Frisky-2 丸刈り~たの猫
その年の夏、フリスキーは丸裸にされてしまった。
フリスキーの毛は長く、その柔らかい下毛は絡みやすい。
ブラッシングを怠ると、すぐ毛玉になり、うっかりしていると、
毛玉はさらに広がってフェルト化してしまう。
もうこうなると修復不可能で、私の手には負えない。
と言うことで丸刈りにされたフリスキーは、
肌に張り付いたフェルトのコートを脱ぐがごとくサッパリとした。
ところが、三歳のオス猫にしては痩せている。
毛も艶がない。
最初、私はフリスキーは年寄り猫かと思っていた。
おそらく皮膚が引っ張られて具合が悪く、食欲もなっかたのだろう。
とにかくしばらくすると、痩せて貧弱だった体は、若々しくがっしりして、
立派なマッチョー猫になった。
シェイブしてくれたのは、動物看護士(Veterinarian Technetium)のペギーだ。
ワシントン州では、VET-TECになるために大学で2年間勉強する。
ペギーは、数人の獣医の元で経験を積み、動物救急病院でも働いた。
そして、ペギーは、獣医ではないにしても、
実際的な知恵で、動物を飼っている私たち夫婦や友人たちを、いつも助けてくれる。
もし彼女でも知らない事があれば、詳しく調べて、しかも丁寧に教えてくれる。
それに動物の性格や行動、感情を良く考えて、やさしく扱ってもくれる。
ところで飼い主が遭遇する問題に、動物の治療費は高いというのがある。
もっとも最近はペット保険なるものが出始めたらしい。
でもまだ一般化していないし、保険料も安いとは言えない。
動物だけの問題ではなく、ここアメリカでは、
日本の国民健康保険のような公的保険はない。(最近、2010年になって、その法律が出来た所だ)
社会保険に相当するものはあるけれど、それに入っていなければ、
高額な民間の健康保険に加入しなければならない。
特に、この不景気の中、会社がつぶれたり解雇されたりした人々も増えていて、
健康保険に入っていない人は多く、それが社会問題となっている。
私たち平民にとって、ペットのための高額な治療費は痛手となるので、
日ごろから彼らと良いコミュニケーションを撮り気を付けてやりたい。
人間は具合が悪いと言えても動物は言えない。
早く気付いてやれれば軽い内に、しかも安価で直すことができるかもしれない。
私たちでも、ペットたちのストレスが溜まらないように気を付け、(それは人間も同じだけれど)
いつも体も触ってチェックし、異常がないかを調べることぐらいは出来る。
好き好き、ギュッ!もするし、おしっこやうんちの状態もチエックする。
(フリスキーの場合は、どこで用足しをしているのか分からないので無理)
ちなみに、自然界で生きる動物は、
人間界にいる動物のような病気に、あまりかからないそうだ。
自然界では当然だけれど、オルガニックの餌を食べているからかもしれない。
出来れば私たちも、
いつもオルガニックの食物を食べられれば良いのに、と思う。
とにかくフリスキーは健康な猫なのに、
その毛は「持病か」と思えるほど絡みやすかった。
さらに外猫なので、草むらで草の種なども付けてくる。
小さな種は、真珠貝の中に入った真珠の芯のごとく、毛玉の芯になる。
それで私たちは、いつもブラッシングをして、
毛の手入れをしてやらなければならなかった。
たまにだけれど、お風呂にも入れる。
フリスキーは、シャワーよりお風呂のほうが好きだ。
大きなバケツにお湯を張って、そこにチャッポンと入れてやると、
気持ちよさそうにじっとしている。
もちろん、撫でられるのも大好きで、大きな音でゴロゴロと喉を鳴らす。
それと共に、まるで鈴が転がるような、
リリリとも、ルルルとも聞こえるような不思議な音も出す。
ところが脇腹の一部分だけは、
まるで古傷でもあるかのように、触られるのを嫌がった。
ペギーは、フリスキーの左前足の皮膚の下に、
ビービーガンの小さな玉が入っているのを見つけた。
シャイだと思ったのは、(いや、用心深かったとも言える)
誰かに撃たれたからかもしれない。
もしかしたら脇腹にも異常があるのではと心配したのだけれど、
獣医のcheck up(健康診断)では問題なかった。
とういうことで前足のビービーガンの玉は、歯石を取った時についでに取ってもらった。
そうしてしばらくすると、
フリスキーは、打って変わってフレンドリーな猫になり、
お客様が来るたびに、出迎えて甘える様にまでなった。
その後、フリスキーは数回、丸刈り~たにされた。
体のがっしりしたフリスキーが丸裸になると、肉屋で売っている丸ごと鶏みたいになる。
とは言え外猫だから、そんなにしょっちゅう裸にはできない。
夏とはいえ、ここの夜は寒い。
体温を保てるように、毛を刈らなければならない。
さらに変なカットでは困る。
私たち人間に馬鹿にされ、自尊心を傷つけられては可哀相だけれど、
立派な毛は、ライオンのたてがみのように強さの象徴でもあるらしい。
最近、猫のおしゃれ用の、ふぁふぁの首輪(犬用もある)があるけれど、
猫ブティックのオーナーが、
「猫がこれを付けると自信が増すらしい」とテレビで言っていた。
さて、猫はきれい好きで知られている。
猫を、オシャレな女の子だとすると、
犬は、元気に遊び回る男の子みたいだ。(すぐ汚れるし、猫のように自分で毛の手入れをしない)
だから飼い主は、
犬の方に、より毛の手入れに手間をかけているかもしれない。
汚れた犬と言えば、ある日、小型犬が家の前を通りかかったので、
呼んでみると、尻尾を振って寄って来てくれたことがある。
性格は穏やかで、やせてはいないし、首輪も付いている。
迷い犬なのかどうかは分からない。
単に脱走して、散歩を楽しんでいるだけなのかもしれない。
ただ、灰色に汚れていて、毛はカパカパで、
特に前足の毛が、まるで鎧でも付けたかのように固まっている。
なぜ、そこまで飼い主が放っておけるのかは理解に苦しむけれど、
人にはそれぞれの事情があるのだろう、とその時は思った。(それを言うなら、うちのフリスキーも他人事ではない)
可愛そうなので、はさみで前足の鎧もどきを切り取って、歩き易くしてやった。
保護してやりたかったけれど、
その時、我が家にはすでに四匹もの猫たちがいたので、助けてやれなかった。
おやつをやって離すと、「行く所があるのよ」とでも言わんばかりに、
未練も無く、トコトコと行ってしまった。
それを時々思い出しては、「もっと何か出来たのでは」と後悔している。
さらに汚れた犬と言えば、あるホワイトテリアも思い出す。
彼のご主人様は帽子のデザイナーで、帽子作りの工房のある古い素敵な家に住んでいた。
そして、そのホワイトテリアは、いつもその素敵な家の「前庭」にいた。
ご主人様は、前々から、ホワイトテリアを家の中で飼いたいと思っていたのだけれど、
思い通りにはならなかったのだそうだ。
この家には、もう一匹、黒毛のもこもこっとした中型犬がいる。
ホワイトテリアは、この犬と一緒に外にいる方が好きなのだ。
しかも外で転げまわるので、
素敵なホワイトテリアのイメージとは、程遠くなってしまった。
「トリミングに連れて行っても、あっという間に汚い犬に戻ってしまう」
と、ご主人様は悲しそうに話していた。
そして素敵な家とは裏腹に、庭の芝生は無残な状態となっている。
それでも、そこが二匹にとっては素敵な場所なのだ。
そのむき出しになった土の上に、二匹仲良く一緒に寝そべっている。
灰色になった白い犬と、白っぽくなった黒い犬は、
共に土埃に塗れて幸せに暮らしている。
とは言っても、普通、ペットたちは、
自分の毛の手入れをしてくれるご主人様を、ありがたく思っている。
だからフリスキーも、ブラッシングの時、少々痛くても我慢する。
ブラッシングした後の毛はふわふわで、気持ち良さそうだ。
もちろんフリスキーも、自分で絡まった毛を引き抜いたりして、
できるだけ毛の手入れをしていた。
このようにしてフリスキーは、
生涯にわたって自分の毛と戦っていくことになる。
フリスキーは、ペットショップで購入されたと聞いているけれど、
絶対に純血種ではない。
母猫はそうであっても、彼女の私生活は分かったもんではない。
もし、兄弟姉妹たちがいるのだとしたら、
フリスキーのような毛並みでないことを祈るばかりだ。