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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と砂丘の魔女
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4・決着と感謝

 そうして。三か月が経ち、勇者と魔王は激突したのだった。


 一瞬思い出した、ここに来てからの記憶にまさかこれが走馬灯というやつか、とアスマは頭を振るった。思考が些かぼんやりしている中で思い出すのは、魔女の教えだ。魔力を使いすぎると身体が危険になるのだったか。

 目の前の魔王も長引く戦いに息を切らしている。人間とは違うつくりの顔が疲労で歪んでいるように思えた。

 相手も疲弊している。退くならばきっと今で、魔王に戦いを挑んで早々に戦力外となった王宮から派遣された仲間は「一旦退け」と声を張り上げていた。

 けれど、そんなもの魔王が見逃すはずもない。一度逃げ帰っても、魔女は叱ることも失望することもないだろう。元よりここまで早く決戦をする予定はなかった。各国からの圧力に押されて決戦の場までやって来たのだから。

 けれど、男としてここは退けなかった。


「今、ここで、倒す!」


 アスマは自分を鼓舞するように叫んで、走り出した。魔王は向かってくるアスマに舌打ちする。

 足を進めながら、アスマは小瓶を取り出した。それは、魔女から渡された小瓶だった。小瓶には強い魔力が溜められていて、封印魔術を使うにはその魔力を使うといいと言われていたのだ。

 アスマはその蓋を開く。何度も封印されてきた魔王は、封印魔術を気付いたのだろう。表情を変えてアスマへの攻撃姿勢を取った。アスマはそれと同時に魔術を放つ――外付け魔力を使った、最大出力の光の魔術を。


「なっ――!?」


 光線のような攻撃のできる光の魔術。使い方のイメージは、元の世界でいろんなアニメや漫画に囲まれて過ごしていたアスマにとって簡単なものだった。SFアニメを思い出す。人型のロボットや宇宙を走る船の出す、ビーム砲。

 それと同等の攻撃をし、アスマは更に光の奥から魔王を切り裂いた。剣が、音を立てて魔王の影を斬る。


 魔王は断末魔とも聞こえる声を挙げた。


 これが、アスマの最後の攻撃だった。力を出し切った攻撃は魔王に届き、確実な手ごたえとしてアスマの、前の世界に居た頃には考えられないほどに大きくなった手に伝わった。

 光の中で魔王は呻くように嗤う。


「ふ、はは。まさか私が人間に敗れるとは。しかし、私は必ず蘇る――――覚えておけ」


 そんな不吉な言葉と共に、あたりから魔王の恐ろしい魔力の気配が消え、魔王のその姿もその場からなくなった。


「う、うおおおおおお!!」


 少しして状況を理解した、誰かの歓喜する声が上がり、次々と聞こえてくる歓声とともに、アスマは意識を手放した。



 誰も予測していなかった。

 誰も期待していなかった。


 異世界から来た勇者アスマは、そうして魔王を倒したのだった。






――そして、意識を失ったアスマは国へと連れ帰られ、城で使っていた自室で目を覚ました。驚くことに、魔王を倒してから三日ほど眠っていたという。

 魔王を倒した直後倒れてからずっと眠っていたアスマは未だ実感がないが、国では既にパレードが計画されており、アスマは起きて一息つくような間もなくそれらのスケジュールをユーシエンヌから怒涛のごとく聞かされることとなった。他国でも魔王討伐の祭りは行われるそうで、しばらくは自分の世界に帰れないぞと言われたときには苦笑しか返せなかった。

 本当は、すぐにでも砂丘の魔女に会いに行きたかった。

 あなたのために魔王を倒しました。これであなたは自由だ。あの砂丘に縛り付けられることもなく、魔王の脅威に怯えることもなく。

 そう彼女を安心させたかった。

 ただ。アスマには彼女の喜んでいる姿を目に浮かべることができなかった。それは、今まで表情を露わにする魔女を見たことがないせいだろうか。アスマが魔王を倒したと報告して喜び抱き着いてくれるようなイメージはどうやっても浮かんでこない。

 どこか胸騒ぎを覚えるのを気のせいだろうと無視しながら数日、アスマは魔王に挑む前よりも忙しい日々を送ることとなった。

 それが落ち着いたころに、アスマの拠点となっている国の王から個人的に声がかかった。事態が落ち着くまでは待っていたが、娘を助けてくれたことへの礼をしたいということで、非公式の食事会が行われることとなったのだ。

 同じ城内に居るとはいえ、王と顔を合わせることはほとんどない。その娘である姫はもっとだ。アスマがここに来た時には既に魔王に攫われた後だったし、目を覚ましてからも一度礼を言われたのと、この国で行われたパレードとパーティで見かけたくらいのものだ。

 用意された正装で会場へ入れば、国王夫妻と家族、ともに魔王城へ向かった騎士たちが待っていた。そして、アスマが入室するのと同時に席からゆったりと見覚えのある少女が歩いて来る。

 他の姫君たちは全員整った顔をしてはいるけれど、あまり顔を覚えていない。しかし彼女は一見して、あの攫われていた姫だとわかる。

 この国の女性はたいてい髪を伸ばしているのだが、彼女だけが、他の女性と違い髪を短くしているのだ。室内では黒にも見える藍色の髪は、肩口で切り揃えられている。現代ではよく見るショートボブで、アスマ個人としては可愛らしい髪型だと思うけれど、この世界では多分異質なのだろう。女子は髪を伸ばすものという習慣がありそうだ。

 そういえば、砂丘の魔女も長い髪をしていた。だいたい緩く一つに揺っているが、時々おさげにしていたりするから、そのたびにドキドキしたものだった。


「勇者様。改めて助けていただき、ありがとうございます」


 目の前の少女に礼を述べられ、アスマはハッとした。こんなときにまで彼女のことを考えてしまうのはいかがなものかと思うが、我がことながら他の少女に目移りしない自分がこっそりと、誇らしく思える。


「いえ。俺は勇者として望まれていたことをしただけなので」


 半分は謙遜で、かっこを付けて答えれば姫はにこりと微笑んで、一礼して席へ戻った。

 その後予定通りアスマへの感謝の食事会が始まったのだが、アスマは違和感を覚えていた。ここに来てから、他人の感情が前よりもよくわかるようになっていた。それは戦いの中で身に着いた危機察知能力や動体視力の所為なのかもしれないが。

 去り際に一瞬、姫の表情に怒りのような感情が見えた気がしたのが気になって、食事の味はいまいちわからなかった。




 何かが、うまくいっていない気がする。


 真の勇者と称えられ、感謝され、喜ばれる中で、アスマはだんだんと膨らんでくる違和感を無視できないでいた。

 砂丘の魔女に何かあったのかとも思ったが、この国のパレードで声はかけられなかったが遠目に姿を見つけることはできたし、ユーシエンヌにも確認して彼女が無事なのは知っている。

 それなのに胸騒ぎは未だおさまらない。

 あるいは念願の魔王を倒したというのに、まだ魔女に報告できていないから終わった気になれないだけなのだろうか。彼女に喜んでもらうために頑張ってきたのだから、その可能性はなくもない。

 悶々と考えながら慣れたため一人での移動を許されている廊下を歩いていると、不意に人の話し声が耳に入った。休憩中のメイドでも居るのだろうか、それは噂話をするような声だ。

 勇者とはいえ来賓用の部屋は王族の住む部屋とは少し距離がある。よってアスマの部屋の周りの支度をするメイドらは、王の周りに居る洗練された執事や侍女ばかりではない。それでも雑談を国の賓客に聞かれた彼女らは職務上問題があるのだが。


「魔王が倒されちゃったし、バスアトはまた戦争を始めるのかしら」

「この国も、巻き込まれないといいんだけれど……」


 その話を聞いてアスマは固まった。

 バスアトとは、この国に接している大国だ。何度か魔王の攻撃を止めるため行ったことがある国であり、先日魔王討伐を祝福するパーティにも呼ばれた。豊かそうな国だと思ったのも覚えている。

 それが、戦争? しかも、魔王が居なくなったせいで?

 ぞわりと違和感の正体が背筋を駆け上がっていく気がする。何かに気が付いてしまいそうな、そんな気が。


「勇者様」


 どれほど立ちすくんでいたのか。体感としては一瞬だったし、実際の時間も一瞬だったとは思うのだが、不意に掛けられた声にアスマは肩を跳ねさせた。人の気配にも、戦闘を通して敏感になっていたはずなのに。

 かけられた声は、メイドのものではなかった。先ほどのメイドたちの声は気付かぬ間に聞こえなくなっている。聞こえた声は一つ。若い、少女のものだ。

 振り返れば夜のため暗く見える髪を短く切り揃えた、可憐な少女。先ほどアスマに礼を言っていた姫。


「……エアリ姫」


 魔王にとらえられていたエアリアクス姫が、敵意とさえいえる意識を目の奥に潜め、アスマを睨んでいた。


「少し、お話よろしいかしら」


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