Tuffy-6 犬の声
犬は、吠える時、話をしていると言う。
では、犬たちは、どんなことを話しているのだろう。
タフィーは、言いたいことがあると、
目で訴えながら私に向かって吠える。
その「言いたいこと」とは、「お腹がすいた」とか、「散歩に行きたい」、
または、「ティムが帰ってきたよ~」なんてことらしい。
私としては、気持ちは分かるけれど、
そんなに真剣に吠えなくてもいいのに、と思ってしまう。
それで、「お腹がすいたの?」と聞くと、
「ワン!ワン!」と吠えて答える。(「そう!そう!」の意)
外れると、首をかしげる。
極め付きは、雌犬の発情が終わってしまった時で、
「何とかして~!」と、私に訴えることだ。
いくらなんでも、これは、どうすることも出来ない。
多くの飼い主は、自分の犬が、何を言っているのか知りたいと思っている。
だから、バウリンガルボイスという、おもちゃの犬語翻訳機なんてのもある。
犬の吠え声は、犬の言葉なのだ。
それでも、犬の無駄吠え問題は、なかなか解決しない。
それに、人には無駄吠えであっても、犬には無駄吠えではないと言う。
吠える理由があるのだ。
ところが、人間同士でさえ意志の疎通は難しいのだから、
ましてや人と犬となると、
飼い主、「吠えるのを止めなさい!」
騒音犬、「*#%@!」 (意味不明)
なんてことに、なっているかもしれない。
例えば、ある飼い主は、自分の犬が、全く、言うことを聞かないので、
「ノー!」を連発していた。
犬の方はと言えば、怒られるのは、もはやあたりまえで、
「全然、平気~」と言った感じだった。
この犬にとって、繰り返される「ノー」は、すでに、その意味を失っていた。
それどころか、
「ノー」は、この犬の名前、
と言ったほうが良かったかもしれない。
その後、適切な訓練が功を奏し、この家には平和が訪れ、
幸せな犬と飼い主になっていった。
犬とコミュニケーションをとる方法はたくさんある。
それぞれの飼い主が、自分と犬に合った方法を見つけられたら、と思う。
さて、私が子供のころ、家には、
当時、吠える犬と言われた、日本スピッツのMIX犬がいた。
確かによく吠えていたけれど、無駄吠えで困るほどではなかった。
今は、この犬種は、あまり吠えないように改良されたそうだ。
このように、最近は、吠えるのが少なくて、
飼いやすい犬種の改良が進んでいる。
ところが、そんな犬種でも違う性格の子もいるし、
しつけをしなければ、無駄吠えをするようになったりする。
また、ペットショップで購入すると、
無駄吠えの犬になる可能性は高くなるらしい。
それよりは、ブリーダーか、
動物保護センターからの犬の方がお勧めだそうだ。
とは言うものの、吠えて欲しかった、と言う人もいた。
犬が吠えなかったので、夜中に泥棒に入られたのに、
誰も気付かなかったからだ。
我が家のワンコたちは、ホームセキュリティのおかげで、
番犬としての仕事からは解放されている。
彼らは、使命感を持って吠える必要はない。
見かけも、怖そうではないし、そこそこ、吠えてくれれば、十分だ。
とにかく私は、子供が嬉しい時にたくさんおしゃべりするように、
犬も吠えたい時がある、と思っている。
だから、たまには、犬たちに、元気に吠えさせてやったりする。
そんな時のワンコたちは、目を輝かせ、生き生きとしている。
もちろん、吠えすぎて、かえってストレスになっては困るし、
他の人に迷惑を掛けてもならない。
(それと、吠え声で、自分の耳と頭が痛くならないように)
そういえば、以前、お隣さんだった家族が飼っていた、
白いアメリカン・ピット・ブル・テリアのルイーズも、よく吠えていた。
そして我が家のワンコ達と、塀越しでも吠え合っていた。
ピット・ブルは、もともとは闘犬として作られた犬だから、この状況は好ましくない。
塀はまだ新しかったのに、ルイーズが押すとガタガタ揺れるので「その内に壊れるのでは」と思うほどだった。
また塀と家との間に隙間があり、
身の程知らずの我が家のヨーキーたちが引きずり込まれやしないかと心配でもあった。
それでもルイーズの飼い主は、良い犬だとほめていた。
確かにルイーズは、フレンドリーな可愛い性格の犬で、
飼い主でもないのにティムが大好きだった。
だから脱走すると我が家の玄関へ直行する。
ある日、私がナナとタフィーを連れて出かけようとしていたら、
突然にルイーズがやって来た。
そして、いつものように、嬉しそうに私に飛び付いてきた。
ナナとタフィーはと言えば、すでに車の中にいて、怒って吠えていた。
数秒の違いだったけれど、危なかった。
さてルイーズの無駄吠えの多くは、ウッドデッキで家の中に向かって吠えることだった。
もしかしたら寂しかったのかもしれない。
飼い主に聞くと、ルイーズは外で寝るのに慣れていると言う。
であれば、その家族は、暖かいカリフォルニアから引っ越して来たばかりだったから、
「ルイーズは寒いのでは」とも心配した。
ある寒い夜にルイーズは、夜中の二時三時まで吠えていた。
電気はついたままだし、飼い主は、わざと無視しているらしい。
とは言え、こちらとしては煩くて眠れないし、ルイーズを可愛そうにも思った。
飼い主の犬の扱い方に、何か問題があるのかもしれない。
とはいえお隣さんなので対処が難しい。
悩んだ末に動物保護センターに連絡して調べてもらうことにした。
それからはルイーズが吠えるのを、あまり聞かなくなり、
しばらくして、彼らはそこから引っ越していった。
ルイーズがいなくなって寂しかったけれど、
我が家のワンコたちとの事故が無くて良かったとも思った。
そんなある日、私が買い物をしていたら、ばったりと、ご主人の方に会った。
しかも離婚したと言うではないか。
彼の家族には小さな女の子と、生まれたばかりの赤ちゃんがいたので、
家族がばらばらになったのは気の毒だと思った。
またそんな状況だったから、ルイーズの世話が十分に出来なかったのかもしれない。
離婚後、彼は病気のお母さんの世話のため、
お母さんの家に住んでいるとも言っていた。
そしてルイーズは彼と一緒に住んでいて、お母さんにも可愛がられているそうだ。
ルイーズがいたころ、タフィーは、よく、
我が家のウッドデッキの手すりの格子をすり抜け、
八十センチ下の芝生へ飛び降りていた。
そしてルイーズがいなくなっても、タフィーは、それを続けていた。
タフィーが、飛び降りる一生懸命な後ろ姿は、なんだか可笑しくて、
私は、時々それをお客様に見せて一緒に笑った。
タフィーが、ウッドデッキの階段を下りる時、
軽やかに蹴る後ろ足は、ポンポーンと中を舞う。
反対に、階段を上る時、タフィーは、ギャロップする様に、
タカタカッと駆け上がる。
ところが、普通に歩いている時は、
トッテ、トッテ、トッテと、なんだか締りがない。
私に向かって吠える時も、勢いあまって、後ろに下がったりする。
そんなタフィーは、可笑しくて、可愛い。
ティムは、「トイ・ボーイ」と呼ぶ。(「プリティボーイ」とも呼んでいた)
ニッキーも、「タフィーは、動くおもちゃみたい」と言う。
しかもタフィーは、顔デカだ。
毛が多くて長いから、中身は小さいくても、顔が大きくなるのだ。
だからシャンプーの時のタフィーの顔は、チワワのようになる。
とても同じ犬には見えない。
おまけに、タフィーの口の周りの毛が横に広がると、
どら焼きの形になり一文字の口になる。
ナナも、ふっと顔を上げると、毛が広がって、
苦虫を噛み潰したように見えるし、くしゃおじさんのようでもある。
そんな可愛い子たちだから、この二匹の前の飼い主だったジョーとパムは別れが辛かったに違いない。
そして私は、タフィーとナナを連れて、二匹が前に住んでいた家を何度か訪問した。
通りから道を曲がり、その家に近付くと、二匹は、車の中で騒ぎ始める。
特にタフィーが吠えている意味はよく分かる。
車から降りるとタフィーは、「もしかして!」とでも言うように、
急いでドアへ向かい中に入り、家中を走り回ってジョーを捜す。
タフィーには、ジョーが死んでしまったなんて分からない。
ジョーが家にいないのを確かめ、一段落すると、
タフィーは、その家の家族一人一人への挨拶を始める。
ところが、パムのところだけは、自分からは行かないで、
呼ばれたので仕方なく行く、という感じだった。
パムは、
「タフィーは、ジョーが帰って来ないのを、私のせいにしている。」
と言う。
私は驚き「そんなことがあるの?」と思った。
そして、よくタフィーを見てみる。
すると確かに、あのお気楽なタフィーはパムを拒絶していた。
それでもしばらくすると、
タフィーは、嬉しそうにパムに駆け寄って行くようになってった。
「時が経つ」と言うのは、そう言うことなのかもしれない。
パムの親友も、タフィーがティムと一緒にいるのを見て、
「あのタフィーが、別の男の人の後を付いて行くなんて、とても信じられない」とも言っていた。
それでも、タフィーがジョーを忘れたのではない。
「ジョーのミスタータフマン」
それが、血統書に書かれた、タフィーの名前だ。
タフィーにとって、ジョーは死んではいない。
ジョーは、まだ生きていて、その家に住んでいる。
だから、いつも、その家でジョーを捜す。
しばらくして、パムは別の州に引っ越すことになってしまった。
彼らが住んでいた家は売られ、知らない人が住むようになった。
今でもタフィーは、あの道を曲がれば「ジョーに会いたい」と吠えるだろう。
だから私とタフィーは、二度と、その家に近付くことはない。