2. ギルド登録
パストラル地区。
正に今自分が住んでいる地区であるが、ここはラルリビ星が一つの連合国となる前はパストラル国と言う一つの国であったそうだ。
国家と言う概念が無くなった時、ここはパストラル地区と言う名称になり、ラルリビ連合に組み込まれることとなった。
その中でもパストラル地区の名所と言えば、グレビス院だろう。かつて世界を救った闇の守護者グレビステックが大戦争の後に建てた孤児院らしい。
何でも救世主と呼ばれる存在であった地球人が、かつて地球に存在した教会を参考に建てたらしい建物であり、実際に足を運んでみたらマジで何とも中世ヨーロッパ臭くて涙が出そうになった。
ちなみにその救世主とか言うよく分からない奴は調べてみたらイギリス人であった。
魔法ファンタジーの本場やんけ!と密かにテンションが上がったのはここだけの話だ。
地球人と言う単語が無かったら異世界転生を信じて疑わなかったけど、生憎今の俺は宇宙人だ。
それも立ち位置としてはアメリカで作られた神戸和牛に国産神戸和牛の魂が宿った、みたいなややこしいポジション。
ちなみに、この惑星の他の地区にはオルデ地区、エクスクルシ地区、モンテナ地区などがある。
モンテナ地区はオレンジ色の蛇みたいな魔物が多く、パストラル地区はゾンビなどのアンデッド系の魔物がたまに出る。
噂ではグレビステックの闇の力が強すぎて、グレビス院に漂う闇の残留魔力が濃くなりすぎて遺体を埋葬すると翌朝にはゾンビになるとか。
闇の力が強過ぎて死体を埋葬するとソイツがゾンビとなって湧いてくる孤児院・教会ってどうなんですかね……
そんなパストラル地区の東部には最近、X-CATHEDRAと言う宇宙をまたに掛けるギルドの支部が出来ていた。
めっちゃローマ字だったせいでこの惑星の言語にすっかり慣れ親しんでしまっていた自分には一瞬読み取れなかった。
だって俺日本人だし。日本人はひらがなカタカナと漢字の文化だし。
と思ったけどよく良く考えて見れば俺今欧州系、それも多分アングロなんちゃら系のラルリビ星人とか言うやつだ。つーか転生して暫く経つが、今更だけどこのラルリビ星って言い難いな。舌噛みそうだ。
そんなこんなで今日は、学校帰りにそのえくす……まああのギルドにさっそく寄ってきたって所だ。
ギルド。
「これ、本当に異世界じゃないんだよな……」
いや、この星に転生して9年以上経つけれど、未だにここが異世界と言われても俺は驚かないぞ。
そりゃあ、ギルドに登録しても『冒険者』と言う肩書きはないし、アルバイトみたいなノリの曖昧な肩書きしか貰えなかったりするのはちょっとズッコケるが、それでもギルドはギルドだ。
胸も高まると言うものよ。
勇気を振り絞り、ギルドの支部に足を入れると、そこは大勢の人で賑わっており、掲示板にはいくつもの依頼が載っている。
ただ、ファンタジー小説とかと違っていたのは、まずその掲示板が宙に浮いた半透明の薄いスクリーンである事。
そのスクリーンをタッチすると、依頼の詳細を確認することが出来たりすることが出来るようだ。
ギルドの中も白を基調とした清潔な空間となっており、いわゆる酒場みたいな空気はない。
なぜならここは剣と魔法の世界……なのだが、ここにはSFも何故か混ざっているのだ。
異世界転生だったらいわゆる冒険者という立ち位置にいるであろう彼らは皆様々な武器を抱えているが、大きな違いとしてまず彼らの大半はスカウターを身につけているし、半透明なスクリーンなどを眺めているのだ。
ラノベの世界にス〇ートレックやス〇ーウォーズが侵略しているような感じと言うか、何と言うか。
「うわ……こりゃ凄いな……」
「なんだボウズ、この時間に来るのは初めてか?」
「あ、はい。今日はじめてここに来ました」
「おお? って事は新入りか? ライセンス登録はしたか?」
地球人っぽいおっさんが声をかけてくる。
ライセンスと言う単語に頭を傾げていると、そのおじさんが目を僅かに細めて此方を観察すると、口を開く。
「その様子だとしてないみたいだな。ライセンスってのはここで依頼を受けるための身分証みたいなもんだ。正面の受付で登録をすればすぐにライセンスが発行されっから、ちゃちゃっと受けてきな」
「あ、はい。ありがとうございます!」
おじさんに言われて、受付へと向かう。
そこまで広くはないけれども、受付には2人ほど女性と思わしき人が立っている。片方は犬のような垂れ耳を持った地球人。もう片方はこの惑星固有の知的生命体であるラルリビ星人。ラルリビ星人は兎みたいな獣人だ。
何となく、僕は犬耳地球人の方に向かう。
地球人だからと言う訳では無いけれども、犬耳が気になったからだ。
「X-CATHEDRAラルリビ星パストラル地区支部へようこそ。御用件は如何でしょうか?」
「えっと……冒険者? 登録でライセンスを貰いにきました」
「かしこまりました。では、恐れ入りますがこちらの端末にご自身の情報についてご入力下さい」
彼女はそう言うと、目の前に薄いタッチスクリーンが現れた。
そのタッチスクリーンにはキーボードの様な物があり、生年月日や名前を登録すると、次に保有しているドライブについての項目が現れた。
ドライブ。戦隊モノの変身ベルトでは無いけれど、手の平大の大きさの機械端末だ。
宇宙人の生活必需品その2であり、人のHPを形成するものだ。
このドライブは誰でも持っているものであり、これを起動すると人は深海の水圧も宇宙の真空空間でも死なずに活動出来るようになる。
ただし、本当に死なないだけであり、気温の変化や酸素の確保などは必要だ。
要するに生命維持装置。
これのお陰で、宇宙では殺人事件や事故死が殆ど起きない。なんせシールドを破壊されてから致死的な攻撃を受けなければならないので、その間に逃げたり助けを呼んだりできるのだ。
変な話、車に轢かれてもシールドが割れてしまうだけで死ななくなるからーー無論クソみたいに痛いだろうがーーそれも回復魔法で対応できるし、この世界はなかなかに治安が良い。
ドライブは600種類以上存在し、全てのドライブには一つの固有能力みたいな物がついている。固有能力と言うと分かりにくいが、要するに『スキル』みたいな物。
ドライブは人によって持てる数が変わるので、ドライブを多く使える人はそれだけで強い。
自分のドライブの種類を書き込んで、緊急連絡先や住所を入力し、カタカタカタッターン! と入力を終えると、目の前に薄いカードのようなものが出現する。
「登録が完了したみたいですね。此方は貴方のギルドライセンスとなります」
「ギルドライセンスとは?」
「はい。此方は貴方がこの宇宙の平和を守るために特別な権限によって活動をする事を許可する身分証です」
曰く、これがあれば依頼を受けている事を条件に普通では立ち入りができない場所や機密情報へアクセスをする事を許可されるのだとか。
これは依頼が連合国や他の惑星の要人とかからも来ることがあるからそう言う名前と機能になったのだとか。
ライセンス便利だ。
「ギルドランクは総合ランクと個別ランクに別れております。スペードは戦闘系の任務経験、ハートは治療や防衛経験、クラブは採集、ダイヤは諜報の依頼を遂行することで上がります。これら4つのランクを総合的に表すものが総合ランクとなります」
「昇格条件は?」
「月に一度、依頼報酬をまとめて支給する給与日がございます。その時に規定の条件を満たしていればランクは昇格となります。また、ランクは初めはオールランク2からスタートしますが、ランクは2から10、J、Q、Kと続き、Aランクが最高となります。ランクは1つを極めるもよし、複数をバランスよく上げるも良しです」
この辺は特異だ。つーか2から始まるって何でだ。そこは1から始めろよ。あとJQKAってひょっとしなくてもトランプか? Aの上にSランクとかないのかな。
と言うか、まずランクが4項目に細分化されている事が驚きだった。
そして、月に一度まとめて報酬が支給されるということもびっくりした。
「ランクが2から開始なのは何故ですか?」
「実はギルド未登録者が内部データ上では『1』が振られています。ランク2と言うのは、この組織がその人物の身分を確認しており問題ないと保証をすることが可能である最低限のライン、となります」
「なるほど」
言わば取引先の反射チェックの様な機械的なものということか。
コイツはとりあえず身分は調べてあるぞ、みたいな。
「報酬がその場支給では無いのはなぜ?」
続けて尋ねる。
普通こういうのは依頼達成時に即現金払いではないのか。
「依頼達成時の依頼達成度の計算や依頼達成による査定計算があるため、末日締め翌20営業日支給となっております。また、当ギルドは宇宙防衛軍でもありますため、依頼は当ギルドの正規職員も受ける事となり、此方の給与計算も関係してこの通りとなっております。支給については、口座振込または現金手渡しから選ぶことができます」
ただし、報酬が金銭ではなく武器防具やアイテムである場合は現物を依頼達成時に手渡し支給することになっております。
そう彼女は淡々と話す中、俺は考えた。
地球に行くためには、どんなランクを伸ばすのがいいのだろう。
地球に魔物なんて居るのだろうか? 居るとして、どんなのが居るんだ?
地球にしか生えていない薬草は有るのか?
地球出身の要人は?
俺の地球進出プランを練るためにも、情報は多く集めておかねばならない。
その後も俺は幾つか受付に質問をし、俺がギルドを離れる頃には受付が何だかぐったりとしていた。