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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と世界
47/72

37-2

 そんな感じで身辺を整えて帰ると、いい匂いが家から漂ってきていた。


「おかえり、リリア。アンネ。食事を作っておいたが食べるだろう」


 そして玄関に入るなり、待っていたカロンから声がかかった。つまり用意されていたのはオッサンの手料理で。


「それ、食えんの?」

「きみが居ない暇なあいだ私が何もしていないと思ったか?」


 節操無し多趣味の凝り性は料理を覚えたらしかった。

 地味に旨いハンバーグをアンネと食べる。うまい料理を作るまで数年はかかると思っていたのに、さすがに年の功。無駄な他の趣味も役に立っているんだと思う。

 食卓は、いつもは俺の分の料理しかなかったが今日はアンネの分もしっかり用意されている。キーウェを焼いてクナの葉が巻かれたものが添えられていて、そつない感じが癪に障るけれど。

 これらは俺の知っている食べ物では表せない味をしているのだが、旨いのは前から知っていた。こんな調理法を食事できないカロンがどう思いついたのか気になるところだ。


「こんなに豪華な食事、はじめてだわ」

「私も久々だけど……ここで自給自足してるのが、一番贅沢な暮らしができるなあと思うよ」


 宿の食事でもこんなものは出て来なかった。王族のリオンがどう言うかはわからないが、ホオウの卵が幻の食材とされているくらいだ。贅沢をしているのは間違いないだろう。明日は卵でも持ってくるか。


「それに、この野菜の方。食べてると魔力が……何か、変わってる感じがするのだけど」

「魔力が?」


 そんなもの、俺は感じないけれど。不審感を露わにカロンの方へ説明を求める視線を向けると、こちらの食事を眺めていたオッサンはほうと顎に手を当てた。


「クナの実には魔力増加の効果があるのだが、葉には効果が表れない。もしかすると、焼くことで効能が出るのかもしれんな。あとで試してみよう」

「試してみようではねぇだろ。そんな何の効果があるかわからないものアンネに食わせんなよ」

「ベースが人体と同じきみに食わせて平気だったのだから、普通は警戒などしないだろう。それよりも、効能に気付かなかった自分の鈍さを反省しなさい」


 そう怒られると分が悪い。黙って納得はしてませんよとぶすくれて知らしめながら無視すると呆れたような目で見られた。俺には今更増える魔力もないから効かなかったんじゃねえの。


「せっかくなので、アンネの魔力も見てみよう。話を聞くに学園にあったという魔術具は簡易的なもののようだ。直接薬を使った方がわかりやすい」

「それ、必要あるか? わかりやすかったら、何なの?」

「輝きと色が同時に出てしまうと色を見落としがちだ。もしかすると別の色も混じっているかもしれないだろう」

「水以外の魔術も使えるかもってこと?」

「そんなことがあるの?」

「あくまで可能性に過ぎんがな。この世界の者は基本持たない類の魔力だ」


 あまり期待はしないようにと注意されながら、アンネは少し嬉しそうだ。魔術が使えることは彼女にとって大切なことのようだし、アンネが喜ぶなら俺も嬉しい。

 調子に乗って「どちらにせよ、滞在中は魔術の訓練でもしてやろうじゃないか」などと言っているカロンは腹立たしいが。しかし「どうせ訓練を怠けている弟子と一緒に」と付け加えているところをみると、純粋に俺のことしか考えてないのだろう。アンネをエサに俺のやる気を引き出そうとは卑怯な魔女だ。


「あ。魔術といえば、前にここでは自然魔術が使えないってきいたんだけど、あれはどういうことなんだ?」

「魔術が使えない?」


 以前ミグリオに聞いた、この区域に入ると自然魔術が使えなくなるという話を覚えている範囲でカロンに話す。ついでに、呪文を唱えると魔力調整がしやすいことも。

 アンネは基本呪文を使う魔術しか使ったことがなかったようで、呪文なしでの魔術に興味を示していた。驚かれると知ってから、俺も基本町の人の前では呪文で魔術を使っていたしな。


「ふむ。アンネ、今ここでその呪文の魔術を使えるかね?」

「私?」

「リリアにやらせると、なまじっか自分で魔力を動かすすべを知っているがために中途半端に使えかねんからな」


 いちいち引き合いに出すな。とはいえ、呪文を唱えなくても使えるイメージがある以上懸念された通りのことになるのは目に見えている。まったくイメージを捨てて、けれど気構えだけは魔術を使う気で呪文を唱えるのはなかなか難しいはずだ。

 言われるままに、アンネは部屋の中で「セ・スィ・エゼード」と唱える。水の魔力を持ったアンネは、それで水の魔術を使えるはずだが、やはり魔術は使えなかった。


「では使える場所に行ってみようか。リリア。適当な人の居ないところに連れて行きなさい」

「今からかよ」

「すぐに帰って来るのだから、いいだろう」


 気になり始めたら止まらないんだから、このオッサンは。

 食事は一応終わっているが、食器類を残して出かけるのに気が引けながら二人を連れて出る。行先は人の居ないところという指定だったので、ミグリオの村の近くの森だ。下手に王都付近に飛ぶほど考えなしではない。


「ではリリア、使ってみろ」

「今度は私か」

「きみでないと、私が魔力の動きを正確に感知できないからな」


 先ほどのアンネと同じように呪文を唱えると、見事イメージ通り水の魔術が撃たれた。

 そのまま、更に指示され部屋に一歩で戻る。心構えも中途半端に人間の里に下りたカロンは、帰りの一瞬手を繋いだ隙に俺から少し魔力を奪っていた。そのくらいは、鈍くともばれるぞ。


「多分、あの国全体に魔術が仕掛けられているな。魔法陣だろうか」

「国全体に?」

「ああ。指定の呪文を唱えると一定の魔力を使用して、術が行使されるようにされている。かなり高度な魔術師が作った魔術だろうな。興味深い」

「つまり、ここだから使えないわけではなくて、国外……魔法陣の外に出ると使えなくなるということ?」

「そうなるだろう」


 俺の疑問と簡単な検証だけで見抜いたカロンは、魔法陣の中心がどこにあるかなどの推測を立て始めている。さすが魔女といったところか。

 考えることに夢中になってしまったカロンは放っておいて水の魔術で洗い物をして乾燥させ食器を片付ける。


「それ、私もできるようになるかしら」

「水の魔術が使えるんだし、教えてもらえばできると思うぞ。アンネは私より器用だろうし」

「自然魔術がこんな使い方をできるなんて、知らなかった。こちらの使い方の方がよほど実用的なのに」


 そうだなあと同意する。魔物が足を止める大雨も雲の散るような爆発も、日常生活では必要ないもののはずだ。それが必要な時に、呪文の魔術が作られたのかな。


「ところできみたち、そろそろ風呂にでも入ってきたらどうだ。もう人は寝る時間だろう? 魔力の検証は明日で構わないので休みなさい」

「もうそんな時間か」


 時計がない上、この家の中は常時魔力灯が付いているので気付かなかった。元より本来睡眠を必要としない体だ。

 それはともかく、勝手にトリップしていたカロンから出るセリフとして正しいのかとツッコミたい。

 アンネを風呂まで案内すると、その建物に一旦驚かれ、しばらくぶりの要領で湯船にお湯を張るところでまた驚かれたのは割愛する。どこの世界の人間だろうと、これに驚くのは普通のことだと思う。

 オースグラットでは温泉はなかったそうだし、教会で湯につかる習慣もなかったようなので一通り使い方を教えて脱衣所から逃げる。説明とはいえ好きなコと一緒に風呂場に居るのは気まずい。照れる。

 しかし、脱衣所を出掛けたところで「リリア」と鈴のような声が後ろからかかり、反射的に足を止めた。


「これだけ広いんだし、一緒に入らない?」


 説明の際に、俺の居た世界での温泉のイメージの話をしたのが悪かったのか、アンネはそんな、魅惑的な提案を事もなげにしてくれた。


「な、な!?」


 それはできないとスマートに断れればよかったのだが、運の悪いことに少年らしい心を持つ俺には刺激が強かった。顔に熱が集まる。声は意味のない音しか発しない。

 挙動不審な俺にアンネは首を傾げるが、察してほしい。相手は男の子だぞ。四歳とはいえ体は同じくらいの年頃だぞ。というかアンネも同じくらいの年の男を風呂に誘うだなんて――違った。俺、女の子だった。

 美少女だったんだ……。そりゃあ、女の子同士風呂に誘ってもおかしなことではなかった。

 初めてのお風呂。使い方を教えられたとはいえ、一人では不安。そこに丁度良く居る同じ年くらいの女の子。誘う。そりゃ誘う。


「リリア?」

「あ、あう。えっとお」


 これは、乗ってもいいのだろうか。俺は女の子でアンネも女の子だ。確かにアンネは好きなコだ。けれど、だからこそぶっちゃけ見たいという思いもある。女子だし。合法だし。不可抗力だし。


「っゴメン無理! 私男だから!」

「は?」


 それでも、さすがに不誠実なことができなくて……というか恥ずかしすぎて無理だと言えば、アンネから不思議そうな声が返ってきた。端的でわかりやすい発音で。


「いや、あの、前の生の話はしただろ。生前男だったから、確かに今は女の子だけど、ちょっと一緒にお風呂は、困るといいますか」

「男だったなんて、聞いてないわ」

「あ、あれ?」


 言ってなかったっけ。言ってなかったわ。言ってたら、そりゃ誘わないわな。

 しまったと後悔してももう遅い。そっとアンネを覗き見ると、じとりと半目でこちらを睨んでいた。


「私、もう秘密はないか聞いたわよね」

「素で忘れてた……のだと……」


 声に色のなくなっていくアンネに、俺は自主的に正座する。脱衣所で。

 説明するときに何か重要なことを忘れていた気がしたが、これが正解だったらしい。鶏の記憶力で探ってみると、俺が男である旨は言った覚えがまったくない。あの時アンネに、他に秘密はないかと問われた覚えはきっちりあるし、多分ないと答えた覚えもあるのに。


「すみませんでした」


 誠心誠意込めて土下座すると、アンネは呆れたように「何その態勢?」と問う。どうやらオースグラットには土下座はないらしい。


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