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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と世界
44/72

35

「つーわけで、神様に会いに行こうと思う」


 場所を移し、アンネとリオンと三人(プラスリオンの護衛)での会議。アンネにシヅホさんとの話の一部始終をかいつまんで説明した後、俺は宣言した。

 神様の許可が得られないことがネックなら、許可を取ってしまえばいいではないか。

 制度を変えるのは国にとって不利益になるため、神様に制度変更のお願いができないという問題が初めに出ていたが、実際、少なくともこの国に於いては王族も元神子もリスクを度外視してみるならば変えたいと思っているのだ。

 制度変更のお願いが問題ならば、一旦許可だけでも得ればいい。他国の事情はまだ知らないため、今は手を打てない。ならばこの国の神様にだけでも話を付けておけばいい。

 他にできることがないので思いついた問題を一個ずつ解決するしかないんじゃないかと自棄になっている――とかじゃないからな。


「ちょっと。ちょっと待って。それ以前に気になることが多すぎて、理解できないわ」

「え?」


 要約しての説明は、わかりにくかっただろうか。ストップをかけたアンネに首を傾げる。アンネは頭が痛そうに自分のこめかみあたりをぐりぐりと手で押さえると、しばらく自分の思考をまとめるように独り言を呟いたあと、こちらを見た。


「まず、リリアが異世界人ってどういうこと? 招致って、何? 神子さまは神様のお選びになった子どもではないの?」


 最初の質問は俺に。あとの質問はリオンに向けてされているようで、アンネの視線は俺とリオンを交互に見ている。これまで滞りなくできていた会話が突然止まって、俺も首を傾げるしかない。

 ただ唯一リオンは何が会話を妨げたのかわかっているようで、説明をしてくれた。

 神子は、広くは神に選ばれた子どもとだけ知られている。この世界以外にも世界があることを知っている者はいるそうだが、異世界から人を呼び神子としていることを知っているのはほとんど王宮関係者だけらしい。

 世界を越えてやって来られる者は神と対する力を持っているから、という理由が王宮側にはあるそうだが、一般に知られると他所の世界の他人から神の言葉を伝えられていると反発がある可能性があるから知らせていないらしい。誘拐だからという後ろめたさもあるかもしれない。

 事実アンネはショックを受けているようで、狼狽えこそしないものの不信感を表情に出していた。「それって、この世界のために、勝手じゃない」とは、独り言だったので誰も答えを返さなかったけれど、耳に届いてしまったアンネの声だった。


「いえ。今は、いいわ。それで、リリアのことよ」

「リリアが異世界人だったのは私も初めて聞いたが」


 三人分の目が一斉にこちらに向けられる。魔術のことといい、いろいろと秘密にしていた意味がなくなっている気がするが、既にばれてしまっているのだ。説明しないわけにはいかないだろう。


「ええっと、実は、そういうことなんだ」


 嘘を吐きたくはないので、前の世界で一度死んで、神様のような天使のような存在に遭い、この世界のあの森に落とされたことを適当に説明する。二人は俺の経緯に絶句していたが、ひとえに一度死んでいるのが受け入れがたいのだろう。深刻になられても嫌なので、努めて明るく笑ってみせる。


「一度死んだっていっても、生前の思い出もなければ死んだときの記憶もないんだけどな。この世界に前の世界の拙い知識だけ持って生まれ落ちたから、実質四歳なんだぜ?」

「それは、計算が雑過ぎない?」


 気にしないで欲しいのが伝わったのだろう、アンネは俺の冗談にツッコミをいれてくれた。笑顔がちょっと失敗してるけど、そんな顔も可愛いぜ。

 リオンの方は深刻にはなっていないようだが何か考え込んでいた。口元に手を当てじっとこちらを見ていたが、しばらくして「それなら」と口を開いた。


「神に謁見するのも不可能ではないかもしれない」

「どういう意味だ?」

「神子の制度があるように、元より神に謁見するには素質が必要なんだ。魔力が多くとも素質がなければ会うことは叶わないが……異世界から来た上に一度神に会っているというならば、会えるだろう」


 なんと、実は神様に会えない可能性もあったらしい。


「問題はどうやって謁見するかだ。さすがに、神子ではない者を公的に謁見させるわけにはいかない」


 王子といえど。自分を王子だと言うのに抵抗があるからか、リオンは言わなかったが王族でもできないことはある。教会に住んでいるアンネもそれはわかるらしく、頷いて眉を顰めていた。それほど難しいことなのだろう。

 といっても、俺は元より公的に謁見するつもりなどなかったのだが。


「普通に忍び込むつもりだけど、それは見逃してくれるんだよな?」


 言った後で、これ言わない方がよかったかな、と失敗に気付く。リオンの立場的に大きな声で「見逃す」とは言い難いはずだ。現に、困ったような顔をされてしまった。


「ごめん。今のなし。私に考えがある」


 にやりと挑戦的に笑って言ってみせるも、リテイクではかっこのつきようもなかった。幸い聞かなかったことにしてくれるようで、リオンは「じゃあリリアに任せよう」と言ってくれた。話の分かる友達でありがたいことだ。

 ただアンネの方からは声があがらなくて、首を傾げる。見れば不安そうにこちらを見ていた。何かと問うてしまうと、リオンが知らんふりをしてくれた意味がなくなるが。


「何か、気になる? ちゃんとばれないように忍び込むし、アンネの迷惑にはならないようにするけど……」

「そうじゃないわ」


 俺が下手をうてば教会で暮らすアンネに迷惑がかかるかもしれないので、細心の注意を払って行動するつもりだ。いつにない慎重さで挑むつもりである。しかしアンネは首を横に振り、それから嫌そうに顔を歪めた。


「なんというか、心配しているだけ。大丈夫だという確信があるが故の宣言なのでしょうから、余計なお世話かもしれないけど。教会と違って、神様に近い神殿の方々が少し、その、過激だという話だから」

「そうなのか?」


 心配してくれていた。感激だ。嬉しさににやけそうになるのを抑えながら、問い返す。神殿の人が過激って、想像がつくようなつかないような。宗教は人を変貌させることもあるからなあ。

 詳しく聞くと、神殿の人たちは神様至上主義で、権力者が神に頼ることを良しとしていないらしい。神が居て、それに選ばれし神子が居るのが本来の姿。今の異世界から神子を承知する制度さえ、実は反対しているそうだ。

 教会の運営や神殿の維持も国がしていることなのだが、その国とも対立しかけているというのだから、滑稽な話だ。

 ともかくそんな中に、異世界から来た魔術師で、神様に会ったと嘯くような非国民もどきが突っ込むのは危険ではないかと。さすがに、馬鹿正直に正面突破を選ぶつもりはないんだけど。それじゃ穏便には済まないだろうし。


「大丈夫、大丈夫。こっそり行ってこっそり帰ってくるだけだから」


 聞くに神子でなければ、神殿の人たちも神様に会うことはできないようだし。誰にも見つからないうちに会って話をして帰るだけ。簡単なおつかいだ。


「そこまで言うなら、あなたを信じるわ」


 努めて明るく説得すれば、アンネは呆れたように許してくれた。許しを得ずとも勝手に行けばいいけれど、嬉しくともアンネの心配事が俺であるのは遺憾なことだし、そうでなくとも彼女の不安は取り除いてあげたいのだ。

 とにかく話さなければ何もわからない。作戦とも言えない作戦はさっぱりと決まり、俺は任せろと胸を叩いた。




 そうと決まれば行動は早く、その日の夜に教会に向かった。教会の前まではアンネの案内で行って、敷地内に入る前にアンネと別れる。街灯もない、木々に囲まれ奥まった場所にレンガ造りの教会が立っており、そこを門として奥に神殿があるそうだ。変な造りだ。

 教会の入口は少々広めの門で、ここに民衆が集まって、神子の聴衆会が定期的に行われるらしい。神子の方が民の不満を聞くものなので、聴衆会ではないか。

 しかしそれも、国に選定された質問しか出せないようになっているというのだから、馬鹿らしい話だ。余計な情報は神子には入れない。過保護も過保護。度が過ぎて、いっそお遊戯会である。

 門に飾ってある花のリースを見て「小奇麗にしてるんだな」と言う俺に「あれは神子様の作られたものなのよ」と教えてくれる、信仰心厚いアンネには言えないけれど。

 あんな百均に売ってそうな花飾り作って、民の綺麗事を聞いて、神様と会話して。神子というのはさぞかしつまらない人生を送っているのだなと思う。

 まあ、その世間知らずが功を奏して平和な理想を持ったのが、シヅホさんのような例になるのだろうから悪くは言わないけれど。

 明日には忘れてそうな適当な感慨を抱きつつ、アンネが教会に入るのを見届けて自分の行動に移る。

 ここからは魔術ではできないことなので、フルで魔法を使う。実際は応用すれば魔術でもできそうだが、生憎と俺の魔術はへたくそと言われるレベルなので、確実な方法をとるしかない。

 まず姿を消し、周りから認識されないようにする。自分から漏れ出る魔力は最小限に抑え、足音を立てないよう地面から数センチ浮く。そのまま敷地内に入ると、一直線に神殿を目指す。

 障害物を避けながら、浮いた状態で歩いて進む。敷地内に入ると、そこは森の中と言っても過言でない状態だ。途中小さめの館があるが、ここは神子が住んでいるところらしい。興味はないのでスルーして一気に神殿に到着すると、門と門番を飛び越えて中に入る。神殿というのに、夜間の警備やら重厚な門やら、ずいぶんな厳重警備体制だ。

 ここまでくると、妙な気配を感じた。三つ。神殿の奥まった部屋に別れて三つの気配がある。魔物とも人間とも違うものだ。

 適当に選んで、そのうちのひとつの元に向かった。


「珍しいお客さんだね」


 たどり着いた通路の行き止まり。まったく明かりが点けられておらず、さすがに夜目の利くこの目でも周りが見えないなと思っていたところで、声が聞こえた。ひとつの気配に向かって進んでいたのだから声の主はその気配の相手で。

 次の瞬間、部屋が明るくなった。明るくなったという表現は正しくないか。明かりがついたわけではない。それなのに、周りがはっきりと見えるようになったのだ。

 そうして現れたのはひとつの白い空間……死んだときに見たあの部屋と似た場所と、一人の男だった。あのときの奴と同じく、そして今の俺と同じく見た目は人間と似て非なる造り。精巧な人形のような美しさ。流れる青の髪。白い服。


「迷子? というか、んん? なんだかおかしな様相をしているね」


 神様というには気さくに、彼は首を傾げてこちらをじっと見る。眉を寄せて検分するようにこちらを眺め、いっそうにおかしなものを見る目はガラス玉のようだ。


「きみ、何?」

「あんたが、青の神ですか」


 何と言われても困るだけなので、失礼にあたるかもしれないが、質問に質問で返す。青の神、という言葉に反応して、彼は目を瞬いた。表情ばかりは普通の人間のようだ。彼はまじまじとこちらを見ながら「ちょっと待ってね」と思考を整理するように頭を抱えた。しばらく待つと、これだ! というように目を見開いて、こちらを指さし。


「どっかの国の神見習い!」

「えっと……」


 別にクイズをしてるんじゃねぇんだけどな。反応が芳しくないことに気付いたのだろう、青の神は途端面倒くさそうな顔をして手を振った。


「じゃあわかんないや。きみ、普通の人間じゃないよね? ここに何をしに来たの?」


 変わり身が早すぎる。といっても話をしないことには始まらない。この神様をあの部屋の奴と同じと仮定して、ここに来るまでの経緯をかいつまんで説明する。三度目になる説明は、わかりやすく簡潔にできたと思う。

 不手際云々を説明し終えたところで大体の事情を察したようで、途中から憐れむような視線を向けてきていた神様は、最後まで茶々を入れずに俺の説明を聞き終えた後、ひどく同情した目で言った。


「たいへんだったね」


 どうやら俺は、神様から見て大変だったようだ。個人的には周りに恵まれたので大変だなどとは感じていないのだが。好きな子もできたし。


「それで、そのヒコクミンセイドをなくす許可を得るためにここに来たってことか」


 一度の簡単な説明だけであらかた理解してくれた話の早い神様に、神妙に頷く。ここで「だめだよ」と言われたら次の手は考えていないし、正直打つ手がなくなる。しかし、一応ある程度の勝算はあるから、ここに来ている。

 神子が非国民制度を知らないということは、つまり神様もそういう制度があることを知らないのではないかと、俺は思うのだ。知らないから変えようとも思わない。そういった神託も与えない。と。

 それでも不安はあるもので「ダメだ」と言われたらどうしようとも考えるが……そうなったら、なんでダメなのか、何がダメなのか直接聞くしかあるまい。俺の状況に同情してくれているのならば、豹変して無視したりはしないだろう。

 そうして不安をぬぐうためつらつらと考え事をしながら返事を待つこと数秒。実際は秒もかからなかったかもしれないが。


「好きにしたらいいんじゃない?」


 想定内の返答は想像以上の軽さでされた。


「きみは僕らと同質のものだし、一応今の信仰体系が完成している以上手伝いはできないけど、止める気もないよ。シヅホのお願いでもあるみたいだしね。よかったら、他の奴らにも言っておいてあげるよ。世界中回って許可集めてくるのも大変だろうし」

「ほ、本当ですか?」

「嘘なんて吐いてどうするの?」


 別に、嘘を吐かれているだなんて思ってはいないが、それにしても話が早すぎて困惑する。うまい話には裏があると、どうしても思ってしまうのだ。こっちの不手際の件もあるし、と肩を竦める神様は、もしかしたらあの天使と知り合いなのかもしれない。

 いや。いやしかし、言質は取った。いつまでも疑っていても仕方ないし、せっかく頂いた許可をそれで取り下げられても困る。


「ありがとうございます」


 見返りを求められなかった以上、誠心誠意頭を下げてお礼を言うだけに留めておけば彼はにこりと笑った。「頑張ってね」とはなんともありがたいお言葉だ。

 ことがうまく運びすぎて、空恐ろしさを感じつつ神様に別れを告げて魔法で一気に教会の外に戻る。なんというか、もしかすると俺は前世この幸運に見合う艱難辛苦をマジで味わっていたのかもしれない。なんつって。


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