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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と魔女
22/72

16

「へえ、これがその本ってわけ?」


 あの後、結局俺が迎えに行くまで本屋を物色していて、かつ俺が戻ったあとも全力で引きはがすまでその場を動かなかったオッサンを連れて本来の目的を果たし、俺たちは魔法で簡単に帰ってきた。

 市場ではオッサンも食べられる野菜や果物をメインに、豚っぽい肉や牛っぽい肉なども買いためた。いろんな土地のものが揃っているので、結構知らないものが多くテンションが上がったのはオッサンだけでなく俺もだ。

 少し複雑な気分になったのは、どんな売り物よりも普段俺が食べているものの方が市場に出ている数が少なく高値で売られていたのを見たときだった。

 そんな土産話と、本屋で手に入れた土産を持って人魚の元へ来たわけだが。


「説明書きがおかしなのはともかく。何、この想像図は」


 人魚に人魚のページを見せると、あからさまに不満そうな声が返ってきた。想像図といっても、多分実際に人魚を見た人間が描いたのだと思われる絵は、一見して人魚とわかるイラストなのだが。

 セーラの感性には合わなかったのだろうか。首を傾げていれば、セーラの細い指が人魚の足……ヒレの位置に向けられる。


「こんなところで体をこの角度まで曲げたら折れるじゃない」

「……あー、ね」


 膝関節らしきものがあるのが気に入らないらしかった。

 言われればわからんでもない。人間だって、姿絵を描かれるときに不自然なところがあれば気になりもする。足が一本多かったり、それこそ指の関節が一つ多くても違和感を覚えるだろう。

 人間から見れば不自然なくとも、半分魚の人魚本人が見れば気になってしまうと言われれば、そうかと返さざるをえない。どうでもいいだろと言いたい気持ちは山々あるが。


「俺は載ってねーの?」

「残念ながらな」


 影の魔法を使う魔物は名前さえもない存在だ。人の目に触れないところに在るがゆえ、この本にも載ってはいないのだろう。わかっていたことだからか気落ちはせず、けれどやはり少々不満げな様子でカゲロウはふうんと相槌だけ返して来た。


「まあ、魔女も載ってなかったからな」

「そうなのか?」


 そう。意外なことに魔女という魔物は、魔物図鑑には載っていなかった。俺のいた世界と同じように、人間は人間の魔術師の女を魔女というのか、純粋に人目に触れていないから知られていないのか。考えられる理由はいくつかあるが、真相は不明だ。

 オッサン曰く「この世界には私以外魔女が居ないのかもしれんな」とのことだが、それはさすがに自分を特別視しすぎだと思う。


「この区域の最深部にしか住めないような魔物だもの。仕方ないんじゃない?」

「だよな」


 やっぱりそれが一番有力な説か。確かめるすべはないので、それでよしとする。

 さてと立ち上がると、それが休憩終了の合図だ。今日はカゲロウが居るので戦闘訓練の日である。

 もはや慣れた魔力による盾を展開させる。カゲロウと戦うときは、基本体に沿う形の盾だ。湖の底に居る、セーラの友人の魔物と戦うときはシャボンの場合もある。飛び道具系の魔法を使う魔物にはこっちの方が有効だからな。

 変則的肉弾戦をするカゲロウは、そろそろ日が落ち始め暗くなってきた森の影を使う。この時間からが影の魔物の無敵タイムだ。

 伸びてくる影の手をかいくぐりながら、魔術を使って攻撃する。あちらが肉弾戦でもこちらが同じようにする必要はない。水球が影の手ではじき消され、火球がその隙をかいくぐりカゲロウ本体へ攻撃する。


「そういえば、魔女はどうしたんだ? そろそろ迎えに来る頃かと思ったんだが」

「知るかあんな無節操趣味ジジイ」


 戦闘中かけられた雑談に、少し心乱されながら汚い言葉を返してしまうのは、あの魔女が帰ってから、はじめからそのつもりだったように服を作り始めたからだった。既製品を俺の今の体に合わせて直された、ドレスと言って過言でない可愛らしい女の子の服を参考に、魔女は裁縫を始めた。

 そうして一晩でできあがったフリルのあしらわれた……というかフリルメインの服は言うまでもなく俺のサイズで、俺の服だった。前衛的なデザインですね。と思わず敬語になったほどだ。

 スカートで居るのにもはや抵抗はないけれど、それで着飾るとなると話は別だ。俺は女子らしくしたいわけではない。

 そう主張すれば「そうか」と言ってオッサンは次の服作りに取り掛かっていった。元からクロスを作ったり、裁縫系の趣味は持っていたようだが、ここに来て服作りにハマったらしい。完璧な容姿のマネキンもいることだしとは実際に言われたことだ。

 そんな無節操多趣味魔女オッサンの事情を説明すると、二人はひどく同情したような目で俺を憐れんでくれたのだった。


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