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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と砂丘の魔女
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10・敵対

 自分の判断が間違いだったと気付くのは、当然失敗をした後になる。

 魔女の説得を信用し、止めることをやめてしまったアスマは姿を消し、魔女の様子を見に来ていた。魔女の魔法は便利で、人ひとりの姿を周りに認識させないようにするという魔法のような魔法を簡単にやってのけた。それを見て、本当に目的のため以外で勇者なんて要らなかったのだと実感させられた。彼女にとって必要だったのは「魔王を倒す者」でもなく「救ってくれる人」でもなく「台本通りに動く勇者」だったのだ。

 会談の場に隠れて同行することを許されたのは、エアリがそれでもとごねたからだった。一人で魔女を行かせるのは心配だと。ただ、エアリはどうあってもオースグラットという一国に属する姫。魔女の嘆願とはいえ、他国の会談の場に参加していることを知られれば、それだけで国際問題に発展しかねない。

 よってエアリの推薦もあって、アスマが付いて行くこととなったのだ。それは暗に、責任を持って魔女を守れということだ。それだけ悪い予感がしていたということでもある。

 そしてエアリの悪い予感は当たることとなる。


「魔王が生きているから戦争をするな……か。砂丘の魔女よ。あなたに口出しできる問題ではないのですよ、これは」


 世界共通の敵である魔王に対抗する術を持っている魔女という立場の彼女だが、一応先んじて場を設けてほしいと連絡をしてから向かったにもかかわらず、会談の場に現れたのは王の使い。国の大臣ではあるが、とても重要なポストに立っている人物には見えない者だった。

 そしてその大臣は、王からの言伝を話す。

 王の言葉をそのまま鵜呑みにしたような。そして真意を共にしていると勘違いしているような。そんな三下の空気を身に纏い、男は魔女の嘆願を突っぱねた。


「それとも魔王の脅威がなければ、貴女が困るのですかな? ああ、魔王が生きていると言いましたね――もしかして、貴女が魔王を復活させるつもりか?」


 芝居がかった言葉に確信や証拠はないとは、誰もがわかることだろう。彼らは彼らの目的のために、事実を捻じ曲げているのだ。ただ、捻じ曲げた事実が真実なことに誰かが気付いているのかいないのかは、この場ではわからない。


「何をバカなことを……!」


 反論しようと魔女が一歩踏み出すと、即座に兵が武器を持って大臣との間に入る。


「魔王にも対抗しうる強大な力を持った魔女が、一国家の決定に口出しを始めた。魔王の居なくなったタイミングで。これに作為を感じるなと言う方が、無理があるのでは?」


 敵意を向けられ、魔女はたじろぐ。相手にとって、今口に出していることが事実と異なっていても構わないことはわかるのに、如何せん、それこそが事実なため魔女は言い返せないでいた。

 元より、最初の説得までは作戦を立ててきたが、このような展開は予測していなかったのだ。こんな、苦手分野に当たるなんて聞いていない。

 完全に言い負かされた形になった魔女は「そう思うなら、勝手になさってください」と捨て台詞だけ吐いて、その場から立ち去る。追ってこなかったのは魔女の移動魔法の存在を彼らが知っていたからだ。追おうとも、この場で追いかけることはできない。

 そうして家に戻って、魔女は、失敗を嘆いた。


「くそ、やられた! あいつら、魔王が居なくなった今私を邪魔者扱いしてやがる。捨て駒なんか交渉の場に出してきやがって!」


 がらにもなく苛立ちを見せる魔女に、アスマは驚いた。結局あの場に居ただけで、何もできなかったアスマは取り乱す魔女に声を掛ける。

 アスマは、あの場で彼らに一言として言い返すことができなかった自分にこそ苛立っているけれど、魔女を落ち着けるのが先だと自身のふがいなさを呪うのを一旦やめる。

 実際、何か反論していたところで魔女の使ったのは認識疎外の魔法だったため、相手には伝わらなかったのだが、それでも何も言えないのと言って気付かれなかったのとでは自分の気の持ちようとして違う。たとえ相手の主張が隠された真実と重なっていても、好きな女の子が追い詰められているのに庇えなかったことが、自分の弱さだと思ってしまうのだ。


「魔女、どういうことだ?」


 問いかけるアスマに、自分以外の相手がいたことを今思い出したように魔女ははっとする。そして一つため息のような深呼吸をすると、真剣にアスマの目を見た。

 アスマが仇敵であることも、この状況を作る一端を担っていることも今は忘れているようだった。


「普通の人間が逆立ちしても勝てなかった魔王が居なくなった今、あいつらにとって厄介なのは魔王に対抗する力を持った私だ。あいつらは、私が魔王と繋がっていると推測することで私を国の決定に関わらないようにさせたいんだよ。出てきたのが下っ端なのもそれが理由だ。私があの場で逆上して会談相手が殺されても構わないように、捨ててもいい駒を差し出したんだよ、あの国は。……むしろ殺された方が、都合がよかったのかもしれないな」


 舌打ちして、魔女は頭を掻いて再度大きくため息を吐いた。そうしてアスマの方を流し見る。瞼を半分落として、眉を寄せ、口を苦く歪ませる魔女。

 彼女は早々に失敗に気付いていた。


「勇者。お前は私との関わりが知られる前に、ここから離れろ」

「い、嫌だ。俺は、あんたを残して逃げるつもりはない」

「これでお前に火の粉が掛かったら、私は傷つくぞ」


 初めから断られるのがわかっていたように、食い気味に魔女はアスマの拒否を拒否した。アスマはたじろぐ。そんな言い方をされては、聞き分けるしかなくなる。

 もしもこれからバスアトが魔女に何か仕掛けてくるとして、アスマがこの場に居ればまとめて敵視される可能性が大きい。なにせ「人間が逆立ちしても敵わなかった」魔王を打ち破る力を持ったのが勇者なのだ。まとめて敵にされてもなんらおかしくない。


「それと、エアリにもうここには来るなと。私と関わりがあることは隠せ……なかったことにしろと伝えてくれ」


 オースグラットの姫であるエアリと魔王の関わりが知られれば、バスアトがオースグラットへ攻め入る大義名分を得ることになるかもしれない。エアリを人質とされたら、自分にとって不利になる。

 理由を説明されれば、アスマも言うことを聞くほかなくなる。どう転んでも、魔女にとっては、アスマはここに居ない方がいい。


「……また来る」

「お前が帰るときにな」


 肩を竦めて言う魔女は少しだけ笑顔を見せたが、アスマにはそれが彼女の笑顔だとは到底思えなかった。

 後悔先に立たず。アスマが自分の失敗に更なる後悔をするのは、それから数日後となった。

 バスアトからの発信で、世界に「魔女は魔王の手先で、魔王を復活させようと目論んでいる」という噂が知れ渡った。





 真実の噂は信憑性を持ってすぐに世界中に広まった。バスアトと同じく魔女を邪魔者と判断した国もあれば、魔女のことを知らずに噂を信じる国もあった。

 オースグラットへもすぐに話は入ってきたが、王宮はただ、噂へ賛同も否定もしなかった。アスマは戻った王宮で、それだけに安堵を覚えていた。


「私のせいですわ」

「あんたが言わなくても、現状を知っていれば魔女は同じことをしたはずだ」


 城に戻ってすぐに許可を取ったエアリとの面会は、エアリ側からの要望もありすぐに叶った。魔女からの伝言は城に戻る前にエアリの滞在していた村で伝えたが、城に戻っても現状を話し合うためにはエアリに会わなければならない。

 エアリからすればアスマの行動がきっかけだと思っているため、会いたくないものだろうとアスマは推測を立てていたが、彼女からしても現状の整理をしたいのか、アスマを拒否しなかった。この世界で、今魔女の本心を知っている者が自分たち二人だけだからでもあるだろう。

 何度目かになる傷のなめ合いのような面会で、エアリは消沈した様子でアスマに問う。


「……バスアトからの、魔女様討伐要請はまだ来ているのですか?」

「三度断ったら、さすがに来なくなったよ」


 アスマのところへは、短い期間にバスアトから三度、魔女の元へ出向かうよう要請が来ていた。

 一度目は魔王の手先である魔女を討伐するように。これは、噂が真実かわからない以上受けられないと断った。二度目は噂を確かめるため魔女を捕らえるように。これも人間に危害を加えたわけでもないのにしたくないと。三度目は自分の目で魔女の本性を確かめて来いと。

 魔王討伐までの間、アスマが魔女を師として仰いでいたのは知られているため、これも「そんな必要はない」と知らぬふりをして断った。歯向かえばまとめて敵視されかねないが、こうしてのらりくらり躱している間はアスマへの害はないはずだ。

 自分が人間側だと思われていることで、魔女の最後の頼みの綱であれるはずだ。魔女を直接助けられない言い訳だけれど、それ以外アスマにできることはない。

 秘密を知る者同士二人で話し合えど、打てる手はない。結局はアスマの責任をエアリが責めるか無言になって終わる。それが当然のはずだった。

 しかしノックされた扉の音で状況は一変した。


「エアリアクス姫様、勇者様。王から、謁見の間に来るようにと」


 国王付きのメイドは顔色ひとつ変えずに、二人に言った。


「え?」


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