Nana-2 新しい生活の始まり
ティファニー & Co は、ニューヨークに本社のある有名ブランドとして、
世界中に知られている。
それにあやかって、ティファニーと名前が付けられたヨークシャーテリアが、
我が家へやって来た。
この子は、生まれて間も無く、詐欺で売られ、ヤンママとなり、
飼い主としっくりいかず、スペシャルラブを捜し、
その名のイメージとはかけ離れた、波乱万丈の最初の一年を終えたばかりだった。
そして、これから、新しい生活が始まる。
動く宝石、と言われるヨークシャーテリアに、
ティファニーの名はふさわしい。
ところが、ティムはその名では呼べないと言う。
それで、すぐにナナに変えられてしまった。
名付けにコダワリのあるティムにしては、あっけなかったけれど、
それまでティムは、我が家の女の子たちの猫3匹を総称して、
なぜかナナと呼んでいた。
この名前は、まるで持ち主を待っていたかのように、
私たち夫婦にとって、記念すべき初めての犬に付けられた。
ナナはフランス女性の名前だ。
そしてナナは、フランスの作家エミール・ゾラの作品で、
映画やテレビドラマにもなっている。
さらに、我が家の7番目のペットと言う意味でも、
ナナはピッタリの名前だ。
ちなみにアメリカでは、ナナは、おばあちゃんの愛称で知られている。
たまに、
「エッ、おばあちゃんなの?」
と聞かれたりもする。
とにかく、ティファニーには、都会的な繊細さのある、
高級感溢れたブランドのイメージがあるのに、
うちのナナは、都会派とは言い難い。
どちらかと言うと、アウトドア派だ。
さて、ナナを引き取りに行った日、私は、その足でトリミングに直行した。
ナナの毛は、子育てで艶を失い、
数ヶ月前に丸刈リ〜タにされた毛はそのまま伸び、
雑草のごとく、ぼさぼさで、みすぼらしかったので、
可愛くしてやりたかった。
それに、犬を引き取る時は、直接、家に連れて来ない方が良いらしい。
ワクチンを済ませていない子犬は別だけれど、
先ず、散歩に連れて行くなどして、気分を発散させ、
リラックスさせるのがお勧めだそうだ。
家みたいな囲われた場所は、自由に出入り出来ないので、
犬にとって留置所のようなもので、
下手すると、留置所から次の留置所への移動になったりするかもしれない。
例えそうでなくても、散歩を楽しんだ後、程よい疲れがあり、
新住居の気持ちの良いベッドに案内されると、
新しい飼い主の印象は、ぐっと良くなる。
トリミングの後、きれいになったナナは、
ちょっぴり伸びた前髪にやっと付いたリボンがとても可愛かった。
ナナは赤いリボンが、とても良く似合う。
次の日は、友人の家でパーティがあった。
来たばかりのワンちゃんを誰もいない家に置いてきぼりにしたくなかったので、了解を得て連れて行くことにした。
着いたとたん、ナナは社交界のデビューのごとく皆に歓迎された。
私が全く世話しなくて良いほど、可愛くなったナナは人気者だった。
ナナも、未だかつて、これほど注目を浴びたことは無かったかもしれない。
あまりにも、おりこうさんなので、
ティファニーだったころのナナを知っている友人は「まるで別犬のようだ」と私に言った。
犬は犬種によって性格が違う。
ヨークシャーテリアは、人と一緒にいるのが好きなので、
飼い主を離れて迷子になることはあまり無いそうだ。
性格が強く、怖がらないので、どこへでも連れて行ける。
しかしそれは、留守番には向かない犬と言うことでもある。
だから留守の多い飼い主は、二匹以上で飼うよう薦められている。
また、その性格の強さゆえ、ヨーキーを好まない人もいる。
そう言う私も、ヨークシャーテリアは、自分とは無縁の犬だと思っていた。
ところが飼ってみると、思いがけなく魅力的な犬だった。
おまけにヨーキーの毛は、人の毛に近く、美しいだけではなく、
他の犬のように抜けないので掃除が楽だ。
特に、アレルギーを持つ人にはお勧めの犬だそうだ。
ティムの従姉妹のレイニーに飼われることになったペニーも、
とても幸せそうだった。
この小さなおしゃまさんは、新しい家を気に入っているようで、
三階建てのフロアーを、自由に行き来し、
二匹の猫たち(ペニーよりかなり大きい)とも問題を起こさなかった。
用足しも、飼い主が外に連れ出した時にだけするし、
庭の芝生は広くて美しく、隣には公園もある。
ペニーは、以前のご主人様を恋しがる様子は全くなく、
夜は、レイニーのベッドの足の方に置かれたクッションの上で寝る。
以前のペニーは、毎年冬に、
暖かいフロリダのマイアミビーチにバケーションに行くというリッチな生活をしていたそうだ。
それでレイニーは、ペニーがニューイングランドの寒い冬に合わせられるかどうか心配していたけれど、大丈夫だった。
さて、以前のご主人様がペニーを手放した理由に、
ペニーの歯並びが悪いことが、あったかもしれない。
ヨークシャーテリアは、さほど古い犬種ではなく、
以前は今ほど小さくなかったそうだ。
小さな口に収まりきれなくなった歯は、
行き場所を無くして歯並びが悪くなったりするらしい。
子犬の時は、どの子がそうなるのか分かりにくい。
成長した後、歯並びが悪くなり、
飼い主が、気に入らなくなったりすることもあるらしい。
アメリカでは、歯並びへの関心度は高い。
ペニーの前のご主人様のようなお金持ちは、
ステータスを高く保ちたいだろうから、
自分の動く宝石の歯並びが悪ければ気になるだろう。
それに元々金持ちだから、数十万円ぽんっと出して買い換えてもたいしたことではない。
悲しいけれど、そうやって見放された犬が、新しいご主人様の元で、
それ以上に幸せになってくれたらと思う。
嬉しいことに、ペニーはそんな犬だった。
動物看護師のペギーは、あまりにも小さくて育たないと思われた、
病弱なヨークシャーテリアの子犬を安価で引き取り、
ミニーと言う名前を付けて、よく世話し、十六歳まで長生きさせた。
ペギーは、ティーカップと言うあだ名で、
ファッションの一部としてもてはやされる犬たちを、可愛そうだと言う。
私も、何人かの人たちから、
「犬をバッグに入れて買い物に連れて行きたい」と言うのを聞いたことがある。
もちろん、そうやって、飼い主といつも一緒にいられるのであれば、
これ以上のことは無いと思うけれど。
人気が出れば、マーケットがそちらへ動いていくのは仕方がない。
だから私は、犬を飼いたい人に、その犬種を良く調べて、
せめて信頼できる、良心的なブリーダーから、直接買って欲しいと思う。
その犬は、生きているものだし、十数年もの間、付き合うことになるのだから。
そして、売りに出せない規格外の子犬たちのことも考えてくれたら、とも思う。
私は、ミニーが、ペギーのように世話の出来る人に引き取られて、
本当に良かったと思っている。
そうでなければ、ミニーは短命に終わっていたかもしれない。
ナナも、規格外のヨークシャーテリアだ。
血統書が無いので、純血である確証も無い。
一般には、あまり知られていないけれど、
純血種を守り、その姿を美しく留めることは簡単ではない。
インブリードやラインブリードなども理解しなければならないそうだ。
とにかく、純血であろうとなかろうと、私はかまわない。
それにナナは美人犬だ。
ヨークシャーテリアは、胴長の体系をしている。
その上、規格外のナナは、体脂肪の少ない筋肉質ガッチリ系で、
抱っこすると、5キロの米袋を抱えているみたいだ。
それがまた可愛くて「よね(米)ちゃん」と呼んだりしている。
なぜか雰囲気が、「一生懸命」と言う感じで、それもまた可愛い。
散歩に連れて行っても、可愛いと、皆から良くほめられる。
可愛いナナがやって来て、我が家は万々歳といいたいところだけれど、
世の中、そう甘くは無い。
ナナがここに住み始めた頃、一見、平和そうに思えた猫たちとの生活が、
実はそうではなく、徐々に問題が浮上してきた。
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