13. 俺はか弱いんだよ
「ええっと……」
「一応、ちゃんと録画出来ていることは確認済みだが」
「あ、いや……ろ、録画の質に問題は無いですし……確かに魔物の討伐は確認出来ているのですけれども……その……」
受付のギルド嬢に提出したデータを見てもらっていると、そいつは何とも引きつった笑みを浮かべ冷や汗を垂らしながら俺への応対を行う。
俺が何をしたってんだ。
「あーっ、またアーティが受付困らせてる〜」
「こんな所で見るのはなんか意外だな」
「……あ?」
聞き覚えのある声。
振り返ってみれば、そこに居たのはモートンとラトニスだった。
「冷やかしなら他所でやれ」
「どうせアーティの事だからまたロクでもない事してるんでしょ〜」
「依頼受けて遂行してるだけだ。失礼な」
ラトニスの中の俺は一体どういうイメージになってるんだ?
そう疑問に思いながらも話を切り上げて再び受付の方に向き直ると、モートンが横から首を伸ばし俺の提出した映像を眺めた。
彼の顔が固まる。
「お前ほんとその……なんというか、容赦ないな……」
「あ? 何見てんだよ」
「なになに〜?」
上から空中を飛びながらモートンに合わせて映像に視点を合わせたラトニスが、顔を青ざめさせる。
「きっしょ……」
口元をまるで吐きそうであるかのように抑えると、彼女はそのまま距離をとる。
「夢に見そう。なんて物を見せるの」
「いや勝手に見やがったのはお前らだろうが」
それに単に地中からワームを10匹程念力で引きずり出して丸めて団子にした所でプレスしただけじゃないか。
念力の檻に閉じ込めて圧縮しているから血とかも力場の外には出ないし、文字通り丸めてポイするだけの簡単なお仕事だぞ。
むしろファンタジーじゃないから素材ドロップみたいな事も無いし、素材やら何やらのためにわざわざあんなのに触るぐらいなら死ぬような俺としてはこのノータッチ念力プレス加工処理を撮影するだけでOKと言うのはとても助かるのだ。
ここが魔法も科学も両方発達してる宇宙で良かった。
「それにしたってグロ注意ぐらいの一言は欲しかった」
「いや知らねーよ。勝手に見られるのを想定しているわけじゃないんだぞ」
受付に振り返ると彼女も何故かウンウンと頷いていたようで、思わず俺の眉間に皺が寄る。
それにどうやら気付いたようで慌てて受付嬢は引きつった業務用スマイルを貼り直すと口を開いた。
「ま、まあ確かにサンドワームの討伐をされた事は確認出来ました。依頼報酬については現物支給となっておりますので、少々お待ち下さい」
そう言うと彼女は受付を離れ、裏方のオフィス……と思いきやお手洗いへと向かう。
いやお前そんなに嫌だったのか。吐くほど嫌なのか。
「ほら〜アーティ〜」
「お前そういうのモラハラだぞ」
「は? いやそういうこと言う方がハラハラだわ」
なんて失礼な。全く最近の若者はすぐハラスメントだハラスメントだと騒ぎ立てる。
ましてやお前ら地球人年齢でいえば高校生相当の癖に。新しく覚えた単語を使ってみたい盛りなのか?
いや俺も肉体年齢は同じぐらいだが。
「もっとなんかこう、普通に倒すとか出来ないの?」
「いやあんなのに触るとか無理だから。むしろ普通に無接触で倒せるとか衛生的にも精神衛生的にも宜しいだろうが」
「それにしたってなあ」
「いやむしろ普通の定義ってなんだよ。それ貴方の個人的な感想ですよね?」
やんややんやと騒いでいると、いつの間にかトイレから離脱して裏方から現れた受付嬢が小さくコホン、と咳き込む。
「えー、おまたせしました。此方が報酬となります」
「えっ!? なにこれ〜!」
「煩いぞモスマン」
受付嬢から小さなカプセルを受け取り、ラトニスが違ーう! と憤慨するのをスルーしてそれに魔力を込める。
魔力を込める事で、カプセルが自動的に割れて中にあるミニチュアサイズの武器が瞬く間にその本来のサイズを取り戻す。
「なんだそれ」
「割とよくある黒金の剣だぞ」
「あれ、アーティの武器って銃じゃなかった?」
「サブウェポンが欲しくてな」
闇属性の魔力を織り込んだ剣。
それが今回の報酬だ。
宇宙では属性が何故か無属性を含めて13もあるため、この相性表は頭の中に叩き込んでおかないと行けない。
重力使いの弱点は風と光。マウントを取れるのは炎と虚。なんだよ虚って。訳分かんねー属性だな。一応ルビデが該当しているが。
そして風と光は共通して毒属性に弱い。悲しいことに俺の相性補完に優れているのはラトニスだ。クソが。
最初は毒の剣とかを考えていたがなんか字面が物騒なので光はメタって風はなんか頑張ればいいや……という事で光に強い闇属性の剣を採用。
なお宇宙では光は闇に一方的に弱く、闇は光を弱点としない。何故か虚が苦手だ。
学校の先生曰く、『強大な光のみが闇の脅威を覆し、世界を照らす事が出来るのだ……』との事。なんだそれカッコよすぎねえか。
「それでも剣か。意外だわ」
「近接は斥力バリア任せで苦手だからな。ガン=カタが出来るほど器用でもないし」
「がんかた?」
「あー、いや、こっちの話だ」
おっと。
ガン=カタが通じないか。地球限定の内容とは思わなかったな。
ああそうだ。
「せっかくだから剣の稽古がしたいんだが、お前ら付き合ってくれるか?」
「お、良いのか?」
「私非戦闘系なんだけどな〜」
「ヘドロをゴブリンに投げつけて笑ってた癖に」
「笑ってない!」
いーや笑ってた。
と、言ってしまうとまたグダグダと話が延びそうなので早速俺は受付に向き直った。
「鍛錬所の戦闘用スペースって今借りられますか?」
「少々お待ちください」
ギルドには戦闘技能を磨くための鍛錬所がついている。
そして鍛錬所には、実際に戦闘を行うための広場も併設されているのが常だ。
「それにしても、本当にやるのか?」
「ああ、今までは木刀とかで素振りしか出来てなかったから実戦をやってみたくてな。重さとかも随分と違うし、見ての通り俺はお前よりもずっとか弱いから、潜り込まれた時の対策がしたい」
近接戦は苦手だ。
ランクを上げるなら、この辺の対策もしっかりとしておかないといけない。
そう思っての発言だが、それを口にした瞬間、2人の目が文字通り点となった。
「は?」
「か弱い?」
「そうだが」
「アーティが?」
「そうだが」
「本気で言ってるの?」
「そうだが」
人外共と違って俺の遺伝子は100%地球人だしな。
「本当にか弱い奴は肉団子作ったりしない」
「それ」
「まだ引っ張るかそれ」
「当たり前だろ、どんな念力の使い方だ」
「お前みたいに力でねじ伏せるのが出来ないから事実だ」
「いやどう見ても念『力』で敵をねじ伏せてるだろ」
「それはそれ、これはこれだ」
全く失礼な奴らだ。
お仕置きの意味も兼ねてちょっと真面目に鍛錬の相手をして貰おう。




