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     Nana-3 犬と猫の同居、そして訓練

 我が家の猫たちは、

「せっかく心地良く暮らしていたのに、犬なんて余計なモノがやって来て、迷惑!」

なんて思っているに違いない。


 ではナナの方はというと、

「前の家でも猫がいたので、猫には慣れています」と言うかもしれない。

ただし、その猫は犬が嫌いだった。

つまり我が家の犬と猫の置かれた状況は好ましくないようだ。


 ナナは普通のヨークシャーテリアよりは大き目だけれど、うちの五匹の猫たちよりは小さい。

普通、犬のほうが猫より強いように思われている。

ところが小型犬には、自分より大きい猫は、ライオンやトラのように見えるかもしれない。

家猫が犬を襲うことは無いにしても、威嚇すれば犬は攻撃することもありえる。


 さてナナがやってきて、しばらくは何も起こらなかった。

新入りナナは、猫たちと一緒にいると、

「どうしたら良いのか分からない、困ったな」というような顔をしていた。

私は、そんなナナが可愛いと思っていたのだけれど、

すでに静かな攻防戦は始まっていた。

そんなこととは露知らず、ナナの横に猫たちがいると、

ナナが緊張しないように声を掛けたり、一緒に座ったりして、お互いを慣れさせようとしていた。

これは間違いではないにしても、

訓練の仕方を良く分かっていない私の方が、

お互いの均衡を崩してしまっていたかもしれない。


 とにかくハプスブルグは、

ナナが、いつも私にべったりと、くっついているのが気に入らない。


 そうしたある日、ついに恐れていたことが起ってしまった。

それは、たまたま、ナナが、ハプスブルグと私との間にいた時だった。

ハプスブルグは低い声で唸る。

"Move." (どけ)

ナナは、答える。

"No way." (やーだね)

そんな会話が聞こえてきそうな、西部劇の決闘さながらの場面に、

ただ私は、見入っていた。


 突然、堰を切ったように戦いが始まる。

悪いのは、そうなる前に彼らを止めなかった私だ。

そして戦いは、あっという間に終わってしまった。

幸い、両者に怪我はなかったけれど、ナナの口には、

逃げていったハプスブルグの、白い毛の塊が残っていた。


 危なかった。

ナナが、ハプスブルグに怪我を負わせたかもしれない。

さらに、ハプスブルグもその爪で反撃して、

最悪の場合は、ナナの目を潰すこともありえたのだ。

とにかくそれ以来、私の犬ナナと、私の猫ハプスブルグは、悲しいことに、

お互いが大っ嫌いになってしまった。


 ところで、残りの猫たちの反応は、それぞれに違っていた。


ロマノフは、怖がりなので、ナナに無条件で譲る。


タイニーは、二階のキャットタワーとか、いつも高台にいるので、

ナナとは行動範囲が違う。


ミスティーは、たいてい、キッチンにある、背の高い椅子の上に座って、

悠然としている。(もちろん、ナナには届かない)

「犬なんて下賤なモノとはかかわりたくないですわ」とでも言うように、つんっとしている。

彼女にとって、犬も猫もさほど変わりは無く、ただの他者でしかない。


レディジェーンは、賢く、用心深く振舞い、ナナを刺激しない。


フリスキーに至っては熟年猫なので、若い雌犬相手に無駄な争いなどしない。

ナナがいても、ひょいひょいと、どこにでも現れる。

その内レディジェーンを誘って、そこらへんで遊び始めた。


 一つ良かったのは、ナナは、相手が一定の距離を置けば、

自分もその距離を保つので、猫を刺激しないことだ。

もちろん、時間と労力を惜しまなければ、

ナナとハプスブルグの関係もいくらか改善できる。

まあその内に、と思っていたら、

訓練しなければならない犬の方が、どんどん増えてしまった。


 猫はさておき、犬の訓練には、

飼い主が、リーダーシップを取っているかが重要なポイントなのだそうだ。

また厳しすぎても、甘すぎても良くなく、

ほめるタイミングも、大きく作用するらしい。

さらに、その犬種によって飲み込み方は違うし、

同じ犬種でも、積極的な子と、引っ込み思案の子がいたりして兄弟同士でも違ったりする。

そう思うと、人間の子供とあまり変わらないのかもしれない。


 実際に、ある大学の先生は、

「子供を教えることは、犬の訓練と同じだ」と言っていた。

その先生は、経済学を教えていて、とても柔和な感じだった。

中学生の時、貸本屋をはじめ、高校では自分で学費を払い、父親に小遣いを渡した。

学生時代は、塾を経営し、有名大学の学費は自分で稼いだそうだ。

そして、お偉いさん方の子供や孫の家庭教師をして、

その生徒たちを、有名校へ入れるという、優秀な先生だった。

余談だけれど、

「成績が良い人は、必ずしも、本当に頭が良いわけでもない。」

とも言っておられた。


 さてナナの長所のひとつに、人間の食べ物を欲しがらないことがある。

これは、ナナはすぐに学んだ。

と言うより、私の知らないうちに、そうなっていた。

ナナの以前の飼い主は、催促されるがままに食べ物をやっていたらしい。

彼女は、久しぶりにナナに会って、人間の食べ物をねだらないのを見て、驚いていた。


 それは、数年たった今でも変わらない。

その数年間に、増えていった他の犬たちが、食べ物をねだっても、

ナナだけは、無駄なことなどしないで、いつもの場所で寝ている。


 代わって夫ティムは、犬たちを甘やかしていた。

それで、食事の時は、ナナ以外の犬たちに囲まれるようになり、

自分の身に災いを招いてしまった。


 おねだりをするワンコは可愛い。(可愛くしないと、もらえない)

だから、催促されると、負けてしまうのは分かる。

特に、目で語る、と言われるヨークシャーテリアは侮れない。


 時々、人間の子供が、親を試したりするように、我が家のワンコたちも、

たまに私のところにやって来て、

「くれるのかな〜」

と試しても、私は無視する。

私とニッキーは、(いつもやって来る動物苦手の人間娘)

「私たちは心が強いからねー」

などと言ったりして、うるうる目の誘惑などには負けない。


 ティムは、自分が誘惑に負けてしまった結果なのに、

都合が悪い時は、私にワンコたちの世話をさせる。

それで私はティムに、

「ちゃんと、別のお皿に取ってあるから、後でやってね〜」

と言うようにして、やっと、食事中に人間の食べ物をやるのを、止めてもらうことが出来た。

それでも、ワンコたちは期待しているらしく、

食事をしているティムを囲んで「もしも」の機会を逃さないため待機している。


 ある日、日本からのお客様が我が家を訪問していていた時のことだ。

食事中にワンコたちが騒がず行儀が良かったので、皆が感心していた。

そして、おりこうさんだったワンコたちには、ごほうびのオヤツが待っていた。

ところが、私は、オヤツをやる途中で、話をするのに夢中になってしまい、オヤツを握ったまま手を振り回す。

その間も、ワンコたちは辛抱強く待っている。

お客様たちの方は、我慢しているワンコたちが気になって会話に集中できない。

ついに、

「可愛そうだからオヤツをやってくれ」と頼まれてしまった。


 ナナは、とても扱い易い犬だ。

1日のほとんどは寝ている。

かといって太ってはいない。

私のところに来たければ、横に来てただじっとしている。

遊びたければ、自分でおもちゃを放って遊んでいる。

用足しのため、外へ行きたければ、吠えて教える。

散歩も好きだけれど、行けなくてもどうって事は無い。

お店でも、リードを付けてお座りをさせていると、私の足元で買い物が終わるまで、

ふせをして、大人しく待っている。


 しかも、踊れる。

と言っても、ひざの上に乗せて、脇を支え、こちらが音楽に合わせて前足を動かし躍らせるのだ。

某漫画で「ニャジラ」が同じように踊らされているのは可笑しかったけれど、

やってみると、あれはあれで、なかなか難しいのだ。

アイコンタクトが上手い、と言われるヨークシャーテリアでも、

意味も分からず踊らされるのは、はっきり言って迷惑らしい。

他の子達でも(猫も含めて)やってみたけれど誰も出来なかった。

ナナだけが集中して、私を見つめて踊ってくれる。


 ハプスブルグとの問題さえなければ、いい事ずくめのナナみたいだけれど、

実はそういう言う訳でもない。

ナナには、訓練が必要なところは、まだたくさんある。


 それに私たちの住んでいる所は、

日本ほどではないものの、一応、地震地帯だ。

さらに、何か別のの災害が起こって、

六匹もの猫たちと犬(その後増えた犬たちも含めて)を連れて逃げたり避難したりするのは大変だ。

猫のケージと、犬のケージを車に乗せたら、私たちの荷物は乗らない。

いや、車二台で犬組と猫組に分かれる方法もある。


 そう思うようになったのは、

アメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナの災害の時、

ペットたちが、どれだけ大変だったかを知ったからだった。

災害の後、残されたペットたちを、回収をしなければならなかった。(野生化されても困る)

そして、死んでしまった動物の処理も大変だったらしい。

さらには、回収されたペットたちを、飼い主に引き合わせるまで収容する、大きな簡易の動物保護センターの設置をしなければならなかった。

収容しきれなくなったペットたちは、

他の州の動物センターへ空輸までされた。

つまり、その費用たるや莫大なものだったらしい。

今では、アメリカでは、災害の時、

ペットと一緒に避難できるようになったそうだ。(その方が、安いのだ)


 災害が起こらないことを願うけれど、もしそうなったら、

他人に迷惑かけることなく、みんな一緒に仲良く逃げられたらと思う。(変かな?)


 と、このように立派なことは言うのだけれど、

白状すると、今の所、さほど訓練しなくても、

犬猫たちの問題は、たいしたこともないので、

私は、この件を解決するのを、先送りにしてしいる。


 とは言うものの、犬を訓練することは、教えることだけでもなかった。

私の方が教えられたことは、本当にたくさんあり、

それは、こうして、

ナナを飼い始めた時に、始まったのだった。

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