11. 地球って怖い
さて。
「よっこいしょっと……ああ、また言ってしまった……」
自宅の自室。
勉強机に向かって座り込むと同時に思わず言ってしまった言葉に自ら苦笑いして、俺は思案を巡らせた。
「えーっと、接続っと」
転生しても、どうしても1度よっこいしょとか癖になったのは抜けないのは困ったものだ。
一応肉体年齢的には若返っているはずなのだが中身がマジでおっさんなのだから仕方がないのだと自分に言い訳をしながら、俺は自分のスカウターからデータを展開し机のモニターに表示させていく。
これからするのは、さっき撮影した地球の依頼の一覧を確認して、地球に行くのに必要なランクを算出する作業だ。
◇
依頼主:X-CATHEDRA諜報部
タイトル:実験施設の破壊
場所:地球アメリカネバダ州グランドキャニオン
依頼内容:非魔法開拓地区に指定されている地球にて、未認可の地球種キマイラ量産工場の存在が確認されております。
非魔法開拓地区の保護のため、同施設の調査及び破壊をお願い致します。
受諾制限:スペードの8以上、かつ、ダイヤの7以上。または、総合ランク10以上
報酬:☆400,000(手取り)
備考:本依頼は非魔法開拓地区における魔力の使用を行うため、事前に宇宙警察への使用許可を必要とします。
依頼主:宇宙警察本部
タイトル:人体実験施設の破壊
場所:地球中国広東省深圳市南山区
依頼内容:地球中国地区で拉致された地球人に対して魔力的人体実験が行われている施設の存在が確認されています。
地球人を素体とした魔物や改造キマイラ、その他臓器売買等に利用されていると思われる痕跡が有り、非魔法開拓地区及び非魔人保護の観点から本施設の早期破壊が推奨されます。
受諾制限:スペードの9、犯罪歴の無い者に限る。
報酬:☆500,000
依頼主:地球日本公安調査庁・京都府警合同
タイトル:暗殺者痕跡捜索
場所:地球日本東京千代田区霞が関一丁目1-1
依頼内容:殺人容疑で指名手配中の蜈蚣について、その捜索のお手伝いをお願いするものであります。
受諾制限:スペードのJ、かつ、ダイヤの10
犯罪歴の無い者に限る。
報酬:☆1,000,000
◇
「……」
地球の依頼、どれもこれも要求ランクがクソみたいに高い。特に日本。ツッコミどころが多い。ふざけてるのかこれ。
なんで日本が1番難易度高いんだ。しかも公安て。日本は安全じゃねーのかよ。
確かランクって、前に受付の子と雑談した時に聞いた話ではあのギルドの正規職員の戦闘員でも7とか8とかが多くて、10以上なんてほぼ居ないとか言っていたんだが。
それをJって、マジでさあ。
それに、そもそも地球の依頼がどれもこれもやたらと制限キツイのは、来る依頼がほぼヤバめの案件しかないから臭い。
まずキマイラ量産工場。
キマイラは様々な魔物を合成した魔物の総称であり、その性質上極めて危険な魔物だ。
当然それを未認可で置いていてわざわざ量産しているという事は、それだけヤバい所がバックについている可能性が高い。
それに、地球の魔物といえば代表的なのが龍または竜だ。
地球はそもそも魔物の数が少ないが、その代わりその魔物は大体クッソ強いということでも知られている。
そんなドラゴンを素体としたキマイラが居るかもしれない。そんなのはパスだ。
次に中国の人体実験施設。
もう既にタイトルの語感からアウトな要素しか無いんだが。
しかも地球人を素体としたキマイラって、もうそれこの宇宙で1番やっては行けない事じゃねーか。
1000年前にこの宇宙を滅ぼし掛けた大戦争も地球人キマイラーー今で言う『キメラ』人ーーが人権を求めて立ち上がったのがそもそもの発端とされているんだが。分かってんのかおい。
知的生命体を素体とした人体実験や魔物の合成はそれ以来禁忌とされていて、絶対にやっては行けない物として学校で散々教わって来たんだが。中国どうなってんだおい。
それにこの公安の奴。
まず俺にはこの『蜈蚣』とか言う字が読めない。
常用漢字使えよ。もしくはひらがなかカタカナ。
一見すると上二つよりも明らかにまともなのになんでこれが1番要求ランクキッついんだよ。
つーか暗殺者とかがなんで日本にいるんだよ。もっと他の国とかあるだろ。
あと報酬もクソたけえな。ブレスキーの所とは雲泥の差だな!?
「は〜マジかよ〜〜……って痛っ!」
思わず机に突っ伏し、額を強打し悶絶。
地球への道が果てしなく遠い。
今の俺の総合ランクでは夢のまた夢だ。
こんな時はどうすればいいのだろう。
稼ぎか。稼ぎプレイなのか。
でも稼ぎって言っても、アレはあくまでもゲームの中だからこそ出来るのであって現実世界でそんな事は出来ない。
稼ぎをするにも身体を動かして依頼はこなさなければならないし、時間も流れていく。
特定の場所のイベントを見るまで時間は流れているがシナリオは進展しないなんて都合のいい状況は無いのだ。
「くっそ……やるしかないのか……」
無くなりかけている気力を振り絞り、額を抑えたまま何とか机から立ち上がる。
そのまま部屋の反対側にある自分のベッドにフリーダイブしよろよろと布団の中に潜り、ため息を着く。
一応、ランク稼ぎをしないといけない可能性も想定して他の依頼についても確認するだけはしているのだ。
ただ、それはあくまでも最終手段的な物で、本当にするつもりはサラサラなかったのだが。
「ちくしょー……」
しかし、こうしてみるといかにブレスキーの所が報酬絞っているのかがよく分かる。
民間から出ている依頼の報酬はみんな好き勝手に決めているし、依頼に見合わない報酬の物はささっと取り下げられたり報酬が更新されて上がったりするのだが。
……公務員と言うか行政が絡んでるから予算が少ないとか?
まさか宇宙でもお役所はクソなのか? それは勘弁して欲しい。
そう言えば前世の頃は区役所に就職した大学の同期がいてそいつの前で役所はクソとか言うと怒ってたなあとか思い出しつつ、分析を進める。
「仕方ない……やるか、ランク稼ぎ……」
戦闘系の依頼を受けていくしかない。
どうせなら報酬のいい方がベターなので、依頼の一覧を再確認し目星を付けていく。
あまり良い依頼は明日確認する時にはもう誰かに取られているかも知れないので、その辺についても確認しておかないといけない。
依頼掲示板については地球時間で5分に1度のペースで更新が入るので、良い依頼を狙うなら掲示板に張り付いておかないといけないのだ。
ただ、宇宙全域から膨大な量の依頼が入って来るのがあのギルドだ。
中には新着依頼にどんどん流されていき、いい報酬の依頼が手付かずになっている、そんな掘り出し物も無いことはない。
今回俺が狙うのはそんな依頼だ。
「あ、明日はテストか……」
そんな時にふと明日が学校の試験がある事を思い出す。勉強してないけど何とかなるだろ。
と言うか、身体が若いから物覚えも前世より上がっているし、授業中に聞いていた内容が頭の中にするする入って来るのだから笑ってしまう。
数学はそれこそ前世でもやってるからああそういやこんなのあったなと懐かしい内容だし、魔法化学や魔道具は普通に面白いから真面目に勉強してしまうし。
歴史に相当するラルリビ史学は前世なら寝ていただろうが、この歳にもなると歴史も面白くなってくるというか。
歴史の授業って現実世界ではぶっちゃけあまり役に立たないが、教養として後々響いてくるのだ。
それを前世でヒシヒシと感じたので、ここもちゃんと抑えてあるのだ。
今更勉強はしないけどな!
ランク稼ぎのために明日の放課後に備えなくては。
「そうと決まればさっさと寝るか……」
布団に潜り、スカウターを外して枕元へ置く。
ドライブは枕の下に埋めておき、念力で部屋の電気を切り、申し訳程度の小さな光の玉をベッドの下にもぐりこませ、間接照明として真っ暗にならない程度に部屋の明かりを落とす。
暗闇が特別怖い訳では無いが、どうも前世の記憶が蘇る前の記憶が暗闇を良しとしていないため、習慣的にそうしているのだ。
なんせ誘拐されて変な所に閉じ込められていた所で前世の記憶が戻ってきてしまったのだし。
今となっては前世の記憶を呼び覚ます重要なイベントだったのだが、その辺は前世を思い出す前の人格が影響しているのかもしれない。
そんなややこしい考察を自分に対してしている内に、いつの間にか朝布団を剥いだ状態で俺の意識は回復したのだった。




