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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と魔女
5/72

3-2

 足を踏み出せば、次に居たのは先ほどとはまた違った場所だ。木々が生い茂っている中で、一か所大きく開けた場所がある。そしてそこには――大きめのログハウス風家屋があった。


「何コレ」

「私の家だ」


 森の中にあるには立派過ぎるほどのログハウスは、現代でも建てられていそうな立派なもの。三角屋根で、バルコニーは広く、外から見てもわかるログ造りのベンチが置かれている。窓ガラスは大きく、建物の背は高い。まるでモデルハウスのようだ。


「これどうしたの」

「自分で作ったに決まっているだろう。長く生きていると暇だからな。このあたりは人間も魔物も寄り付かないし好き放題だ」


 長命種というのはそういう趣味に時間を使うのか。極めすぎていて軽く引くが、とはいえ生活が快適なのは大歓迎だ。隣でオッサンが「渡り廊下続きで隣にきみの棟を建てて……」と画策しているのは微妙な気持ちだが。案としてはいいと思うのがまた。

 中に入ると、更に異世界に来たとは思えない造りだった。天井の高い部屋には暖炉やソファ、テーブルがある。奥には対面キッチンのようなものがあった。見上げれば天井は一部が飛び出ている。階段があるから、中二階のようになっているのだろう。


「ここがリビングルームで、二階が私の私室。三階は研究室になっている。地下には書庫があるので好きに使いなさい。問題はきみの寝室だが……」


 天井付近には謎の白い風船のようなものがいくつか浮いていて、淡く発光している。あれが照明代わりなのだろうか。魔術具というやつかもしれない。

 おお、何だあれ。半ドーム型の椅子……ハンギングチェアのようなものに逆三角形のガラス器具が付いている。管のようなものがドームに刺さるように繋がっていて、下側の丸い砂時計みたいなかたちだ。


「おい、聞いているのかね?」

「オッサン、なんであの椅子砂時計みたいなのがついてんの?」

「ん? ああ、あれは……そうだな。ちょうどいい、来たまえ」


 呼ばれて椅子の方へ行く。木でできた籠のようなものにクッションが敷き詰められているそれは魅力的だ。寝ても問題ない程度の大きさなので余計に。


「砂時計の上に石があるだろう。それに手を触れて魔力を流し込みなさい。手から砂が零れ落ちていくイメージだ」

「砂って、手から砂なんか零れねえよ」

「じゃあ水でも血でも構わない。とっととやりたまえ」


 わかりやすく血が流れるイメージを持って人差し指で石に触れると、その指から何かが流れ、砂時計に入っていく感覚にあった。驚いて見れば、感覚の通り砂時計に液体が溜まっていく。こうなると砂時計というよりは水時計か。点滴みたいだ。

 液体の色は不思議な色をしている。虹色というか、常に均一ではなく色が変わっているように見える。玉虫色とでも言えばいいか。シャボン玉を見ているようだ。


「これは時計に溜めた魔力で浮く椅子だ。その線まで魔力を溜めておけばだいたい一晩で魔力が切れる。もう少し、一度に流す量を増やしなさい。あまり一気に増やすと器が壊れるから気を付けろよ」


 言われた通り、流れを少しだけ増やす。ちょっと重症になったイメージと考えるが、流れ出るのがイメージでも虹色になった。俺の血は赤のはずなんだが、視覚情報とは恐ろしい。


「そこに流れ出た魔力がきみの魔力を可視化したものだ。溜まったな? そのまま乗ってみたまえ」


 椅子に座ってみる。言われるがままだなあと思うが今の俺は生徒だ。純粋な欲が出たともいえるが。見た目の通り、非常に快適な椅子だった。思ったよりも中のクッションが柔らかい。

 体をすべて椅子に預けると、不意に浮遊感に襲われた気がした……気ではなく、実際に浮いた。そういえば魔力で浮くとかなんとか言っていたか。


「しばらくはそれで眠るといい。一晩で魔力が切れて落ちるので気を付けろ」


 目覚まし時計にしては危険な機能だな。しかし時限装置付き椅子……ベッドか。便利なような不便なような。ただ寝心地はよさそうなので、ありがたく使わせてもらう。


「そして今のが魔力の流れと、きみの魔力だ。先ほどの要領で魔力を様々なものに付与したり、流しいれたりできる。もっとも魔力を溜められる器具は全て魔術具になるので、何にでも溜められるものではない」

「はあ」

「では三階に上がるぞ。体に流れている状態で魔力を見せてやろう」


 気付いたら授業が再開していた。俺の中に流れる血は赤いけれど、魔力は虹色をしているらしい。

 そしてオッサンはナチュラルに宙に浮いたまま階段の方へ移動しているが、俺はその場で固まっていた。オッサンは元から足がないから浮けるのかもしれないが、俺は操縦するためのハンドルもないようなベッドの上に居るのだ。動けるはずもない。


「ちょ、これどうやって下りるんだよ」

「は? きみの魔力を纏っているのだ、もはやそれはきみの一部。そのまま前に進みなさい。きみは歩くのに、いちいちどのようにするかを考えるのか?」


 むちゃくちゃ言うなこの師匠。常識からまず違うのだろうが、人間のことも一応は知っているようなのだから、もう少し配慮をしてほしい。人間は歩くのにわざわざ考えたりしないが、普通人間は空を飛ばない。

 SFアニメなどを思い出しつつ、球体が進むイメージをすれば俺のベッドはのろのろと階段に向かった。時間を掛けて階段に降り立てば待っていたオッサンはにやりと笑った。


「一人でも浮ける魔法を後から与えてやろう」


 初めから浮けるんだから、このオッサンには階段は必要ないんじゃないだろうか。

 先ほどの魔術具は前の世界の魔術師が使っているのを真似て作ったものだとか、この家は亜空間で拾ったどこかの世界の建物を参考にしただとか、雑談を聞きつつ三階に上がる。

 途中、中二階の部屋の扉はきっちり閉じられていた。オッサンの部屋に興味はあまりないが、気にならないといえばウソになる。忍び込む気はないけれど。なにせ美女の部屋ならばともかくオッサンの部屋なのだ。

 三階は研究室と言っていただけあって、様々な実験器具らしきものや、本が散らばっていた。下のモデルハウス感はどこへやら、乱雑に置かれたたくさんの物。逆に典型的な魔法使いの研究室のイメージに依っているようにさえ思える。扉と広さからして、奥にもう一つ部屋があるのだろう。


「これを飲みなさい」


 差し出されたのは試験官に入った液体だった。色は赤。透けて先が見えるので血ではないようだが、飲めと言われて出されても躊躇う。飲めるものなのか? とか、衛生的にここに置いてあるものを飲んで大丈夫なのか? とか。


「なんだ、私が毒殺を企むとでも? 毒見でもしようか」


 言うなりそれを半分ほど口に含み、飲み下す。そういえば毒の心配をするのを忘れていた。完全に、先に絆されてしまっている。


「うお?!」


 反省している間にオッサンの体が淡く光り、周りに薄く膜のようなものが張る。ない足の部分は特に膜が厚くなっている。というか、砂のようなものが漂っているように見える。手を出すとオッサンの手からはらはらと砂が零れ落ちた。色は白のようにも銀のようにもみえ、光に反射して輝いているだけで色がないようにも見える。


「これが私の魔力だ。きみの魔力とは少し違うのがわかるかね?」

「うん。なんか、砂っぽい?」

「きみの魔力も常人に比べると異質なのだが、一応人間と似た様相ではあるからな」


 フラスコに流れ出る砂を溜めるのを見ながら、手渡された残り半分の液体を飲むと、俺の体も同じように淡く色づく。先ほど見たのと同じ虹色だ。渡されたフラスコに魔力を流し込むと先ほどと同じ色の液体が溜まっていった。

 三十秒ほどで体の周りに見えていた魔力は見えなくなった。フラスコの中の魔力はそのままだから、フラスコがベッドの水時計と同じ仕組みなのだろう。


「幻影の魔法や知覚外に出る魔法も教えておいた方がいいかな。先に魔術の基礎知識を入れた方が早いか?」


 こちらを見てうんうんと唸る男は、ついて来いと言いながら今度は下に降りる。

 階段を一気に地下まで下りれば、そこは書庫だった。ただ、書庫と言ってもただ本が積んであるだけではない。アーティスティックな図書館というか。無駄に凝った内装の図書室だった。

 広さは、上の部屋よりも広いのではないだろうか。こんなに地下を掘って大丈夫かと問えば、空間魔法で弄ってあるから実際に地下を掘っているわけではないと説明を受けた。意味がわからない。


「まずはこれと、これとこれ。あとはこのあたりを読みなさい」


 ばさばさと五冊ほどの本を渡される。すべてハードカバーでめくってみると見たこともない文字が書かれていた。便利にも翻訳機能は読む方にも適用されるようで、字が読めないことはなかったが、進んで読みたいとは思わない。


「全部口頭説明じゃダメなのかよ」

「基礎を知らねばこちらだってやりにくいところがあるのだ。視覚から入れた方が理解に易いこともあるしな。きみがそれを読み終えたら魔術を教えつつ魔法を叩きこんでいくから、楽しみにしたまえ」


 叩き込むという言葉を使われて、あまり楽しみにできるものではないと思うが。ぐちぐち言っても仕方ないので、本を抱えたままついて行く。五冊の本は女子の細い腕には重たい。文句を言うと物を浮かせる魔法を教えられた。便利なこって。


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