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     Nana-4 犬のしつけ

 ナナは、いつも一生懸命だ。

どうしてそんなに一生懸命なのか不思議で我が家に来た時、すでにそうだった。

その性格は変えられないと思うけれど、

「良い意味での一生懸命」になれるかもしれない。


 私たちは、犬のしつけや、犬種の性格について説明されている本や雑誌を買ってきた。

そこには、ヨークシャーテリアの歴史も載せてあった。


 ヨークシャーテリアは、元々、労働者階級の、ねずみを捕る犬として生まれたそうだ。

また、ヨークシャーテリアの長い毛は掴み易く捕らえてコートの下に隠せる大きさなので、

飼い主が仕事場に連れて行き、上司に見つからないよう隠すのに都合よくできていた。

そして次第に、その美しさが認められ、

見下げられていた下層階級から引き上げられ、

上流階級にもてはやされる、と言う、シンデレラストーリーだった。


 ねずみ捕りと言えば、猫だってねずみを捕る。

こんな所に、我が家の犬と猫の接点があったなんてと感心したのだけれど、

当の本人たちは、そんなことはおかまいなしで、

我が家の、犬と猫の同居問題は、そのまま続いている。

それに、数年経つと、

「わぁーわぁー、きゃーきゃー」と騒いでいたかと思ったら、

気が乗らなければ何もしない時もあり、

単に、退屈しのぎに遊んでいる風でもある。


 アメリカでは、犬より、猫を飼っている人の方が多いらしい。

確かに、猫は、犬より飼い易いが、

犬は良くしつけされれば、人間にの忠実な心の友となってくれる。


 それで、ナナが来た始めのころ、犬のしつけの一つの方法として、

ナナのリードを私のベルトに付けて、行動を共にすることにした。

こうすると、お互いの親交を深めることが出来るし、ナナは私に従い、譲ることも学べる。

それに、私にとっても、ナナが私の周りにいることを忘れずにすむので、

都合が良かった。


 実は、ナナは、我が家へ来た頃、音も無く私の足の周りにいることが多かったのだ。

それはヨークシャーテリアの癖らしく、踏まないようにしなければならなかった。


 ところが、私が後ろを振り返ると、ナナはそこにはいない。

そっちにいるのかと、反対側へ振り返っても、ナナは逆の方へ行くので、またもや姿はない。

後ろにいるはずのナナは、私の視界から忽然と消えてしまうのだ。

どうやら、ナナはナナで私に踏まれないように気を付けていたらしい。


 大型犬も、犬の方が人間に道を譲る様にしつけるのは大切なのだそうだ。

特に何か緊急自体が起こった時に、踏んだりつまずいたりしないですむので両者の安全に役立つと言う。


 そうこうしている内に、訓練も終わり、

私の後ばかり付いていたナナは忙しく動き回る私を追いかけるのを諦め、

近くでじっとしていることが多くなった。


 それでも、私が二階へ行くと気になるらしい。

私がなかなか降りて来ないので、痺れを切らしたナナは、階段を上って行く。

ところが、私は、すぐに一階へ降りる。

ナナは二階から、

「また上って来るのかなー」とキッチンにいる私を覗きながら心配そうに待つのだけれど、

私がなかなか二階へは行かないので、しかたなく降りてくる。

すると、また私は、二階へ行く。

「えーっ!?」

と、がっかりするナナをからかうのは、面白い。


 それだけだったら冗談でも済むけれど、ナナには、私への執着心が強すぎる問題があった。

ティムが散歩に連れて行こうとすると、ナナは後ろ髪を引かれる思いで出かける。


 特に、ナナを車に残して買い物にでも行こうものなら、

私が帰って来るまで、吠えている。

最初は、

「かなり遠くで、犬が吠えているな」と思いつつ、自分の車へ戻る途中で、

それがナナの声だと分かり、恥ずかしさを通り越して、あきれてしまった。

車のガラスはどれも、ナナが舐めた唾液でベチャベチャ、ネトネトに濡れていた。


 訓練の成果もあり、車の中で、吠えながら待つことは無くなっても、

ナナは、引き続き、フロントガラスの所か、

後部座席の背もたれの高台に乗って、

今か今かと私の帰りを待っている。


 ナナが私を待って吠え続けるのは、車の中だけではなかった。

私が友人と買い物のため、

ナナを、友人の家の庭に残して行った時のことだ。

そこの庭は、リビングルームのように素敵で、

ゆったりと座って時を過ごすことができる。

そんな所で、友人のお母さん、

そして、そこの犬も一緒にいてくれたのに、

ナナは、私たちが帰って来るまで、

一時間以上も、家の中へ向かって吠え続けていたと言う。

ナナは、私が家の中にいると勘違いしてしまったらしい。

残念なことに、これで、ナナへの好感度は、

しっかりと地に落ちてしまった。


 またナナは、私がフリスキーやレディジェーンをなでると、

必ず自分もと、やって来る。

うっかりすると、猫と私との間に入ろうとして、問題を起こしかねない。


 それに、ナナには、社交性に欠ける、と思われるフシもあった。

公園で、ナナと散歩の時、私がうっかりナナのリードを離してしまい、

ナナは、遠くにいた、ご主人様と散歩中の大型犬に向かって突進してしまい、

びっくりしてしまった。

幸いに、喧嘩にはならなかったけれど、

知らない猫に対しても、猫が逃げないで、じっとしていてくれたら、

匂いを嗅ぐだけで何もしない。

とにかく、この行動はかなり危険だ。


 おまけに、ナナは、家の裏の林にいた近所の猫を追って、

ブラックベリーの茂みをくぐり、林へ行ってしまったこともある。

私は、

「あーっ!」

と叫び、

「ナナ!」

と大声で呼んだのだけれど、

一心不乱に木々の間を駆けて行く、小さくなったナナを見るだけだった。


 私は慌てて表へ飛び出し、リテンションポンドを回り、林へ下って行き、

ナナを呼び続けるのだけれど、もうそこにナナはいなかった。


 すると、ナナの吠える声が、どこからか聞こえてくる。

私が家の方を見上げると、ナナがウッドデッキの格子から顔を出し、

一生懸命に吠えていた。

私が急に消えたので、心配になったナナは、慌てて家へ戻り、

「ご主人様、どこへ行ってしまったの? 早く帰ってきて!」

と、私を呼んでいたらしい。

まるで、私の方が迷子になったみたいで、まぬけな結末だった。


 一生懸命すぎたり、執着心が強かったり、社交性が無いように思えるのは、

ナナの性格かもしれない。

または、子犬の時の扱われ方の影響とも思われる。

子犬は、あまり早く母親や兄弟姉妹から離さない方が良いそうだ。

その時期、母親から教われなかった事を、

人間が代わって教えるのには無理がある。


 私は、生後6週目のシーズーを抱いた、初対面のオバサンが、

「子犬があまりにもカワイイので、待てなくて、たった今引き取ったばかりよ」 

なんて言うのを聞いたことがある。

私は、

「カワイイですね」

としか言わなかったけれど、

このオバサンは、あと、ほんの数週間で、子犬が学べたはずの膨大なことを、

単にカワイイからという理由で家族から引き離し、

代わりに自分で教えられるのだろうか、

と、思ってしまった。


 人間でも、そんなことをされたら、その心の傷は、後々まで残ってしまったりする。

もしかしたら、ナナも、そのようにして、家族から、早くに引き離されたのかもしれない。

それならば、その時に失ったモノを、私は、愛情と訓練によって、補ってやれたらと思う。


 以前のナナは、落ち着きが無かったそうだ。

ナナを飼うのを考えていた友人の一人は、それが原因で、

ナナを飼うのを止めたと言っていた。

ナナはその時、一生懸命に、自分の居場所を探していたのだ。


 ナナの性格を知っている動物看護師のペギーは、

もし私がナナを引き取らなければ、ずーっと私が来るのを待って、

落ち着きがなく、他の誰をも受け入れず、

色々な飼い主と、動物保護センターを行き来する犬になっていたかもしれないと言う。


 ペギーもそんな犬を引き取ったことがある。

ブラッキーという名のプードルで、飼い主が、三〜四回も変わり、

もう少しで処分されそうな所を、

間一髪でペギーが助け出し、寿命を全うさせた。


 さて、ナナと過ごす初めての冬になり、珍しく雪が積もったので、

私たちはナナを連れて、雪の中を散歩することにした。

雪の公園はとても美しい。

葉の落ちた枝には雪が積もり、木々は白く染まり、

雪が踏み固められた小道は、白い林の間をくねりながら伸びている。


 ナナは、寒がりではないし、たくましく自然の中を一緒に歩いてくれる。

そこがアウトドア派と言えるところで、雪の野原も、なんのその、

積もった雪を蹴散らし、元気に走り回る。

と思ったら、急に、雪原のど真ん中で立ち往生した。


 ヨークシャーテリアの毛は、雪がくっつき易いのだ。

公園に着いた時、ナナのお腹に付いていた、たくさんの小さな雪の玉は、

今や、ゴルフボールのように大きくなっていた。

しかも、その雪のボールは硬くて、重くて、なかなか取れない。

ナナはそれらを、お腹いっぱいに付けているので、もはや走れない。


 私たちは、ナナを、濡れた時用にと思って、持ってきていたバスタオルに包むと、

リュックに入れて負ぶって帰ることにした。

家に帰ると、バスタブにお湯を張って、凍えたナナを入れる。

すると雪のボールは、みるみるうちに溶けていった。


 体を洗ってもらい、乾かされた後、疲れきったナナは、暖かいファイヤープレイスの前で、

ゆっくりとお昼寝をした。


http://frisky-friends.a-thera.jp/archives/20090921.html

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