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ぼくらのままならない世界  作者: いない
少年と魔女
17/72

12

「人間の村に行こう」


 オッサンが突然そんなことを言いだしたのは、何度目かになるリオンとの再会の後だった。既にリオンに会って半年以上は過ぎている。俺は一歳半とちょっとであり、オッサンと出会って二年近くが過ぎていた。

 そんな二年近くの付き合いを経た俺は、思わぬ提案に返答した。


「え、人間食うの?」

「馬鹿者。ヒトを怪物扱いするな、生憎食事ならば十二分と言っても足らぬくらいに間に合っている」


 その食事に対して言うセリフだろうか、それは。

 冗談だというのに心外だと顔にわかりやすく書いて抗議を示す五百才くらいのオッサンに、はいはいと適当に返して読みかけていた本を置く。ベッドの上だったので、そのまま飛び降りて床に着地した。降り立つ瞬間にだけ浮く魔法を使えば、怪我することも足がしびれることもない。


「以前、人間の村に食料を買いに行く提案をしたことがあったろう? このあたりでとれるものはあらかた食べただろうし、きみの食を開拓してやろうというのだ」

「それ、あんたが人間の食べ物に興味があるだけじゃねえの? というか、金がないから人間のところには行けないんじゃなかったっけ?」


 だから初めから山や森で食べ物を取っていたはずなんだが。

 さすがにオッサンも年だからといって自分の言ったことを忘れたわけではないようで「その点ならば問題ない」と懐から革袋を取り出した。じゃらりと重みを感じるそれが財布であるとはすぐにわかったことだ。


「何それ、金?」

「そうだ」

「強盗でもしたのか?」

「一年やそこらで随分と口が達者になったものじゃあないか、クソガキ」


 頬を抓る大人げないオッサンを睨んで離せと示す。だって、そう思うのも仕方ないことだろう。金を持っていなければ稼ぐか奪うかだ。この魔女に人間と同じ方法で金を稼ぐなどできるとは思えない。ならば必然的に、奪うしかないだろう。

 とはいえ実際には、この魔女が強盗などという恥もプライドもないようなことをするとは思えないので、冗談だったわけだが。


「このあたりの素材は貴重だという話を持ってきたのはきみだろう。素材を売って金に換えてきたのだよ」

「はあー。なるほど」


 それは、思いつかなかった。金の使い方でいえばきっと魔女のオッサンよりも俺の方が知っているはずなのに、稼ぐか奪うしか得る方法がないと思っていたのは失態だ。リオンの話を聞いて、売れば金になると察して適当な素材を人間の村に持って行って売ってきた。そのため金が入ったということらしい。


「って、ちょっと待て。換金に行くなら私も連れてこうぜ。なんで一人で行ってんの?」


 すでに金が手元にあるということは、一人で行ってきたということだ。わざわざ一人で行かずとも、一緒に行ってその足で食べ物を買って帰ればよかったんじゃないか? 基本は一緒にいるのだから。逆に考えると、わざと一人で行ったということか。


「もう何百年、人里になど下りていないと思っている。どのような場所かもわからないのに、きみを連れて行けるか」


 過保護っぷりに、頭を抱える。リオンのような人間がこの森にまで入ってきているのだし、聞くに今はリオンの国は戦争などしていないそうなので、安全なはずだ。それもすべて話しているのにも関わらず、この魔物は先に一人で様子を見に行ったというのだ。


「んで? その視察の結果、私が行っても大丈夫だってことになったのかよ」

「ああ。格好はこちらに生まれ落ちた時の服装で問題ない。あとは常識だが、湖の彼に言っているように田舎から出てきたとでも誤魔化せばさほど困らんだろう」

「あー、なるほど」


 物理的にではなく、人間に不信感を与えないかどうかという面で視察に行ったのか。言われてみれば、物理的な脅威なら魔術や魔法でどうにかなるわけだしな。早とちりをしてしまった。口に出さなくてよかった。

 ただ、正しい意味で受け取っても過保護だという考えは変わらないけれど。俺がどんな無体を働くと思っているんだ。二歳未満とはいえ大人だぞ。


「問題は顔立ちだが」

「顔?」


 難しい顔をするオッサンに首を傾げる。顔に何か問題があるというのか。人間離れした絶世の美女だというのに。


「それが問題なのだ。人間離れしているとは、つまり人間から浮くということだろう」


 だから私も顔を変えるのだと、造りは同じなのにあまり人間っぽさを感じない顔面のオッサンは言う。どこが違うのかはわからないが、魔物の顔は人間と違うように感じる。

 同じく俺の顔も先述の通り人間らしくない。ただ、そのへんは大丈夫だと思う。


「リオンに何か言われたことがあるわけでもないし、大丈夫じゃない?」


 お前人間じゃないだろうと突っ込まれたこともなければ、それ以前に初めから人間認定されていた。だから、人前に出されても、そう大事に騒ぎ立てられることもないと思う。と、見通しの甘いことを言えば「馬鹿かきみは」と辛らつに返された。


「それは、きみとその者が会話をしたからだ。話していればアホな小僧に見えても、黙っていると置物に見える自覚はあるのだろう? その他大勢から見てどう感じるかが問題なのだよ」

「面倒くさいなあ」


 考えることがみみっちいというか、人間みたいだ。魔女なんだからそんなに細かいことを気にしなくてもいいと思うのだが、このオッサンはいやに人目を気にする。


「じゃあどうすんの? 変身でもする?」

「いや、きみの魔力操作を考えると途中でぼろが出た時に困るということもあるし」

「どうしたいんだよ……」


 勝手に一人悩むオッサンに飽きてきて、ベッドに戻る。風呂も入ったし寝る準備は万端だったのだ。

ベッドに魔力を補充して、明日の朝までに決めといてくれとだけ告げて眠る。ドーム状のベッドなので、明かりを消さなくてもある程度暗くなるのがこのベッドのいいところだ。

 しかし次の朝、しばらく保留にすると告げられた。なんでも決めきれなかったそうで。

 実際に人間の住むところに向かうのが半年近く先になったのには、ため息しかでなかった。


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