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     ナナの子犬たち-2 犬の赤ちゃん

 新しい命が誕生した。

ヨークシャーテリアの、三匹の女の子たちが生まれたのだ。

その時私は、ただただ、感動していた。

恐る恐る子犬たちを手のひらに乗せてみる。


 その子犬たちは、ヨーキーと言うよりはロットワイラーの赤ちゃんに似ていた。

体の毛は真っ黒。

鼻は丸く、頭も黒光り、つるんとしていて団子みたいだ。

ロットワイラーが団子頭・・・なのかどうかは、さておき、

「ロットワイラーの赤ちゃんよ」

なんて言ったら信じる人はいたかもしれない。(大きさが、全然ちがうのだけれど)

この子犬たちが、あのシルキーな毛並みのヨーキーになっていくのだと思うとワクワクする。


 生まれたばかりなので、目も耳もぴっちり閉じている。

鼻はいくらか嗅げるのか、くにゅくにゅ動いて、ママのおっぱいを捜す。

団子頭の先っちょの口が、パカッと開き、お乳を飲む。

ピンク色の舌が、おっぱいをくるんでいるのがチラッと見えてカワイイ。

とはいえ、その勢いたるやすさまじく、小さな体は「お乳を飲む」その一点に集中する。

満腹になると、お腹はまん丸パンパンになる。

まだ歩けないから排泄は自分で出来ない。

母犬がお尻を舐めると排泄し、その処理まで、すべて面倒を見てもらえる。

後は、ひたすら眠る。


 母犬ナナは、まるで母鳥が卵を暖めるかのように、ずーっと子犬たちを抱いていた。

ナナがケージを出るのは、食べる時と水を飲む時、そして用足しの時だけでだ。

用事が済むと、さささっとケージに戻って、かいがいしく卵を抱く。(いや、間違った、子犬たちだ)

ナナは、とても献身的に子犬の世話をしていた。


 私は、朝起きると、先ずナナを用足しに外に出す。(もちろん、パパのタフィーも)

それからケージの中に頭を突っ込んで、子犬たちの様子を見る。

すると、まだ、子犬が産まれたばかりの時の匂いが残っている。

その匂いも、子犬たちにとっては体内にいた時と同じで、安心させられるのかも知れない。

囲われたケージの中は、暖かった。


 子犬たちは、どんどん大きくなる。

まるで、細胞分裂して増えていく音が聞こえてきそうな勢いだ。

私は、ナナと子犬たちを外に出してお乳を飲ませている間に、ケージの掃除をする。

一匹一匹を出し入れする時の子犬たちは暖かくて、小さくても命の重みを感じる。


 子犬をケージから出し入れする時、うっかりして、

「ゴンッ」とその小さな頭をケージの入り口で、ぶつけてしまったことがあった。

あれは、どの子犬だったのだろう。

あわてていたので、よく見なかった。

生まれて間もない子犬は、あまり見分けが付かない。

三女は体が小さかったので、長女か次女だと思う。

未だに「悪かった」と思っている。


 私たちは、夜はケージのドアを閉めて寝る。(猫がいるし)

ペギーは、子犬が格子の隙間からすり抜けないようなケージを貸してくれていた。

子犬がケージの外に出てしまうと、凍え死んでしまう恐れがあるからだ。

かと言って母犬といれば安心、という訳でもない。

母犬が子犬を踏んで、死なすこともある。


 私の知っている友人にも、そんな事故があった。

事故を避けるため、ブリーダーの中には、

授乳以外は、子犬と母犬を離したりする人もいるそうだ。

私は、事故の危険があっても子犬は母犬と一緒にいさせたい。

ペギーは、子犬を死なせてしまった飼い主に、

「自分をあまり責めないように」とも言っていた。


 もちろん飼い主の不注意もある。

たとえば子犬を暖めるため、ヒートパッドを下に敷いた時などだ。

温度が暑過ぎたり、ベッド全体に敷いたりすると危険なのだ。

子犬は、暑くなると自分ではって涼しい所に移動する。

それが出来ないと、脱水症状を起こしたりする。

それで、あわや全滅、と言うこともあったらしい。

ペギーは、

「ヒートパッドを使うなら、ベッドの半分だけに置くように」と言った。


 飼い主がいない間に、母犬のお産をして、問題が起こったこともある。

突然、電話が掛かってきて「生まれたばかりの子犬たちが大変だ!」と言う。

電話の主は友人とシェアハウスをしており、友人の出産間近のパグの様子を見に行った時の事だ。

飼い主はすぐに職場を出たのだけれど、帰ってくるのに一時間ほどかかるらしい。

私がそこへ着くと、生まれたばかりの六匹の子犬たちは濡れたベッドの上に置かれていた。

母犬は「助けてー!」と、すがるかのように私を見上げる。


 その母犬は、二度目の出産だった。

飼い主は、前の出産は無事すんだので心配ないと思っていた。(この飼い主も私の友人)

ところが今回は違っていた。


 その日、母犬の様子を見にきた飼い主の友人は、

母犬のベッドにある、お産の後を見つける。

ところが子犬がいない。

捜すと、六匹の子犬たちは、あちこちにばらばらで見つかる。

後で分かったのだけれど、母犬は一匹の子犬のへその緒を切った時、

誤って子犬のお腹も切ってしまったのだ。

異変に気が付いた母犬は、自分なりに子犬たちを守ろうとし、産まれたばかりの子犬を別の所に隠そうとしていたらしい。

友人は子犬を集め、母犬が出産したベッドの上に乗せる。

ところが母犬は、子犬たちを抱こうとしないのだ。


 私は、すぐに乾いたタオルで、湿っている子犬の体をさすって乾かした。

それから私のお腹に乗せ、私の手で暖める。

子犬たちは、まだ生きているけれど、

氷のように冷たくて、ぐったりしている。


 しばらくすると、子犬たちは少しずつ暖かくなってきたので、横で見ていた母犬に抱かせてみた。

さらに私は、その母犬が動かないように毛布でくるむ。

そして引き続き、子犬たちに、私の手を当てて暖める。

こうして、飼い主が帰って来るまで待つことにした。

その問題の一匹は死んでしまったけれど、他の子犬たちは危機を脱した。


 その友人が発見してくれて、本当に良かった。

そうでなければ、飼い主が仕事から帰って来た時、

子犬たちは皆、死んでいたかもしれない。


 さて、我が家で生まれた子犬たちは、皆、可愛いけれど、

いずれは巣立っていく。

この子犬たちは、将来のご主人様に可愛がられるような、

いい子になってもらいたい。

それで、子犬たちに、社会性を身に付けさせるの教育を始めることにした。

まるで、英才教育をする母親のような心境だ。


 とにかく、私には、八~十二週の時間しかない。

子犬たちの目が開き、耳が聞こえるようになると、

色々な音を聞かせたり、経験をさせることにした。

そして、入れ替わり立ち代り、来てもらっている友人たちに、子犬を抱いてもらった。

また、子犬たちをバスケットに入れ、車で出かけ、友人宅を訪問する。(病気や年配の人たち)

ケージも持ち、子犬用具一式をバックに入れているので、持ち物が多い。

そんな私を見て、友人たちは、

「まるで、人間の赤ちゃんを育てているかのようだね。」

と笑った。


 子犬たちは、生後八週間くらいは、

母犬からの免疫で、病気にはなりにくいそうだ。

六~八週あたりから、子犬はワクチンを摂取し始める。

とは言っても、ワクチンについて、色々な意見がある。


 ある、自然食派の友人は、

自分の犬たちには、ワクチンを受けさせていない、と言っていた。

そして、彼女と夫は、犬をドッグショーに出すのを趣味としている。

また、犬を連れて、病院を訪問するボランティアもやっている。

彼女は、ワクチンについて良く調べていた。

我が家のワンコたちには、ワクチンを受けさせているけれど、毎年ではない。


 さて、 二~三週間すると、子犬たちの目は開き、耳も開いてきた。

そして、子犬たちはどんどん大きくなっていく。

しばらくすると、ナナは子犬たちと夜を過ごさなくなった。

ケージの中は、ナナにとって暑すぎるらしく、時々、

「はっはっはっ」と、息遣いが荒かった。

三つの湯たんぽを抱えているようなものだから、無理もない。

それに、子犬たちの、つめも歯も伸びてきて、小さいながらも鋭く、

子ギャングどもから、逃げ出したい気持ちも良く分かる。

とにかく子犬たちは、自分たちで団子のように固まって眠るようになった。


 ヨチヨチと歩きを始めると、動く範囲も広がる。

それで、キッチンの床にバリケードを作って、小さな子犬用エリアを作った。

それでも、すぐに狭くなり、広げていく。

何しろ、我が家は子犬を育てる用には作られていないし、初めてのことでもあり、

すべてが手探りだ。

丁度、その時、日本から来ていた知恵者で万能の親友にも、手伝ってもらった。


 おまけに、長女は脱走のエキスパートだった。

フェンスを強固にするのだけれど、すぐに突破する。

昔の映画「大脱走」さながらで、かなり悩まされた。

突破すると、なぜか向かうのは二階だ。


 二階には、五匹の猫たちがいる。

この家は、半年前までは、猫たちの天下だった。

ところが、ナナがやって来くると、タフィーも加わり、子犬まで産まれてしまった。

ミスティー以外の猫たちは、あれよあれよという間に、二階へ追いやられていった。

そして、この短期間の、あまりの変化に、言葉を失ったかのようだった。

しかも、生まれて数週間しか立っていない子犬が、脱走して、身の程知らずにも、

二階へ駆け上がって来るのだ。


 ナナは、もちろん二階に猫たちがいるのを知っている。

子犬にとって、猫は、いわばライオンのようなものだ。

ナナは血相を変えて、長女の後を追って階段を駆け上がる。

私もあわてて、その後を追う。

そして、体を張って長女を抑えているナナを助けて、捕獲する。


こうして、我が家では、毎日のように、ドタバタ劇が繰り広げられていた。

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