さよならライオンさん~もふもふ?いえ、カチコチです~
満月の日。
「いよいよ今日で皆とはお別れか」
昼間は子供たちの歓声であふれるここも夜は静寂であふれている。
そんなここで、ライオンさんは仲間へと別れの挨拶を切り出した。
「「……」」
「行かないでくだせぇ、ライオンの兄貴!俺はまだ納得できません、なんで兄貴がここを去らないといけないんだ!兄貴は俺たちの中でも一番子供に人気があるってのに」
他の物達が押し黙る中、パンダさんだけが叫んだ。
「仕方のないこと、これも時代の流れだ。ワシ達の仕事は子供たちを喜ばせる事。ワシのような年寄りは子供を傷つけてしまうおそれがある。特にワシは古いからな、もう齢なのだよ」
パンダさんを宥めるように、ボロボロになった体に哀愁を漂わせながら、ライオンさんは語る。
雨の日も風の日も子供がいないときでも彼らはここに居続けた。
だからこそ身体は摩耗し、直しても直しても、限界の時がやってきた。
中でもライオンさんはここ40年のベテランだ。ライオンさんを生んだ会社の方が先に亡くなっているので、これでも長生きしたほうだろう。
「あとは……子供達の笑顔はお前達に託す。みんなに笑顔を」
「兄貴……」
ある日。
「あっ、ライオンさんがない!」
一番乗りで公園にやってきた子供は、ライオンさんがいないことに気づき、声を出した。
目の前にあるのは、ブタさんとパンダさんとゾウさんだけ。いつも先を競って取り合いをしていたライオンさんだけがない。
仕方なく子供は塗装が真新しくなったパンダさんへと跨り遊んでいく。
『兄貴、今日も子供が兄貴のことを探してましたぜ。俺もいつか、兄貴みたいに求められるような遊具になれるのかな……いや、なってみせる。超えてみせる。俺はパンダだけど、兄貴にみたいな立派なライオン以上に』
楽しそうに遊ぶ子供を乗せ、体の下に取り付けられたバネを大きく揺らしながら、パンダさんは去って行ったライオンさんへと誓っていった。
あなたも昔、ライオンさんたちと遊んだことがあったのではないだろうか?
少子化や安全基準によって年々とライオンさんを始め数々の遊具が引退をしていっている。
暇があれば昔遊んだ公園に行ってみてはどうだろう?きっと様変わりをしていて驚くことになる。あるのはベンチだけ、公園という名の憩いの場になってるだけだ。
でも安心してほしい。もうそこにはライオンさんたちの姿形はないけれど、今も私たちの頭の中へと楽しい思い出として残ってくれているのだから。