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外で待機していた追い出された人たちに手紙を託してリオンの大叔母さんから了承を得る間、俺たちはリオンが湖に来なくなった理由を聞いた。
曰く、原因は俺だとか。
元より第二王子であるリオンがあの森に入ること自体、かなり多くの人が反対していたらしい。許されていたのはリオン自身の意志があったことと、自己防衛の手段があったため。また、湖の付近はあまり凶暴な魔物が居ないためだそうだ。
確かに、東の山ならともかく湖の方は血の気の多い奴はほぼ居ない。東の山も、俺からすれば臆病で弱い奴しか居ないのだが、そこを基準にしてはならないのはさすがにわかる。
問題は、南の森だ。花の森と呼ばれる南の森は、内情を知っている俺には安全な場所でも、未開の地として扱っている人間には危険な場所なのだそうだ。範囲も把握しきれていないし、人間にも、魔力を奪う花や食人植物の存在は知られている。安全性のわからない場所に王子様が連れ出されたと知っては、許可が取り下げられるのは仕方のないことだった。
つまりは、俺が花を見せに行ったことが理由でリオンは森に来られなくなったと。
「それは、余計なことをしたようで、申し訳ない」
「いや。私が喜びのあまり、薬草を摘み帰って周囲に話したのが悪かったんだ」
それは、言わなければよかったと聞こえるぞ。陳謝する俺に慌てたのか余計なことを口走ったリオンに苦笑するのは、リオンの後ろに控えるお付きさんの目が光ったからだ。
「でも、それなら渡した魔術具で手紙のひとつでも寄越してくれればよかったのに」
心配したし、死んだと思っていたのもあって少々恨みがましい言い方になる。俺が原因な以上文句を言う資格がないことはわかっているが、一応心配したし、当時唯一定期的に離せる人間の友だちだったから、実は少しへこんだのだ。
「それは……私は思っていなかったのだが、皆がリリアのことを魔物ではないかと疑ったからなんだ」
「魔物? 私が?」
「魔力耐性の高さと、あのような場所に住んでいるということで、実際のきみを知らない者たちが……その、私をかどわかそうと優しくしているのではないかと」
「なるほど」
わからない仮定ではない。世間知らずで、魔物の居る森からほとんど出たことのない少女。
事情を知らない人間には、姿かたちを変えた魔女のような魔物がそこそこ魔力のある少年を誘惑しているように聞こえても不思議ではない。魔術師のリオンは、あのあたりに住んでいる魔物にとっては気に掛けるほどでもない魔力量でも、人間から見れば違うのだ。
「で、それがどうして今回のことと同時に解決するんだ?」
そこで先ほどの話に舞い戻る。得体の知れなさが昔からのものになってしまえば、一層、要人であるリオンの大叔母さんには会えないのではないか。
「町に下りてきてくれたおかげで、きみが人間だと証明できるからだよ。ここには人間か魔物か見分ける魔術具があるんだ。少し検査してもらうことになるけれど、あの森に住んでいたという逸材ならば蔑ろにできないし、それさえ終われば大叔母様との面会も確実に叶う」
「得体が知れないなら、知られればいいってことか」
わかりやすい話だ。話に区切りをつけると、リオンは小さく手を挙げる。それが合図だと気付いたのは、手元に、物語で魔女の使う水晶のような丸いガラス玉が用意されたからだ。説明を始める前に、既に準備はされていたのだろう。
「学園に入学する際に使う、魔力を調べる魔術具ね」
「そうなのか?」
「ああ。人間の魔術師ならば光り、魔物ならば黒ずむようになってるんだ。リリアも、魔術が使えると言っていただろう?」
「自然魔術の才能があれば、光に色が出るわよ」
「それは、それは」
学生二人に説明されて、血の気が引く。それは、ちょっと、まずい。
もし俺が本当は魔物でこれが黒くなるようならどうする気だとか、つっこみたい点はあるけれど、それどころではなく。魔力の色がばれてしまうと困ることがあるのだ。端的に言うと引かれるかもしれない。
悩む俺に、リオンとリオンのお付きの人の視線が少し変わる。リオンは少し不安そうに。お付きの人は警戒するようなものに。アンネは変わらないどころか「どうしたの」と聞いてくる。疑われないのは嬉しいけれど。
「ど、どんな感じに光っても、引かないでほしい」
人払いはされているし、見ているのはアンネとリオンとリオンのおまけだけ。二人ならばきっと引かないでくれる。
覚悟してガラス玉を持つと、指先の触れた瞬間からそれは光り輝いた。淡く光ったとかじゃない。それはもう、光り輝いたというのが正しいくらい。こんなに光られては色も何もわからない。少し青みを帯びた光な気はするけれど、それを確認するよりも前にびっくりしてガラス玉を取り落としてしまった。
床がカーペットでよかった。鞄に手を突っ込んで適当なところから布を取り出し、拾い上げる。見た感じ割れてはいないようだ。
ほっとするのも束の間で、顔を上げると三人とも目を瞠っていた。光が強かったのは、この玉が魔力の色と質だけでなく魔力量まで表すものだったからだろう。思いのほか自分の魔力が抑えられていなかったことにショックを受ける。そりゃあ、フェイゼルさんにもばれるわけだ。
「すごい。私も結構光ったけれど、こんなに眩しいほどに輝くのね。それ」
「淡く色づいていたように見えたけれど、自然魔術が使える自覚はあるかい?」
驚愕されたが、二人はすぐに持ち直して話を続ける。俺が気にしないように気遣ってくれているのか。
しかしリオンの質問に、返答を考える。元は知られると覚悟したことだ。それに、二人とはこれから協力してもらうことになる。ミグリオにも二色は使えると言っているし、隠し立てしても仕方ない。
「それが、全色、使えまして」
「は?」
正直に告白すれば、怪訝そうな声。わかりやすい反応に、再度同じセリフを繰り返す。湾曲など一切していない、解釈する必要のないセリフでもかみ砕いて飲み込むのに時間を要したのだろう。たっぷり理解の時間を取って、先に言葉を返してくれたのはアンネの方だった。
「差支えなければ、全部見せてほしいけれど……ここでは難しいかしら」
水の魔術を使っているところは見せたことがあるが、他はない。好奇心もあるのか許可を求めるように許可できそうな相手に視線を向けるアンネに、ようやくリオンも意識を取り戻した。
「そうだね。修練場がすぐに使えればいいが……」
「できればあまり知られたくないことだから、目立つのは困るんだけど」
当初の目的は俺が人間かの確認だけだったのだ。拒否すれば二人ともおとなしく引き下がったが、アンネはこっそりと「後で見せてね」と約束を取り付けてきた。可愛くてずるいお願いに二つ返事で了承してしまった自分のわかりやすさといったら。
そんなわけで無事人間であることと、有益な魔術師であることの証明できた俺は、三日後にリオンの大叔母さんとの約束を取り付けることができた。今日の今日は無理があったそうで。
ちなみに帰る途中路地裏の隅の方で見せた全種類の自然魔術にアンネは面白そうにしてくれたが、相変わらず電気と光が苦手なことがばれないか、俺は心配でドキドキしていた。




