7. 旨味のない依頼
ゴブリンを討伐して数日。
4人で課題をこなした証拠として、担任にスカウターで録画していた映像を提出し帰路に着く。
あれからゴブリンの保有していた武器は、全て質屋で売却した。
売却したと言っても、大半の武器は錆び付いていたりして大した金にはならなかったが、1匹だけシールド耐久値上昇する上等な紅玉髄のネックレスを持っていて、それがそこそこの値段になった。
成果は山分けと言うことで、最初はそのネックレスを使うかルビデとラトニスに聞いてみたが、2人はゴブリンが装備していた物ってちょっと汚そうで嫌……と渋面になったので、景気良く売っぱらい、金額は山分けにした。
なおアラクレプトの尻尾はラトニス家の夕飯になった。あいつ何でも食うのか? 正直引くわ……
そんな訳で、俺は休日という事もあり再びギルドに来ていたのであった。
「この依頼、お願いします」
「かしこまりました」
「これが依頼の品です」
「はやっ!?」
ゴブリンの時についでに集めていた薬草を、依頼受諾と同時に渡し、依頼即完了。
これは恒常依頼でいつでも出ている依頼だから、薬草さえ事前に集めておけば即座に依頼完了も不可能ではない。
「これでオッケーですよね?」
「ま、まあそうですけれども……」
流石にこんな事をしてくる人を見るのも稀らしく、些か驚いたようにその兎人間が頷き依頼完了手続きを進める。
「ふむ……あとは、この依頼を受けたいのですが」
受付嬢をからかうのもそこそこに、俺は本来の用事を彼女に指し示して見せた。
◇
依頼主:パストラル地区警察
タイトル:盗賊団確保依頼
場所:パストラル地区警察本部
依頼内容:近年パストラル地区で暗躍する盗賊団の拠点を確認したため、盗賊団制圧のお手伝いが出来る方を募集します。
受諾制限:犯罪歴の無い者に限る。
報酬:☆30,000
◇
「かしこまりました。ではこちらのカードキーをどうぞ」
依頼の登録手続きを再度完了させると、受付嬢が警察から預かっていたカードキーを俺に手渡す。
どうもこれは警察本部の立ち入り禁止エリアに立ち入るためのカードキーで、同時にこれが依頼受諾者であるという証明にもなるとか。
「ありがとうございます」
……しっかし、この依頼しょっぱいな。
盗賊団制圧の報酬がたった3万て。これ仮にも命掛かってるよね?
命懸けになるような依頼に対して日給3万とか割に合わねー。
スペードのランク上げのためじゃなかったら絶対受けないような依頼だわ。
……と言うわけで、今回この依頼を受けたのはスペードのランクを上げるためだ。
何故こんなことをするかと言うと、単純に低ランカーは依頼で地球へと立ち入ることが出来ないからだ。
地球は魔法の使用が禁じられているエリアだ。
惑星一帯に魔法検知の結界が地球の磁気圏に乗せるように張り巡らされていて、魔法を無断で使えば即座に宇宙警察にバレてしまう。
そんな中で高ランカーしか立ち入ることが出来ないのは、逆説的に無断ではない状態になったらそれはほぼヤバいということを意味する。
そのためにも戦闘ランクのスペードは嫌でもあげる必要があるのだ。
「転送エリアはどこですか?」
「2階になります」
「ありがとうございます」
エレベーターに乗って2階に移動し、案内に従って転送エリアへと足を運ぶ。
転送エリアと書かれた看板を確認し部屋に入ると、そこには部屋を埋めつくさんばかりに転送装置が並んでいた。
転送装置は宇宙に置ける移動手段の一つだ。
基本的には1人乗りの機械であり、床に敷かれた転送パッドとその天井部がワンセットとなっている。
使い方は簡単。転送パッドの上に乗って行きたい場所を告げると、その場所にある転送装置にワープ出来るのだ。
欠点としては宣言した場所に転送装置が無いとワープできない事があるが、一瞬で別の惑星にも行けたりするため宇宙では重宝されている。
「パストラル地区警察本部っ!」
転送装置の上に乗り、目的地を詠唱する。
その瞬間足元のパッドに一瞬黄緑色の魔法陣が現れ、視界が瞬く間に黄緑色に染まった。
黄緑色に染まった世界で瞬きをすると、同じ速度で視界に再び黄緑以外の色が戻っていき、俺は転送装置から一歩を踏み出した。
「おお、本当に一瞬で来たな」
辺りを見回して見ると、同じ室内ではあるがその様子は先程と全く異なっていた。
警察署は明るい空気を一見すると醸し出していて、清潔な空間を彷彿とさせているが、職員が皆警官と言うだけあって何と言うか皆目付きが鋭い。
カタギともヤの者とも違う独特なオーラを纏っていて、悪い事を何もしていないのに思わず身構えてしまう。
「すみません、依頼を受けて来たんですが……」
「依頼? ああ、じゃあライセンス提示してくださーい」
何とも間の抜けた様な声で受付のアクアン星人が言う。
指示に従いガーディアンライセンスを提示すると、その受付の眼が突然灰色に染まり、バチン!とフラッシュが俺を襲った。
「うおっ!?」
「あー、驚かせてすんません。アタシ右眼が多機能義眼でー、今のはライセンスを撮影させて貰いましたー。奥の会議室へどーぞー」
「は、はあ……」
調子狂うなあ。
しかし義眼か。
見ると彼女の眼はもう元通りの色に戻っていて、パッと見では全く見分けが付かない。
案内された会議室に入ってみると、何人か宇宙人が席に腰掛けている。
自分も適当な席をとって座り、そう言えば前世では仕事でセミナーとかに行くとこんな会議室に通された事があったなあとぼんやりと思い出していると、犬の様な耳を持った女性の地球人が入室する。
「えーと、只今より盗賊団対策会議を始めます。私はこのプロジェクトチームを任せられているブレスキーだ。今回この依頼を受けてくれた君たちに、まずは感謝を」
ブレスキーはそう言うと魔法で俺たちに紙の資料を配り始める。
「今回討滅する盗賊団はピコリペッシと呼ばれる盗賊団だ。根城になっているのはモンテナ地区の郊外、構成員はおおよそ30人程と推察される」
「30人? 随分と小さいな。これくらい警察で何とかならねーのか」
「他の事件に追われていて人員を割く事が出来なくてな。本日午後より作戦決行、作戦中は警官の指示に従い行動すること。ではまず依頼受諾者の自己紹介から頼む」
確かに、30人位の盗賊団なら警察本部だけでも何とか出来そうなものだが、ブレスキー曰く今は別の事件を追っているとかで人が出ない。
ラルリビ星ではそんなにデカい事件とかは最近起きていないはずなのだが。まあいいか。
「えーと、アーティです。属性は重、固有スキルは念力です」
「念力か……」
「念力って、あの『ハズレ』ドライブか」
「誰でも出来ることが固有スキルなあ……可哀想に……」
自分の番になって適当に自己紹介をすると、周りからヒソヒソと揶揄する声が聞こえた。
こいつらテレキネシスが地球では如何にチート能力として扱われてるのか分かってないな?
ああでも普通は念力で動かせる物は限りがあるんだっけ。俺トリプルドライブ出来るの言い忘れてたわ。まあいいか。
またまあいいかとか考えてしまった。俺も歳だなぁ……
「ご苦労。ではこれより部隊を3班に分ける。以後は各班長となる警官の指示に従え」
するとブレスキーが名前を列挙していき、それに合わせて冒険者たちが立ち上がりそれぞれ警官の元へと歩いていく。
俺に手招きをするのはブレスキー。彼女元へと歩いていくと、彼女はやれやれと言った様子で俺に語りかけた。
「非力な念力スキルでは他の奴らの下には置けんからな……」
お前もそういう認識なのか。こんにゃろー。