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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と魔女
19/72

13-2

 嫌々ながら女ものの服を注文して店を出て、今度は俺の気になる店に向かうことになった。といっても何があるのかなんてわからない。というわけでオッサンにいくつか候補を挙げてもらい、武器屋に行く。

 なんでそんなものが民間人に必要なのかと問えば、魔物が人里に出るため、自己防衛の必要があるのだと教えられた。日本ではあまり考えられないなと思ったが、イノシシやクマのことを考えるとそうでもないような気もしてくる。王都のような都会でも警察が出て来るではなく、自分たちで倒すというのは違和感があるが。

 ただ男の子なのでやっぱり興味があるのだ。オッサンに連れられて武器屋に行くと、中には斧や短剣などが置いてある。猟銃っぽいものもあった。剣や、俺の思うファンタジーっぽい武器がないのは残念だ。リオンの持っていたような剣もないので、あれは特注品か何かなのかもしれない。


「こういう武器はきみの体には合わんだろう」

「うーん」


 言われなくてもわかってはいる。身体能力も神様仕様で上がっているみたいだが、わざわざ重たいものを持って動きを制限する必要はない。素早さや敏捷なんかは上がっていても筋力はそこまで過剰に上がっているわけではないようだし。

 店員のオジサンの、冷やかしなら帰れという目がきついのもある。仕方なく、この場はさっさと出ていくことになった。せっかく好きに見ていいのに、満足いく店ではなかったのが残念だ。

 好きなものを買ってやる、と言われたので見る店をひとつと制限されたわけではないはずだ。気を取り直して他に面白そうなところはないかとオッサンに向く。情報源がひとつしかないのも問題なところだろうけれど。


「きみに合う武具ならば、魔術具の方がいいんじゃないかね」


 考えるそぶりを見せたオッサンは提案する。といっても俺にはわかる。純粋に自分が見たいだけだ、こいつは。わざとらしい考えるポーズに呆れた目を向ければ居心地悪そうに咳払いされたのがいい証拠である。

 まあ、反対する理由もないし、女ものの服よりは興味もある。おとなしく一緒に行くことにした。


「そういう店こそ、一人のときに行けばいいんじゃないの?」

「下手な魔術具に触って正体がばれても面倒だろう。私に流れる魔力は人間のそれとは違うのだから」


 万が一にでもあの砂がこぼれたらと考えると、確かに色は変でも人間と同じ魔力を持つ俺を伴って行った方がいいのはわかる。だとすると、はじめから魔術具の店はコースに含まれていたんじゃないかと疑ってしまうが、そうだったとして構わないので、深くはつっこまない。

 魔術具の店は、表向き他の店と変わらない雰囲気だった。雑貨屋に近い風に見えるが、時々短剣なんかも置いてある。腕輪やイヤリングなど身に着けるものが多いけれど、巻物や本も置いてある。

オッサンは興味深そうにしながらも、自らの手で触ることはせずたまに俺に声をかけては道具を見て行った。

 ひとつ、目についた赤い数珠のような腕輪を手に取る。中にもやがかかったようになっているが、触れると同時にその靄が淡く輝いた。


「それは、自然魔術のうちの炎の魔力を増幅する腕輪です」


 同時に店員が寄ってくる。営業スマイルは控えめだが、微笑んで「自然魔術の魔力を持つ方は珍しいですね」と営業トークを繰り出してくるところから、接客業者らしさを感じる。

 いかがですか? と問われオッサンを見上げると、ふんと鼻で笑われた。


「その程度のものではきみの役に立たんよ。あってもなくても変わらん」


 そしてその言いざまに、店員の控えめな営業スマイルがひくりと引きつったのが視界の端に映った。歯に衣着せることを知らないというか、普通に失礼だ。感じの悪い客になりたくはなくて、急いでオッサンを追い出そうとするもひらりと躱される。物理的に押し出そうとしたのでうっかりこけそうになった。


「増幅の系統の魔術具はきみには要らんだろうが、これは使えそうだぞ」

「あ?」

「紙に魔法陣が組み込まれている。これに文字を書けば同じ陣を持った紙に書いた文字が浮かび上がる仕組みのようだな」


 当人は避けるつもりはなかったようで、見つけた魔術具を手に取り少し早口で説明してくる。手元を除けば、片面に魔法陣の書かれた紙が二枚。一見してそれを見抜くのをすごいと思うべきか、自分に興味のあるもの以外にももっと関心を向けろと怒るべきか。

 魔女に人間の気持ちを推し量れといっても仕方ないので、オッサンからそれを受け取る。便利そうなのは本当だ。俺とオッサンの間では必要ないが、たとえばリオンに片方渡しておけば、来る時期がわかっていい。メールみたいなものだから、元現代日本人の俺にとっては知っている便利だ。

 店員に謝罪の意味も込めて買いたい旨を伝えると、営業スマイルを回復させて値段を伝えて来る。五百ゼルと言われたが俺にはここの通貨がわからないのでオッサン任せだ。

 革袋からきれいな白のコインを取り出して渡したオッサンに店員さんが目を剥いていたので、結構な値段なんだと思う。

 店から出てご機嫌な魔女に聞く。


「ねえ、どんだけ金あんの?」

「……いつもきみにお使いを頼む薬草があるだろう」

「うん」

「あれが十二グラムあれば今の魔術具が変える」


 つまり、魔力を目に見えるようにする薬草約十グラムが、この国の人たちが目を瞠る値段になると。

 人の入れないところにあるものだからなのかもしれないが、下手に売りさばいては問題があるんじゃないか? 自宅がその人の入れない場所にある限りは、俺たちに被害はないとしても。




 その後は、本屋に行ったり他の魔術具の店を見たりした。

 本屋は前の生のときでいえば、チェーンではない、爺さんが番をしていそうな古本屋のような佇まいだった。多分写本でできたのであろう本や、ハンコで押したようなカタカタした文字の並んだ本。手書きのものがそのままコピーされたような本が並んでいる。あとは巻物か。並んでいる数はそう多くない。

 その中に魔物の図鑑のようなものがあった。許可を取って、店員が目を光らせる中開くと様々な種類の魔物が乗っている。図解されているが写真ではなく絵だ。知っている魔物もいくつか乗っている。


「あ。オッ……あー、なあ、見て」

「ん?」


 オッサンと呼んではいけないことを思いだして袖を引いて声を掛ける。他の本を見ていたオッサンはこちらに目を向ける。俺が指さしたのは、図鑑のひとページにある、人魚のページだった。


「ほう。あれが載るような書物があるのか」

「目撃されてるのは海水人魚の方だけみたいだけどな」


 海に生息されるという上半身が人で下半身が魚の魔物と説明にはあるので、淡水人魚の方は知られていないと思われる。セーラ以外に淡水人魚がどれだけいるのかは知らないが。

 俺が初めて自ら興味を持ったものだからか、オッサンは何も言わずにその本を手に取って店主に持っていき、あとから金を払うと言って渡した。その後は自分の土産選びに夢中で、高い本をいくつも買っていく客と見るか、不躾に立ち読みで本を選んでいる輩と見るか店主が悩んでいるのを横目に一旦外に出た。埃っぽくてかなわなかったのである。いつもは空気のきれいな森の中に居るからいっそうだ。

 通りを眺めていれば人の流れも見える。先ほどの服飾系の店の通りから外れて、このあたりは多分魔術とか学問とかのエリアなんだろう。数少ないが本屋や、魔術具の店、薬草の店が並んでいる。同じ系統の店と店の距離を離した方がいいんじゃないかと思うが、デパートでも服の店やレストランは近くにまとまってたりするので、なんともいえない。知識としてないので、以前の俺は経営関係には手を出していなかったのだろう。

 そういえば、腹は減らないので気付かなかったが、多分今は昼時だ。太陽が真上にある。真上から太陽を浴びる機会も少ないので感動しつつ、どうしたものかと考える。別に食べなければそれで構わないが、せっかくならばレストランで料理人の作った食事が食べたいと言う気持ちもある。

 オッサンを説得するのは、赤子の手をひねるよりも簡単だ。なにせ俺よりも食に興味を持っているのだ。食べられないくせに。

 見回すと、何軒か先の斜向かいに食事処の看板があった。外から見てどんなものがあるかわかるだろうかと、様子見がてら向かう。少しくらいなら離れても大丈夫だろう。最悪、魔力感知して魔法でオッサンの元へ向かうことも、逆もできるのだから。

 この距離で迷子にならんだろう、とはフラグになりそうなので考えないことにする。だからって迷子対策を考えるのも妙な話だが。要はオッサンが現実に戻るまでに戻ればいいのだから、容易いミッションである。

 その安易な考えがフラグだと、早々に気付くべきだったのだろうが。


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