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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と世界
54/72

少年のエピローグ

 ソフィに案内され駆けつけたリオンは、時の止まったアンネを見て絶句した。

 けれど彼は王子で、泣き崩れるよりも先にリリアへ言葉を向けた。

 その力を振るい哀しみを晴らしても、アンネは喜ばないと。落ち着けようとしている魔力が、未だ揺れていたからだろう。近付けていることで声は届くはずだと。

 王子のリオンには守らねばならないものがたくさんあるから。大切なものがたくさんあるから。

 リリアは焦るリオンの方を向いて、眉を下げて小さく微笑んだ。とても人間とは思えない美しい顔。薄い唇は弧を描く。ただ、それが笑顔でないことは誰の目にも明らかだった。


「わかってる。けれど、ここからは私の復讐だ。この世界にはこの先ずっと――私の考える幸せな世界に付き合ってもらう」




 言葉の通り、計画はそのまま続行された。大規模なスラムの火災とそれを魔物のせいだと言い張った国の魔術師の子ども、そしてそれを鎮火し非国民たちを治した「魔女」の存在で魔王の存在は説得力を増し、広く知られることとなった。

 襲い来る魔物の襲撃に備えるため停戦協定を結ぶ国が徐々に増えた。武器を魔物に大量に使わせ、魔物を敵とすることを当然とした。

それが定着した頃に、勇者の存在を現した。

勇者の封印魔術によって魔王は封印されたが封印魔術自体は数十年しか持たないと知られ、国同士の諍いが再度行われることはなかった。


「女神のごとき魔女に救われた子ら」ということで、オースグラットに居た非国民は国民として迎え入れられ、非国民を嫌い大声で異を唱えた子どもは「火災に乗じて国が魔術師として迎え入れたシスターを殺した罪」を問われ罰を受けることとなった。





「師匠、南の森に行ってくるけど。何か要るものある?」

「ストラの薬草がそろそろなかったはずだから、取って帰ってきてくれ」

「はーい」


 深淵の森。その最深部に建つ大きな近代的とも未来的ともいえる家の扉を出ながらリリアは室内で本を読みながら漂っている魔王に声を掛けた。

 魔王への封印魔術は数十年も持たせるつもりなどなく、掛けた直後に解いて自宅に戻してある。元よりすべてヤラセなのだ。そうするのも当然であろう。

 出て行った弟子を見送った魔王はため息を吐いた。部屋にあった照明魔術具は現在撤去されている。今室内の空中を漂うのは、リリアの光の魔術だ。

 あの後、リリアはカロンという名だった魔物を師匠と呼び、魔術を懸命に勉強している。

 魔王が封印されている間は、時折リオンやミグリオに会いにオースグラットに行く以外は再びこの森の中で暮らしていた。

 もっとちゃんと修行して、魔術師になりたいなどと言って。「平和な世界」で二度と後悔したくないだなんて言って。

 師匠。その呼び名に気分の良さを感じないままに、魔王は目を伏し花の足元へ向かった弟子へ「バカな子だ」と呟いた。



 南の森の主木の足元には、一人の少女が眠っている。美しい黒髪をした少女だ。きれいな白の召し物は、さながら散った花びらが地面に絨毯を敷いているかのようだった。

 その傍にはちみつ色の髪色をした少女が座る。並んで座ればさながらセットの人形のようだ。

 リリアはアンネの手を握って、今日は何をした、何があったなどと話しながら魔力を流す。封印魔法は解いていない。起きる希望はないのに、それでも捨てきれないように。

 そうしてまだ咲かない花の下で、二人は眠った。





 物事は因果応報という言葉がある。

 世界は平等ではない。たとえば努力は報われなかったり、運のいい人に対して悪い人が居たり、生まれの差だってあるだろうし、まったく知らない他人のせいで、割を食うことだってある。

 けれどこれは因果応報なのかもしれない。

 俺の所為なのかもしれない。

 

これは、そんな少年の、失敗の話。


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