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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と世界
32/72

24

 ミグリオに聞くに、脚に魔力を集めて強化し、足元で魔力を破裂させることで瞬間的な高速移動ができたというのが先ほどの瞬間移動の説明だった。そんな魔力の使い方は考えたこともなかったので感心した。早く移動したいなら空間を捩じって移動する魔法を使えばいい環境だったから思いつかなかったのだろうな、と自分の発想の貧困さを誤魔化しておく。

 現在野盗は縛って見張りしつつ放置している。一応、金に困ったときに売る用の睡眠薬をかがせているのでしばらく目を覚ますことはないだろうが、元より夜は誰かを見張りに立てる必要があるので、寝るときは交代で見張っていることになった。


「俺はリリアの魔力量が羨ましいよ。ただの魔力攻撃で男一人気絶させられるんだもんな」


 慰めるようにミグリオは笑って言ってくれる。

 例の、ミグリオの持っていた魔術書には自然魔術の呪文以外にも普通の魔術の行使の呪文も載っていた。俺が野盗のリーダーに使ったのはそのうちのひとつだ。

 自然魔術と違って、一般魔術の呪文はなぜか、術者の魔力量によって威力が変わる。そこに差ができた理由は本には書いていなかったので不明だ。

 呪文には形式がある。魔力を集める呪文は「セスタ」、撃ちだす呪文は「シェゼード」。最初の「セ」ないし「シェ」が命令の意味を持っているらしい。なので自然魔術の方にも基本呪文の最初に「セ」が着く。次に属性の決まり句。火の魔術なら「ラギ」水の魔術なら「スィ」と言う風に続いて、その後魔力の動き方が入る。「エゼード」が撃ちだす、「ディレッション」が破裂……という風にだ。

 きっと人の作ったものなのだろうというのは、さすがに俺にもわかる。


「しかし、まさか野盗に魔術師が居るとは思わなかったな」

「ミグリオとリリアちゃんが居なかったらやばかったな」


 簡易な夕食を食べながら、村人の奴らが口々に助かったと言う。しかし、何事もなかったからよかったものの、実際笑い話では済まないと思うのだが。


「こういう野盗って普段から出ることもあるんだよな? 普段はどうしてるんだよ。正直、野盗十人に囲まれたら村人四、五人じゃ助からないだろ」

「普通、野盗っていってもこのあたりで十人近くが群れていることなんてまずないんだよ。そういう徒党を組んで統率のとれる奴らは、もっと稼げる王都近くに居るからな」

「それに、普通に働けば稼げる魔術師が野盗をしてるなんて聞いたことがないしな」


 だから普段はミグリオを連れて行けば問題ないらしい。ミグリオが生まれる前は、護衛を雇ったりもしていたそうだ。

 そう言われれば、確かに魔術師の珍しいというこの世界で魔術師が人を襲って金儲けなんておかしな話だ。水の魔術なんて生活でも役に立つのに。せめて、もっと派手な盗賊ならばまだしも、買い付けに行く田舎者を襲う野盗。


「もしかすると、非国民なのかもな」

「ああ。そりゃ難儀なことだ」


 非国民? 俺の知っているのとは違う意味で使われたように感じる言葉に引っかかって首を傾げるも、ここの国民が通常知っている言葉に疑問を持つのは不自然なので、問うことはできない。

 すぐに流れて行った言葉を、俺は横から感じる視線に気を取られている間にすぐに忘れてしまった。




 その後は何事もなく、町まで到着した。野盗のリーダー及びあの場から逃げ出さなかった奴らは町に到着すると警吏に引き渡した。あのまま放置していれば俺たちの居なくなった帰りや次回の買い出しが危険になるだけだったからだ。五人で魔術師含む野盗を捕らえたということに警吏は驚いていたが、こちらに二人魔術師が居ると知ると納得してくれた。

 買い付け組はここまでなので、俺たちとはここで別れることになる。ミグリオに対してまるで自分のことのように真剣な顔で「頑張れよ」と言っていたのは、彼らにもあの村の外の世界への夢があるからなのかもしれない。

 そんなこんなで、村を出て二日後、あっさりと俺とミグリオは二人になったわけだ。


「取り敢えず宿だな。さすがに休まず向かうのは大変だし」

「そうだな。宿を取ったらトノキアに向かう行商人あたりを探してみよう。護衛代わりに連れて行ってくれるかもしれないし」


 火と水の魔術師の二人組ですと触れ回れば、簡単に乗ってくれる相手は見つかるだろう。

 その予想の通り、宿を取り、夕食時に食堂内で適当に声を掛けると一組の行商人が乗ってくれた。各地を回っている為、護衛は一人常時連れている人を除いて現地調達しているそうだ。

 それは不便ではないか? と思ったが、話を聞くに、その場で護衛を得られないときは常時護衛一人で次の町に向かうらしい。つまりは、その護衛が強いと。そして、俺たちを連れて行ってくれるのは半分ボランティアだと。


「ああ、でもきちんと護衛料は払いますよ」


 人の良さそうな、少々下腹の出た商人シトロンさんはからからと笑いながら金額を提示してくれる。前金がどうとか言っているのを、俺は本格的な話になってきたなあと思いながら眺める。ここの金銭感覚には疎いので、交渉はミグリオ任せだ。ミグリオも田舎の若者なので敏い方ではないけれど、ここで護衛を雇って帰ったり、トノキアまで行ったこともあるそうなので、俺よりは随分とマシだ。


「きみも魔術師なのかい?」

「へ?」


 蚊帳の外でいると、隣から声を掛けられた。常時護衛のフェイゼルさんだ。髪色は深い紫色をしていて、どこか優男風の雰囲気を醸し出している。しかし体は優男ではなく、しっかり筋肉が付いており、腰には武器を携えていた。王都の店で売っていなかった、ちゃんとした剣だ。どこかの専門店で買えるのだろうか。

 どうやら、二人が話をしている間蚊帳の外なのは俺だけではなく、他の連中もだったようだ。フェイゼルさんを除いて他に居る五人の商人仲間もこちらを覗き込むように見ている。


「ええ、まあ」

「ということは、二人とも魔術学園に入学を希望しているの?」

「いえ。ミグリオはそうですが、私は別件で王都に用事があるので。ただの同行者です」


 最終的に王都に向かうためにトノキアに行くという話は最初の交渉の時点でしてある。世間話のつもりなのだろう。

 さすがに見た目年上にいつも通りの話し方をするわけにはいかないので、丁寧語で話す。実年齢の話をすると、誰も彼も年上だけど。田舎者感が薄れるので、今後王都に着いたらこの話し方にすればいいかもしれない。


「そうなのか。野盗を倒した魔術師のカップルが居ると聞いたから、そうなのかと思った」

「カップルって……」


 どうやら野盗を警吏に引き渡した噂はすでに町に広まっているらしい。そこまで広い町でもないし、行商人ともなれば、そのあたりを気にしてしかるべきだ。知っていてもおかしくはない。


「違うのかい?」

「違いますよ。特にミグリオなんて、私を女と見ていないそうですからね」

「こんな美少女なのに?」

「こんなに美少女なのに」


 酒が入っているせいもあるだろう。からからおかしそうにみんな笑っている。俺が美少女を自称するからというわけではないだろうので、不快ではない。フェイゼルさん含め男性が四人、女性が二人居るのだが、女性のうちの若い方が「失礼な男ねえ!」と言いながら抱きしめて頭を撫でて来る。席を立っている。酔っ払いだ。


「リリア、リリア」


 頬に感じる柔らかい感触に幸福を感じつつ、つられてへらへら笑っていると、そっと袖を引かれた。


「ミグリオ?」


 困惑した表情のミグリオはこそこそと、こちらに顔を寄せる。何かまずいことでもあったのだろうか。お姉さんに撫でられながら顔を寄せると、ミグリオはそっと囁く。


「どうしよう、申し訳ない」

「は?」


 眉を下げたミグリオに端的に聞き返せば、どうやら本来必要のない同行をさせてくれる上、護衛料金が通常それを生業にしている人たちに出すのと同等だという。人によってはラッキーだと済ませることだが、さすがに気が引けるのだとか。あるいは聞こえては悪いから言わないけれど、何か裏があるかもと疑っているのかもしれない。

 良い話には裏がある。とはいっても、正直この人たちにそんなものがあるようには思えない。


「気にしなくて大丈夫よお」


 その気配を察したのか聞こえていたのか、頭の上から軽い声がかかる。俺の頭に頬を置いているお姉さんはうふふふと笑い安心するように言ってくる。俺の頬を撫で続けてるのはなんなのだろうか。ぞわぞわするので、ちょっとやめてほしい。


「こっちだって商人なんだから、利益度外視なんてしないわぁ。将来の王宮魔術師さんに投資と、貸しを作ろうって魂胆なんだから」

「カルカ、それは口に出すようなことじゃないぞ」

「せっかく可愛い子と旅するチャンスだしね」

「こら、フェイゼル」


 お姉さんとフェイゼルさんのフォローに俺はなるほどと納得する。将来王都で働くかもしれない相手にコネを持てるのならば、おかしな話ではないのかもしれない。恩を感じやすそうな純粋な青年なんて特に。

 ただ納得した俺に対し、ミグリオの方は簡単には納得できないようだ。それでも申し訳ないと、口に出して考え込んでいる。だって、何もなければただ同乗させてもらってお金をもらうことになるじゃないか。って、元も子もないだろう。もしかすると、こいつは相手の裏など考えていないのかもしれない。

 純粋に、心から申し訳ないと思っているのか。


「ううん。じゃあ、こっちも同乗させてくれる分の金を支払うとか?」

「いやいや、それだとおかしなことになってしまう」


 俺の提案はシトロンさんから却下が出る。そりゃそうか。護衛の名目が意味をなさなくなる。

 互いに自分の利益ではなく相手に不利益を与えない方法を考えるという、なんとも不思議な話し合い。相手は商売人なのになあと思い、ふと思いついた。


「じゃあ、私たちの持ってるものを買い取ってもらうのはどうだ? 多少値引きすればやってることは同じになるだろ?」


 どうせどこかで売るのだし。ただ譲渡するのだとまた、釣り合いが取れないというようなことになりかねないので、売買だ。そこそこ貴重なものが多いので、採算は取れるはず。

 俺の提案にミグリオは「売るのか」としばらく悩んだが、薬草などの価値を考えようやく折れてくれた。いつまでもする議論でもない。

 しかし、そこから更に問題が起こった。リュックから出した、村の周りで採取したものと、ついでに俺の持っていた南の森で採った素材を出した途端、商人の皆さんが口を揃えて言ったのだ。


「こんなもの、そんな安値で買い取れるか!」


 と。

 どうにか正規の料金で買ってもらうことに決まったのは、夜も更けた頃だった。どのくらいの価値があるのかよくわかっていない子ども相手なのだから買いたたいてもおかしくないだろうに。

 ただその後、俺が王都にしばらく滞在すると知って、今度王都に行ったときにまた買わせてほしいことと、金に困らない限りは他で売らないでほしいことを頼まれた。下手に買いたたくより良好な関係で次の供給を得た方がいい……ということだ。

 それでもお人よしの類であることに間違いはないだろうけれど。


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