞬、光が差したように思えたのだけれど、

一歳未満の小さな子だったので、フェニーではないと分かっていた。

それでも私たちは、藁をもすがる思いで、高速道路に乗り、保護されている家へ向かった。

その犬は、やはりフェニーではなかった。

飼い主は、心配しているに違いない。

そこは、別の保護センターの管轄なので、私たちは、犬を市内に連れて帰ることにした。


 見つけた迷子は、保護センターへ連れて行かなくても、

連絡しただけで、自分の家で保護することができる。

それに連絡しないまま、自分のものにするのは、法律違反なのだ。

いわば拾った物を、勝手に自分のものにしてしまうので、盗みになる。

そして、連絡して三十日経っても、持ち主が名乗り出なければ、

自分の犬にできるし、新しい飼い主を捜すこともできる。

その方が、動物たちは、冷たいコンクリートの部屋で、寂しい思いをしなくてすむ。

保護センターも、世話するペットが減り、費用もかからないから、皆、万々歳だ。


 さて、迷子ヨーキーのニュースは、友人たちの間にも広がった。

次の日、オリーブの飼い主が、インターネットに迷いヨーキーの情報があると教えてくれた。

犬の名前は「ロクサーヌ」、それで私は、その名前を後ろから呼んでみる。

その子が振り向く。

私は思わず、

“So, you are the Roxanne!”(あなたがロクサーンなのね!)と言った。

早速に飼い主に連絡すると、すぐに家族で迎えに来た。

父親は再会に涙し、母親は心配で二日間眠れなかったと言う。


 ロクサーヌが迷子になった日は、雪が降っていた。

開いていたドアから外へ出て、初めて見る雪に興奮したのかもしれない。

飼い主は、積もり始めた雪の上の足跡を追って捜したのだけれど、

その内、分からなくなってしまったそうだ。

保護された場所は、家からかなり離れていたので、びっくりしていた。


 逃げた犬は数分後には、何キロも先に行ってしまうことがある。

ある友人は「最初の二十分が勝負だ」とも言っていた。

彼女の犬がいなくなった時、迷子のチラシ数百枚をその日の内にばら撒いた。

すると二日後に、犬を保護してくれていた三キロ先の婦人がチラシを見て連絡してくれた。


 私がフェニーを捜していた時に会った婦人は、預かっていたポメラニアンが、

ドアの隙間から逃げてしまったことがある、と話してくれた。

そして、数キロに渡って車で追いかけ、やっと捕まえる事ができたそうだ。

「こんなに小さい犬が、あっという間に、遠くへ行ってしまったのに驚いた。」

と、その婦人は言っていた。


 犬が、遠くへ逃げてしまうのは大変だけれど、道に飛び出す恐れもある。

ある犬は、飼い主の友人に預けられていた時、ドアから飛び出し、

家の前で、交通事故に遭って死んでしまったそうだ。

飼い主は、悲しかったけれど、友人を恨んではいない。


 私も、たまに、友人の犬を預かったりする。

一人の飼い主は、自分の犬を私たちに預けた時、

「良く世話をされるのは分かっています。

もし、事故が起こっても、仕方がないと思っていますから、心配しないで下さい。」

と言ってくれた。

こういう信頼関係がなければ、犬を預かることはできない。


 とにかく、犬を道に飛び出さないように訓練したいし、迷子にもなってもらいたくない。

ある日、私は、ダックスフンドを探している人に会ったことがある。

「うっかり閉め忘れた庭のゲートから、出て行ったらしい」と言っていた。

その犬は、庭に出る事はあっても、近所を散歩したことは無かったそうだ。


 人間だって、知らない所だと迷子になったりする。

犬にとっても、家の周りを散歩したことがなければ、一歩外は未知の世界だ。

そうやって、迷子になってしまった犬の多くは、二度と戻って来ることはないと言う。 

私も、経験して思うのだけれど、迷い犬を捜すのは、とても大変なのだ。

もちろん、戻って来た話もある。

 

 あるレトリバーは迷子になり、いつも散歩していた公園の、反対側で保護された。

たまたま、飼い主の友人が、保護されているのを見掛けてくれて、戻って来れたそうだ。

その公園は広かったので、反対側に行ったことがなく、それで迷子になったらしい。


 友人の娘の犬も、戻ってきた。

ある日、二匹の犬を用足しのため外に出したら、彼女の犬だけ戻って来なかった。

悲しみに耐えられなかった彼女は、動物保護センターから、別の犬を引き取った。

ところが、しばらくすると、彼女の犬は戻って来た。

そして、夫の犬、彼女の犬、新しい犬の三匹の犬が、

新婚の、狭い家に暮らす羽目になってしまった。


 ジョイも、彼女の子供たちが、まだ小さかった頃の話をしてくれた。

旅行中に、どこかの山の中で、トイレのため車を止め、犬もついでに外に出した。

ところが、子供たちの世話で忙しく、うっかり、犬を忘れて、そこを去ってしまった。

数日後、彼女は、運転中にラジオを聞いていると、なんと、その犬を保護した人が、

「連絡を下さい」と言っているではないか。

そうして、その犬は、無事に戻ってこれた。


 パグのジョージも、迷子になったことがある。

ジョージは、しかたないので、近所の似たような家へ行き、ドアを開けてもらう。

そして、まるで、自分の家であるかのように中に入ると、

リビングルームの真ん中で、ゴロンと横になる。

ジョージは、無駄に歩き回るよりは、ご主人様が迎えに来るのを待つ事にしたのだ。

飼い主は、"It's my Jeorge!" (僕のジョージらしい!)と言った。


 ジョージの家の庭のゲートには、ちょっと隙間がある。

小さいタフィーなら、するっと、すり抜けられる幅だ。

気を付けていたのに、私がジョージのご主人様と話に熱中していたら、

タフィーは、道に出て、トコトコと歩き出してしまった。


 ちょうどその時、散歩中の二人の婦人たちが、

タフィーの方へ向かって、歩いて来るところだった。

そして、タフィーを抱き上げ、連れて来てくれた。

こうして、タフィーの冒険は、あっという間に終わってしまった。

 

 盗まれた犬が戻ってきた話もある。

私がフェニーを捜している時に会った一人の婦人は、

彼女の友人の、盗まれたヨークシャーテリアの話をしてくれた。

盗まれて二年が過ぎたある日、友人はショッピングモールへ出かけた。

すると駐車中の一台の車の中に、なんと、自分の犬がいるではないか。

友人はすぐに警察に連絡し、車の持ち主は逮捕され、犬は無事に戻ってきた。

奇跡としか言いようのない、再会だった。


 日本で、知人の犬が盗まれた話もある。

その犬の情報が、ラジオで放送されると、目撃者が連絡してきた。

犬は、車で連れ去られ、車に付いていた会社名も見られてしまっていた。

同時に、その会社の同僚からも連絡があった。

本人は、盗んだものの売ることが出来ないでいたらしい。

犬を返すよう説得しているので、会社に連絡するのを待って欲しいと言うのだ。

飼い主は、犬の無事を優先して待つことにした。


 ついに本人が連絡してきた。

迷子になっていた犬を保護したので礼金を要求する。

飼い主は、一刻も早く犬を返してもらいたかったので、お金を払った。

ところが戻ってきた犬は、何も食べていなかったらしく、痩せていて、胃の中には石がいくつも入っていた。

直ちに手術をして石を取り除くという、大変な経験を飼い主はさせられた。

それでも、犬が戻ってきてくれて良かったと話していた。


 さて、こちらの新聞には、"Classified" と言う広告の項目がある。

この項目は、個人の広告も載せられるし、紙面も多く、市民に広く利用されている。

そこには、「迷い犬のお知らせ」の蘭もある。

「保護した迷い犬」の場合、三日間、ただで新聞に載せるてくれる。


 ロクサーヌの飼い主も、新聞に「迷い犬捜し」の欄に情報を出していた。(これは料金を払う)

ところがロクサーンは、間違って、別の項目に入ってしまっていたのだ。

インターネットでは、ちゃんと「迷い犬」の蘭に入っていた。

一日遅れだったけれど、ロクサーンは、無事に飼い主の元に戻ることが出来た。


 そして、数日後、ブロンドカラーの、別のヨークシャーテリアが、我が家へやって来た。

この子も、すぐに飼い主が見つかるだろうと思っていた。

ところが、そうではなかった。

そして、このヨーキーは、とんでもない子だった。

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