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     Tuffy-4 犬の用足し

 青い空、白い雲、連なる家々の屋根、広々として開かれた空間、

それが、私の小さなオフィス部屋の窓から見える風景だ。

そして、タフィーは、その窓辺で、

孤独を好んで、たそがれることが多い。


 私は、始め、そんなタフィーを、夫ティムの帰りを待つ

「風情のある犬」と思っていた。

代わって、ニッキーは、「生意気!」と言う。(笑)

生意気なのは仕方がないとしても、

そこにいるタフィーには困った問題があった。

タフィーは、その部屋で、そそうをするのだ。


 自分がたそがれる部屋で、そそうをする、

と言うのは、なんとも腑に落ちない話だ。

もちろん、タフィーは、外で用足しをすることぐらい知っている。

そう、タフィーには、全く別の理由があった。

それは、去勢されていない雄犬だからだ。

え~っ? またそれ~っ? と言われそうだけれど、

去勢されていない雄犬は、大変なのだ。


 我が家の近所にも、去勢されていない雄犬がいる。

その犬がフェンスを乗り越え、脱走し、辺りをうろうろしているので、

それを見たタフィーは、興奮し、私の部屋で、チャッとやる。

つまり、タフィーは、自分のテリトリーを守るため、

マーキングをしていたと言う訳だ。

これは雄犬の性分だから、やめさせる方法は無い。

たとえタフィーを去勢したとしても、時すでに遅く、

今さら、変わるとも思えない。


 さて、その近所の雄犬は、チャウチャウのMIX中型犬で、

ロットワイラーと、避妊された妹犬と共に飼われていた。(妹も、よく脱走する)

しかも、近所で問題を起こすなんて野暮なことはしないし、

ウンチは、自分ちの広い庭のコーナーを用足し場所と決めて、そこで済ます、

と言うほど頭が良い。


 そんな、つわもの犬に、大胆にも、タフィーが戦いを挑んだ時、

私はビックリしてしまった。

もちろん、このチャウMIXも、

身の程知らずのチンケな犬が挑戦して来たので、

一瞬、戸惑ったことは言うまでもない。

すぐにタフィーを捕獲したので、大事には至らなかったけれど、

チャウMIXは、うちに雌たちがいるのを知っているから、

油断はできない。(と言うか、油断ができないのはタフィーのほう) 


 一応、ヨーキー・チャンピオンの息子、

と言う晴れがましい経歴(本人の努力とは全く関係ないけれど)

を持つタフィーが、我が家に来た時、

うちには、すでに雌犬ナナがいた。

そして数年後には、第二婦犬と、その間にできた娘犬もいすわり、

今や、ハレムの如くに増えてしまった三匹の雌たちを、

タフィーは(自分のために)守らなければならない。

マーキングは、その証だ。


 ところが、うちの三雌たちは避妊されている。

つまり、タフィーは、全く意味のないことをしているのだ。

とは言っても、タフィーに避妊が何たるかを説明する術はなく、

飼い主としては、迷惑千番この上ない。


 それで、このチャウMIXの徘徊問題が解決されない限り、

うちの問題は続くと思った私は、それとなく飼い主に聞いてみた。

すると、あちらでも困っているらしい。

(犬がフェンスをよじ登って越えるのは、首輪がフェンスに引っ掛かって窒息死する恐れがある)

何とかしてもらいたいけれど、

チャウMIXは、もはや放し飼いのような状態で、

近所でも仕方がないと黙認されている。

今更、タフィーのそそう問題を持ち出した所で、

どうなるわけでもない。


 さらに、我が家の問題はそれだけでなかった。

タフィーは、猫たちにも、ちょっかいを出していた。

レディジェーン以外の猫たちは、タフィーの大きさの二倍はあったので、

このゲームはちょっと無謀ではないかと思ったけれど、

ナナの参加により勢いを増し、追いかけられた猫たちは迷惑していた。

そして、憤慨した猫たちは、そこに、わざと糞をする。

つまり、タフィーは、自分のそそう問題だけでなく、

猫のそそう問題まで引き起こしていたのだ。

その挙句、弊害を受けるのは、

やはり私たち飼い主だった。(うっかりして踏むこともある)


 さて、忘れてならないのは、レディジェーンは、

Aプラスの成績を取れるほど頭が良いことだ。

そして、レディジェーンは、見事に報復してくれた。


 それは、リビングルームで、タフィーが、

大好きな「持って来い」の遊びをやっている時だった。

レディジェーンは、音も無くやって来くると、

すっと、椅子カバーの内側に隠れる。

そして、タフィーが意気揚々と、おもちゃをくわえて戻って来る所を、

突然、飛び出して、「ヒャー!」 と驚かすのだ。

タフィーは、その後も、何度か驚かされたので、

心配しながら遊ぶ羽目になってしまった。


 そして、極めつけは、トイレだった。

レディジェーンには、私がトイレへ行くと、

いつも私の後を付けて来る習慣がある。

タフィーは、さらに、その後を付けて、

トイレで、レディジェーンに嫌がらせをしていた。


 そんなある日、私の後にトイレに入ったレディジェーンは、

ささっと、ドアの後ろに隠れた。

その時、私は、

「ん?」

と思った。

トイレのドアは、お客様がない限り、使用中でも開けっ放しになっている。

(詳細は、レディジェーンの章で)

開いているドアの後ろには、壁との間に狭い隙間があり、

そこに、小さいレディジェーンが入ると、

人間でさえ、猫が隠れているなんて思えない。


 そして、タフィーがトイレに入って来ると、

なんと、ドアの下から、

レディジェーンの白い手がにゅうっと伸びて、

タフィーの足をつかもうとするではないか!

タフィーは、毛を逆立てるかのごとく飛び上がってしまった。


 それから、タフィーは、いつもの如く、

てててっとレディジェーンの後を付けて来ると、

はっと我に返り、立ち止まる様になった。

「トイレのドアは危険区域」という赤信号が、

ピコンピコンとタフィーの脳裏に浮かぶ。

タフィーは、用心しながら、トイレに入って来なければならなくなった。

(別に、入って来なくてもいいのに)


 この、私の後を追ってトイレに入ってくると言う習慣は、

レディジェーンからタフィーとナナへ、

そしてその後に続く犬たちへと伝承された。

そして今では、私がトイレへ行く度に、

レディジェーンを含め、犬たちが狭いトイレの中に集合する、

と言う弊害を残してしまった。


 そんなタフィーの、ウンチをするスタイルは変わっている。

背中を丸めてしゃがんだ時、

両方の後ろ足をちょいと上げて、前足だけで立って、

まるで体操の競技でもやっているかのようにバランスを取りながら、

起用にウンチをするのだ。

(そういえば、その昔、剣道やバスケットボール部のスポーツ少年だった我が弟は、

こんなエクササイズをしていた)


 二本立ちだから、ぐらぐらするのだけれど、

タフィーにはそれが普通らしい。

「痩せマッチョー」のタフィーだから、

こんなことは朝飯前なのかもしれない。

(実際にやるのも、朝飯時の前だ)


 動物看護師のペギーが、以前に飼っていた雄のトイプードルも、

逆立ちして、おしっこをピュッピュッとするので、

「片足を上げた時、ついでにもう一方の足も上げるのでは」

とペギーは言っていた。

犬は小型化すると、用足しをするのにも、新たなスタイルが生まれるらしい。


 タフィーは、チャウMIXをけん制してか、高々と片足を上げて、憤然とマーキングをする。

雄犬の場合、より高くおしっこを掛けられるかどうかが重要なのだそうだ。

と言うことは、体の小さいタフィーにとって、

すでに勝敗は付いていると思うのだけれど、

犬は、自分の大きさがどうのこうのと悩む事は無いらしい。

本人はいたってまじめで、

より高く、より高く飛ばそうと足を上げるので、

後ろにけないかと思ってしまう。


 そんなタフィーを見ていると、

雄犬として奮闘しているのだから、

そそうの問題は仕方ないかな、とも思ってしまう。

とにかく、私たちの方で、対策を採るしかなく、

面倒でも、ワンコたちを、時々外に出して、

出来るだけタフィーの内臓タンクを空にすることにしている。


 さて、ある朝、私はいつものようにワンちゃんたちを、

用足しのために外へ出した。

空は青く、空気はさわやかで、小鳥はさえずり、

とても気持ちが良かった。


 そして、私は、内庭のゲートを開けて外庭に出ると、

ワイヤーフェンスの外側添いに、小さな鳥の巣を見つけた。

その、ピンポン玉ぐらいしかない大きさの巣は、

背の高い草の茎に付いていて、中には、ジェリービーンのような、白い卵が一個入っている。

その後、ジェリービーンもどきの卵がもう一個増えて、二個になったのに、

いつ見ても、母鳥の姿はない。

私は、その巣は見捨てられたのだ、と思った。


 ところがある日、その卵に、ふあふあの灰色の毛が生えていた。

私は、卵にカビが生えたと思ってしまった。

後で考えると、そんなことがあるはずないのに、(と言うか、私はバカだ)

ただ私は、悲しくて、卵を見つめていた。

すると、その毛の生えた卵が動く。 

それは、もはや卵ではなかった。

雛がかえっていたのだ!


 母鳥は、私がゲートを開ける度に、逃げていただけだったのだ。

あわてて家の中へ入り、窓から双眼鏡で見ると、母鳥がちゃんといるではないか。


 周りを、ワイヤーフェンスとブラックベリーの棘で守られた巣で、

雛たちは、すくすくと大きくなっていく。

そして、小さな巣のふちに一羽が座るようになり、

それから二羽目も座り、

ある日、一羽が巣立つと、残りの一羽も巣立っていった。

後には、誰もいなくなった空っぽの鳥の巣が、ぽつんと残されていた。


 それは、犬を、用足しのために外に出す、という煩い事への、

御褒美ような出来事だった。

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