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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と世界
30/72

22-2

 さてやるべきことは終わったので、恐る恐る、それこそ魔物を相手にするときよりも戦々恐々と後ろを振り返る。見たくはないが見なければならないミグリオの表情は、呆然としたものだった。

 呆然自失。自分が何を見たのかもわかっていないのではないかというような顔だ。


「ええと、ミグリオ?」


 声を掛けるとミグリオはハッとしたように瞬きをした。それさえも忘れていたことがよくわかる。頬を掻いて、なんと説明したものかと考える。

 最初は、俺は実は人よりも魔力がちょっと多くて、水と風の魔術が使えるんだと説明するつもりだった。風に関しては、一緒に旅する以上、どうせどこか生活の中で使う場面があるだろうと踏んで言うつもりだったから使ったのだ。

 ただ予想以上の脅しになってしまったため、それで通じるかわからない。


「リリア……お前はいったい、何者なんだ?」


 ぬぐぐ。一生懸命それを今、考えているところだ。痛くなる頭を押さえながら、それでもビビられては居ないようなのでセーフだ、セーフ。と自分を誤魔化した。




 結局した説明と言えば、当初考えていたもののみで、ごり押しすぎてもはや説明の体を成していなかった。

 別に嘘は吐いていない。俺は人よりちょっと魔力が多くて、二種類以上の色の魔力が使える。ちょっとというのがどの程度かとか、二種類以上がいくつかというのはさしたる問題じゃないのだから、嘘じゃない。


「俺にとってリリアは一緒に王都について来てくれて、村のことを心配して魔物退治をしてくれた恩人だ。怖がったりなんてするわけないだろ」


 それでもビビって「私のことが怖い?」と問うた俺にミグリオがそう返してくれたので、概ね予定通り事が運んだということで問題ないはずだ。


「こんな感じでさ、私は常識知らずだったり、ちょっと人の規格から外れてたりするからさ。ミグリオたちにとっては多少疑問に思うことをしてても、私にとってはそれが普通なんだ。それを何故どうしてって問われても、私がそうしたいと思ったから、以上の理由はない」


 だから、なんでなんでと聞いてくるのはやめてくれ。という思いを込めてちょっと意味ありげに微笑んで説得すると、ミグリオは少々理解するのに時間がかかったのか放心したのちに、首肯して理解してくれた。わかったと言ったのだから、今後面倒な質問はなし。

 されても回答を拒否できる権利を俺は得たわけだった。答えなんて俺も知らないことを問われても困るから、初手で釘刺しとかないと後から面倒だもんな。既に面倒だったし。

 



 その日の夜、旅に出て初めて通信魔法が入った。

 さすがに二日連続野宿は心配だと言われ、カーリャが眠ったあとに招き入れられた宿の部屋でのことだ。

 通信魔術は道具を介して行う。カロンの魔力の込められたイヤリングに声が届くのだ。それゆえにイヤリングを常時装備していないといけないのが面倒なところだが。

 初めて使うからか、夜ということを考慮してくれたのか知らないが聞こえてきた控えめな『リリア、聞こえるか』という声に、俺は気を抜いて返事をしたのだが。


『異常な魔力に気付いて様子を見てみれば、何をしとるんだこのバカ』

『ふっ、ふふふ、リリア、あなたこの凄惨なる魔女にそっくりよ』

『つか怖えよ。頼むから、お前は怖ろしい魔女にならないでくれよ』


 聞こえてきた三種類の声は、開幕かなり失礼だった。わざわざイメージして似せてやったのだから、似ていると言われるのは構わないけども。なんでセーラは声を抑えて笑っているんだろう。自分が同じことをされたら悲鳴を上げるのに。

 現に『なるほど、ではリリアと同じことをしてみせようか』と言ったカロンに、二人は揃ってビビりまくっている。


「いや、つか、なんで一緒にいるんだよ」


 元からカロン自体はあの湖に行くことは多くなかったように思うのだが。最初に俺が会った時も、久々に来たようなことを言っていたし。カゲロウは慣れと、セーラと仲良くなったことで居るとしても、そこにカロンが混ざるのには少々の違和感がある。


『そりゃ、お前がいないからだよ。可愛い弟子が居なくなって、深淵の魔女は絶不調なんだとさ』

「は……あー」


 それは、それは。

 どの反応をしても俺も怪我するような気がして、相槌はひどく下手なものになる。これは、揶揄うべきなのだろうか。しかしカロンの方から否定の声が上がらないので、揶揄しようにもタイミングがつかめない。一旦声を返してしまったから一層に。


『ふん。そんなもの、リリアの方も同じだろう』

「んなわけあるか。やりたいようにできて絶好調だわ」

『ほう? 私の真似事をするのがきみのやりたかったことだと。それはそれで構わんが、やり方は考えなさい。やりすぎると後が面倒だぞ。多分、今後百年以上その村に魔物は寄り付かない』

「え、そんなに?」


 そんなつもりはなかったのに。俺の魔力の痕跡が残りすぎているのと、「この村に何かあったら~」と言ったがゆえに、あのイノシシ以外のどの魔物も村に手出しができなくなったと教えられれば、やりすぎたと後悔する。いや、村が完全なる安全圏になったと思えば、それはそれで。

 しかし、何のつもりで通信してきたのかと思いきや、その後いくつかされた話もだいたいお小言だった。師匠らしいというべきか、姑のようだというべきか迷うところである。後者は言ってもわからないと思うので、どちらも言わないけども。


『では。節度を守って好き放題するように』


 最終的に矛盾した締めくくりをしたカロンは、そのまま勝手に通信を切った。小言のために連絡を入れてきたのか、こいつ。最初に行っていたように、俺がやりすぎた様子が気になっただけだったのかもしれないが。

 しかし、話すことがあったら聞こうと思っていたこちらからの質問は、一切聞けなかった。わざわざこちらから連絡するのも腹立たしいので、次回でいいけれど、もう少し何か普通の話をしてもよかったのではないだろうか。セーラとカゲロウが居たから気恥ずかしかったとか? さすがに、そんな殊勝なタマではないか。

 耳元で聞こえていた声がなくなると、室内が静まり返る。喧しい声がなくなって落ち着いて眠れるはずなのに、どうにも落ち着かない。

 しかし、ミグリオと違ってこうして出先でも何かあれば簡単に連絡できるし、一歩で帰れるのは楽なところだ。今、村ではミグリオの出発を祝う村人たちがまた宴会を催そうとしているが、簡単には戻れないが故だろう。

 母親の心配も、それが理由だ。少しでも解消してやれたのならばいいけれど。あの紙を渡したときミグリオの様子は見ていたが、母親の顔を見るのを忘れていたことを思いだす。


「あー、そっか……」


 なぜ俺が不調を感じていたのか。なんで異常にミグリオの周りの事情に手出しをしていたか。ミグリオに問われた何故への答えが不意に見つかってしまって、ベッドの上で身もだえる。

 多分、ミグリオの旅立ちの感傷に自分を重ねて憂鬱になっていただけなのだ。

 そう気づいて俺は、頭を抱えて布団にうずくまった。


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