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     Lady Jane-2 レディジェーンの品格 

 ハプスブルグ、ロマノフ、そしてレディジェーンと続くと、

「貴族の出?」と思われるかもしれないけれど、

私たちは、ただの庶民である。


 それでは、なぜレディジェーンという名前なのかと言うと、

すでに我が家には、その名前の付いた猫の縫いぐるみがいた。

それは私が衝動買いした、柔らかい実物大の猫の縫いぐるみで、

ちなみに、ティムが衝動買いしたオラウータンの縫いぐるみには、

フェンウィックという名前が付いていた。

動物好きの私たちだけれど、そのころはペットを飼う予定は全く無く、

名前を付けたのは余興のつもりだった。


 では、さらになぜその縫いぐるみに、レディジェーンの名前を付けたかと言うと、

当時、イギリスで作られたユーモアーたっぷりのテレビ連続ドラマに、

レディジェーンという魅力的なキャラクターがいたからだ。

また、実際に、歴史上のレディジェーンも存在する。

こちらは悲劇の人で、映画やテレビドラマも作られている。


 私たちのレディジェーンは、生粋の野良子猫だったのに、女帝野良とはまた違う品があった。

「前足を交差して座る姿は凛として、イギリス貴族の肖像画にそっくり」とティムは自慢する。

そう思って見ると、レディジェーンの名の通り、雰囲気はイギリス系かもしれない。

それに、彼女の頭の良さは「Aプラス」と言える。

可愛いし、訓練したらテレビスターになれるかもしれない。

まあこれも、ただの親馬鹿ならず飼い主馬鹿かもしれないけれど。


 動物に芸をさせるのは不自然だと言う人もいるけれど、

飼い主とのコニュニケーションが上手く取れていれば、動物たちは幸せだし達成感もある。

特に、狭いところで飼われていたり、夫婦共稼ぎなどで飼い主が家を留守にすることが多いと、

退屈するペットたちが多い。

「何か芸ができれば、ほめられたりしてストレス解消にもなるので、

飼い主との意思の疎通も良くなり、お互い楽しく生活できるのでお勧めだ」と聞いたこともある。


 とは言うものの、私たちには猫を訓練する時間はない。(すでに、猫四匹の大所帯になり彼らの世話に追われている)

それに、万が一有名になったとしても、

レディジェーンにとって、いったいどんな意味があると言うのだ。

毎日お兄ちゃんたちと、面白おかしく遊んで暮らしているのに、

「これ以上何を?」と言いたいところだろう。


 レディジェーンの成績が「Aプラス」だとしたら、

ハプスブルグは優等生だけれど、

こちらの言うことを聞いてくれそうにもないので「B」かも。

ロマノフにいたっては、おまけして「C」をやりたい。


 それでもティムは、ロマノフを

「往年の名女優ベティ・ディビスの目をしている」と言って可愛がっている。

だからティムにとって、ロマノフの頭の良し悪しなど、どうでも良い話なのだ。


 レディジェーンが我が家に来た時、彼女はまだ子供で成長期だった。

そして人間の子供がするように、私の口調を真似しておしゃべりを始める。


 テレビなどで「うちの子はおしゃべりが出来るのよ」なんて言うのを聞くけれど、

第三者は「そうかな?」とも思ったりする。

分かりきった事だけれど、犬や猫が人間の言語を話せるはずがない。

ところが、飼い主など聞き慣れた人には、

彼らの出す音は、しゃべっているように聞こえる。


 そういえば人間でも、聞き慣れていれば、発音ははっきりしなくても理解はできる。

私など、大人になってから英語圏に住むようになり、パーフェクトな英語の発音は出来ないけれど、

周りの人々の理解により、生活でのコミュニケーションに支障はない。

それでも、中には、通じにくい人もいたりする。

さらに驚いたことに、教養があるなしにかかわらず、

「イギリス英語の発音が聞き取れない」

と言うヨーロッパ系アメリカ人もいるらしい。(友人の一人にもいた)


 とにかく、初め、私は、猫は「ニャー」ぐらいしか鳴かないのかと思っていた。

ところが、彼らは実に色々な音を出す。

今うちにいる猫の一匹は、あまり「ニャー」とは鳴かない。

代わりに「ウニャ、ウニャ」とか「ニィッ、ニィッ」とか、

およそ猫の鳴き声と思っていなかったような声を出す。

時には、口だけ動かして、可愛く、甘えるように、

「超音波?」とも思える、鳴き声になのかどうか分からないような、

音らしきものを出したりしている。

猫たちは、それらを自分の気分で好きなように出しているのだけれど、

中にはレディジェーンのように、人間のイントネーションを真似て、

こちらに話しかけようとするのもいる。


 それで、私がレディジェーンに毎朝

"How are you?"(元気?) と、子供に話す様な口調で聞くと、私に、 

「フェン ゥエ エーン?」と聞き返してくる。

また、おとなしくて、気落ちしているように見える時に、

"What's wrong?"(どうしたの?)と聞くと、今度は、

「フェッ ゥエーン?」と、私に答えてくれる。(この違いを文字にしても、仕方ないのだけれど)

とにかく、私の口調を真似て、何か訴えようとしている。


 ところで、私がトイレに行くと、必ずレディジェーンは後を追って入ってくる。

我が家では、トイレ使用中でも、バスルームのドアは、お客様がない限り開いている。

それは、ティムの主張でそうなった。


 結婚した初め、私は、トイレ使用のためバスルームのドアを閉め、

「カチャッ」と鍵を掛けて、用足し(ウンPの方)をしていたら、

ティムが怒って、ドアをドンドンと叩くではないか。

どうしたのかと聞いてみると、

「自分の家のバスルームで、夫婦なのに、しかも家には自分しかいないのに、

ドアを閉められたり、鍵を掛けられたりするのは侵害だ!」

と言うのである。

私は

「えーっ!?」と思ったけれど、考えてみるとその言い分も一理ある。


 アメリカ人同士の夫婦でも、

「夫がそう言ったのでびっくりした」という奥さん方の話を聞いたことがある。

と言う事は、これがアメリカの習慣と言う訳でもなさそうだ。

どちらにしても、日本ではありえない。(どの夫が、ウンPをしている妻に、「トイレのドアを開けていろ」と言うのだ!?)

私は、国際結婚には驚かされることがあるものだと思った。


 その後、今度は、用足しをしていたティムが私を呼んだ。

昔の日本だったら、トイレットペーパーが無いとかが理由だけれど、

今や日本でもアメリカでも、バスルームの棚に買い置きぐらい十分にある。

何事かと思って行くと、

「時間が掛かりそうで退屈だから呼んだ」と言う。

「臭いのでこれは止めてくれ」と、私は言った。


 とにかく、レディジェーンは、トイレのドアが閉まっていると、

人間の子供が「開けてー!」と言ってドアをたたき、お母さんと一緒にトイレに入りたがるのと同じ様に、鳴きながらドアをスクラッチする。

だから、ドアが閉まっていたら、こちらとしても、ゆっくり便座に座ってはいられない。


 そんなある日、私が用足しに行くと、

レディジェーンが、ふんふんと歌でも歌っているかのように上機嫌で後をついて来た。

ところが急にロマノフが、どこへ行こうとしていたのか定かではないが、

失礼にも、バスルームの手前で彼女の前を走って横切った。

レディジェーンは、その時怒って、

「ゥエイ!」(ヘイ!の意)と怒鳴ったので、私はびっくりする。

それから、明らかに、

「全く、もーっ!」とでも言っているかのように、鼻息を荒くしてバスル−ムに入って来た。

どうやらレディジェーンは、言葉の意味を理解して使っているらしい。


 その後、人間の子供が語彙を増やし、自分の言葉で意思を伝えようとするように、

レディジェーンの言葉も複雑になっていった。

なんだか「ウニャウニャ」言っている。

こうなると、私の方が、彼女の猫語を覚えなくてはならない。

勉強不足の私に譲歩したレディジェーンは、より高度な意思の疎通を諦め、

私にでもわかるように、例えば、

「おなかがすいたー」とか言うことを、簡単にしか言わなくなってしまった。


 ところでレディジェーンは、私がトイレに行く時だけでなく、

お風呂やシャワーの時もバスルームにいる。

私が濡れた髪をドライヤーで乾かした後に、自分もドライヤーを当ててもらいたいからだ。

その暖かい空気で吹き付けられるのが好きらしい。

この時、レディジェーンは、何も言わないけれど、

その可愛い瞳で訴えながら、自分の番になるまでじーっと待っている。

そして、ドライヤーを当ててもらうと、ゴロンゴロンと嬉しそうに転がる。


 レディジェーンが、どのように、

ロマノフとハプスブルグにコミュニケーションを取っているのかは知らないけれど、

仲が良く、よくほめてもらったりしているので、うまくいっているらしい。

ロマノフはレディジェーンを可愛がる、と思ったら、突然襲い掛かった。


 レディジェーンは避妊されている。

我が家に引き取られた後、すぐに手術された。(手術代は、保護センターが負担するので無料だ)


 襲い掛かられたレディジェーンは、

直ちに、体重が自分の二倍近くあるロマノフに反撃する。

そして、あっという間に勝敗は付いてしまった。

もちろん、レディジェーンの勝ちだ。

ある時は、前足でロマノフの顔の真ん中をぱしっと押さえて、勝負を付けた。


 ロマノフにはオスとして肝心なものがないので(レディジェーンにもないけど)全く意味をなさないのに、これを今だに繰り返している。

固体によっては、発情に目覚めてから去勢されると、ロマノフのように感覚を覚えているらしい。

放尿の問題はないし、ロマノフ自身、自分の行動が意味不明と思われる。

大好きなレスリングの延長戦として、混同しているだけなのかもしれない。


 ハプスブルグには、この問題は全くない。

「レディジェーンは僕たちの可愛い妹」と、それ以上の何者でもない。

ハプスブルグは、やっぱりお兄ちゃんなのだ。


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