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1. 決別のために

awakening


[形]目を覚ましつつある、人を目覚めさせる

[名]覚醒、目覚め、気付くこと


 地球。


 それは太陽系に存在する、生命の惑星。


「はっ……えっ……ち、きゅう……!!?」


 その言葉があまりにも衝撃的過ぎて、まともに声を出す事すら出来なかった。


 ここは異世界じゃないのか。

 地球人ってなんだ。


「そう、地球人!先生は日系ラルリビ星人とイタリア人のハーフなんだ〜!」


 こいつ今なんて言った??

 イタリア人のハーフ?

 日系何とか星人??


「先生ー!イタリアってなーにー!」

「イタリアって言うのはねー、地球にある国のひとつなんだよ!」

「国ってー?」

「『国』って言うのは、この惑星で言う『地区』みたいな物なの。大きい所に住んでいる人たちをまとめるのが『国』や『地区』の事だよー」



 イタリア人とのハーフとか言ったのを幻聴で片付けようと思っていた瞬間、クラスメートからの質問に対して先生が再び聞き捨てならない言葉をぶっ込みやがり遊ばした。


 この世界には地球があり、少なくともイタリアと言う国が存在する。そして、この先生の言う事から推察すれば、恐らく日本も存在する。


 その事実のせいで、小学校の初日はまるで何も頭に入ってこなかった。

 次に自分が思い出せる記憶は、家に戻ってから即刻近くの図書館に飛び込んだ事だった。

 そしてそこで自分は衝撃の事実を知った。


「え……? 自分が死んでから時間が……?」


 今の自分は7歳だ。

 この身体になってからの記憶があるのは6歳から。

 しかし地球の時間が記載されている本を読んで計算をしてみると、自分が死んでから3年ほどしか時間が経過していない。


 つまり、自分が死んでからほぼ時を待たずして自分の魂はこの肉体に宿ったと言える。


 妙だ。

 転生したのなら、少なくとも7年は経過していないといけないのではないのだろうか。

 それとも、途中で魂が変質したり、融合したりなんてするのだろうか? それとも転生は時間を逆行して行うことが出来るものなのか?


 考えてみれば、自分には6歳以前のアーティの記憶も若干ながらに残っている。

 つまり、この安藤弘(転生前)の記憶は少なくとも後天的に手に入れたものとなる。


 ……いや、それとも魔法の力で時間とかが何らかの形で働いているのだろうか?

 そうでないと、自分が死んでからの年数についての辻褄が合わない。

 あるいは、本当に誘拐のショックだかで記憶が? 



 次に開いた本は地球に関する本だった。


 その本の地図にあった地球は自分の記憶のものと寸分も違わず、イタリアもあれば勿論日本もあった。

 地図はなかなか詳細な作りになっていて、会社のあった東京や自分の住んでいる……あ、違うわ。住んでい()埼玉、更には自分が死んだ場所である名古屋についてもちゃんと正しい位置に載っている。


 その本によれば、地球は魔法が使える人達がごく少数しかいなく、魔法の存在は秘匿されているらしかった。

 各国の政府には魔法省が存在し、地球上の魔法使いの管理などをしているとの事。



「地球……」



 ここまで詳細に自分の記憶にある地球と被っていると、最早ここが異世界であるかは分からない。

 ただ、自分が住んでいる惑星はラルリビ星と言う非常に離れた惑星で、特定の人以外は魔法使いの立ち入りが制限されている地球に行くには、その特定の人になるしかないと言う事が分かった。


 それならば、話は早い。

 今のところ一番簡単に地球に行く方法は、貿易商……まあ早い話が商社マンになる事だった。


 その仕事に着くことが出来れば、地球にいる魔法使いに対して宇宙から魔法具などを輸入したりする仕事に着くことができる。

 そうすれば地球へと出入りする機会にも恵まれる可能性は高かった。


 商社マンは前世の記憶の限りではモーレツ社員の花形みたいな印象でしんどそうだったが、考えてみれば俺は他でもないその前世でなかなかの社畜っぷりを発揮していた。


 それならば特に問題は無い。

 要するに将来元の社畜になるだけだ。



 地球が自分の知っている地球と同じかは分からない。


 だがもし……もしもそれが自分の知っている地球であるなら。



 会いたい。


 置いて逝ってしまった嫁と、娘。

 自分の家族。


 自分の両親はどうしているのだろうか。


 異世界に転生してしまったのだと結論づけて以来、すっかり未練というか、気にしたところでどうしようも無いと諦めのついていた感情に火がついてしまったのだ。


 もしかしたら会えるかも知れない。


 もちろん、今の家族も愛している。

 此方の両親も自分の事を実の息子の様にーーいや、まあ実際に実の息子なのだがーーとにかく愛してくれているし、自分も愛しているのだ。


 だが、前世の人達と会えるなら。

 会ったところで見た目も何も変わっているし、向こうも自分を自分と気づかないだろう。


 それでも、どうしてもひと目見たい。

 会ったところでどうにかなる訳でも無いし、何かあるのかと言われたら、ない。

 もっと言えば、それが自分のいた世界とは違っていて、俺という存在がそもそも存在しなかった世界なのかも知れない。

 あるいは、俺が存在している(・・・・)世界で、実は安藤弘と言う人間が俺とは別に(・・・・・)存在しているのかも知れない。


 敢えていえば、それで自分を納得させたいのかも知れない。

 転生したのだと言う事に対する、納得。

 過去との決別。


 決意を新たに勉強をしていた自分に転機が訪れたのは、高校を受けようかと言う頃だった。





「ギルド?」

「ええ。何でもこのギルドの創設者は私たちと同じ猿人類(地球の知的生命体)らしいわ」

「なんでまたそんな物を」


 ある日、家で食事をしていると母がそう言う。

 地球生まれの地球人が、ギルドを作って瞬く間にそれが宇宙全土に拡大しているのだと。



「さあ? でもどうやら闇の守護者らしいし、宇宙全土をギルドを通して俯瞰でもするつもりなんじゃないのかしら」


 守護者と言うものは、宇宙でも特に強力な魔導師を指す言葉である。

 宇宙を護る事を行動原理とする魔法使いであり、光と闇、そして時の守護者の3人がいて宇宙の秩序を保っているのだとか。


「ふーん」


 後ほど家の端末で調べてみたら、その地球人は事もあろうに日本人だった。

 名は伊集院英高。東京都生まれ東京育ち。まだ中学生位の年齢だろうか。なんという奴だ。


 そんな奴が、この魔法が渦巻く宇宙に、ギルドと言うなんともファンタジックな物を開設したのだ。


「依頼は薬草集めから要人警護まで色々とあるみたいよ? 場合によっては地球とかにも行けたりして」


 母さんの言葉に、ピクリと自分が反応したのを見て母さんが笑う。


「地球に……行けるのか?」

「そんな依頼があれば、だけどね。貴方も地球に興味を持っていたでしょう? 私もせっかくだからギルドのメンバーになってあちこち依頼ついでに旅行してみようかしら〜」

「……そんな簡単にギルドのメンバーになれるのか」

「基本的には書類審査さえ通れば会員にはなれるみたいよ? そりゃあ、危険な依頼を受けるには一定の能力が無いとダメみたいだけど私はそんなの受けないし、アルバイト感覚で依頼を受けている人も多いみたいよ」


 後に調べて知ったのだが、どうもそのギルドはメンバーにランクが紐づいており、そのランクに応じて受けられる依頼が違うとの事。

 本当にアルバイト感覚でギルドに所属している人は多いみたいで、学校で聞いてみたらクラスメートも何人かギルドで簡単な依頼を受けて小遣い稼ぎをしている模様だった。


 聞いてみれば、依頼によっては本当に色んな星に行くことも有り得るらしい。

 そうなれば、わざわざ自分が就職まで待つ必要はなかった。

 俺は学校から帰るや否や、速攻でそのギルドへの入会申請を提出することにしたのだ。

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