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リオンと再会したのは、それから一か月くらい経った後のことだった。
「また会えて嬉しいよ。きみに会うために来たところもあるから、あまり運命的ではないんだけれどね」
とは会った直後の挨拶での言葉である。相変わらず金髪のきれいなイケメンは、再度会えたことを喜び自己紹介した。リオンという名前であることを。
そして今日は研究素材探しがてら俺に会うためにきたことを説明してくれた。後者の方が本命であるかのような言い方はやめてほしい。
俺が男だって言ってもいいが、性別のないものさえ居るような、存在が規格外の魔物と違って人間のリオンには理解できないかもしれない。なので、中身は男であることは伝えていない。
ひとつバレると余計なことまでしゃべってしまいそうな気がするのも、黙っている理由のひとつだ。信用できないのは俺の口の堅さである。
次などないかもしれないと思っていた再会は思ったよりも早くに実現してしまい、さっさと名前を決めておいてよかったと安堵した。これで考えていなかったら、即席の名前になっていた。
「リリアレイン」
さあ名前を教えてくれと言ったリオンに、師匠で魔女であるオッサンにもらった名前を告げると、彼は呟いて考えるそぶりを見せる。なんだと聞けば、名前で出身地を探っていたのだと。
彼は俺には両親がなく、保護者の元このあたりで生まれ育ったと思っているので、実の親の手掛かりを探ろうとしてくれているのだろう。誤解は俺が意図的に与えたものなので、真剣になられると胸が痛い。
「そんなに美しい色の髪は初めて見るけれど、わが国では西方のシャロンという地方の人に近いように思う。ただ、シャロンの人間はあまり長い名前を付けない。きみのように長い名を持つのは北方のセグルスの者に多いが、あのあたりの者はほとんどが葉の色の髪をしているんだ」
「はあ」
「オースグラットではなく、シュシュアールやバスアトの生まれなのかもしれないな」
「はあ」
同じ国なのに地方によって名前の付け方や髪や目の色が違うのか。変わっていると思うのは日本人ゆえだろうか。
後から出てきたのは別の国の名前だと思うけれど、名前と色の関係の方が気になったのでさらに聞けば、東の地方の人は名前は比較的長めで青っぽい髪色、南の方の人は名前は短めで赤っぽい髪色が多いらしい。正確には水の色の髪と花の色の髪と言われた。水はわかるが花にはいろいろあるだろうとつっこめば、このあたりでは花とだけいえば花の森の聖なる大樹に咲く花を言うのだと教えられた。
「こんなところに居るから、あんま常識とかわからないんだ。呆れないでくれ」
俺はそんな風に誤魔化した。というか南の森に聖なる木なんてのがあるなんて知らなかった。帰ってオッサンに聞いてみなければ。
「呆れることなどないさ。きみに知らないことがあるから、私のような者の話を楽しそうに聞いてくれるのだから」
「私のような者って……そういう自虐はよくないと思うぞ」
自虐系イケメンなんて、庇護欲の強いお姉さまあたりに人気の出そうなタイプじゃないか。アイドルのキャラクター付けのようで面白くないからと顔を歪めて言ったのが悪かったのだろう、謝られた。俺に謝られても。
前と同じように他愛のない話を湖の傍に座ってする。ずっと地べたに座っているのでベンチが欲しいところだ。オッサンに頼んでみるべきだろうか。
リオンの話は、あちらにはなんでもない話でも俺からすると面白い。兄貴が研究材料を集めるために家を抜け出して困っているだとか、その材料で作った魔術具の話だとかがメインだが。
オースグラットには大都市が東西南北に一つずつと、それに付属するいくつかの小都市、町村があり、真ん中が王都なのだという。
王政の国なんて実際にはイメージがつかない。リオンは王都に住んでいるらしい。想定通りいいところのお坊ちゃんなんだろう。遠くから大変だなと驚くと、照れたように苦笑された。
「兄は今、王都から地方へ物を届ける簡易な魔術式の研究をしているんだ。タルテロンという魔物が居れば魔法陣ができるのだが、希少な魔物でね。このあたりならばいるかもしれないと思ったんだが、見たことはないんだ」
「へえ」
魔術式と魔法陣は、魔術式は人間の作った式で魔法陣には魔物の魔法が組み込まれているということだけ知っている。いまいち違いがわからなかったが、俺には必要がないので詳しくは聞いていない。
その異なる方法を試そうとしている研究者の兄。王都に居るというのだから、もしかしたらお城で働いていたりするんだろうか。オッサンの話に時々出て来るすごい魔術師というやつなのかも。
「あ、すまない。こんな話ばかりつまらないかな」
「前も言ったけど、面白いぞ? それで、タルテロンってどんな魔物なんだ?」
俺の反応が悪かったせいもあるかもしれないが、自己評価が低いというか、リオンは少々卑屈なところがあるように思う。
問えばすべるように説明が出て来る。教えるのは得意なんだろう。
「水中に居るとされる細長い魔物で、首の周りに布のように薄い輪があるんだ」
自分の首の回りで手をひらひらと動かしながら伝えようとしてくるリオン。それでこの水辺に居るのかと理解ができたが、それはそれとして。俺はその魔物を知っている。
この湖の底の方に住んでいる魔物だ。水中の魔力とは別に酸素も必要とする魔物らしく、その首のヒラヒラを通して外界の酸素を取り入れる魔法が使える魔物だとは人魚……セーラに聞いたことだ。その転送を魔術に応用しようということか。
教えてやってもいいが、湖の底にこいつを連れて行くわけにもいかないし、何より魔法陣に魔物をどうやって使用するかわからないのが問題だ。魚を食べるのは許容されるとして、研究のための捕獲をセーラが許容できるかどうか。
誰かさんのせいで、友達のようになれても残忍な魔女のイメージは拭い去れていないから、へたなことはしたくない。
「魔物って、魔法陣にはどうやって使うんだ?」
「陣を書く時の材料に、その首の輪を砕いたものを使うと一節分式を省略できるんだ。魔法陣の式は複雑化するほど扱いにくいとされるから……」
いろいろと説明をしてくれるが、俺の欲しかった説明は前半で終わっていた。あの首のヒラヒラは砕かれるらしい。砕くと言ったが墨代わりにされるならすりつぶされるんじゃないだろうか。
一応隠しておこう。湖の魚を獲って食べている時点で矛盾した行動かもしれないが。それに、水底まで行く方法の話になると余計なことがばれるからな。
仮にも人間として友達になったんだ。化け物であることを晒して離れる理由もない。
その後も人の世のことについて教え続けてくれたリオンは、前回よりも早い時間に帰って行った。さすがに前回怒られたりしたのかとも思ったが、後日違うことに気付く。
早く帰る分頻度が増えた再会に、なかなか計算高い男だと思ったのは四度目の再会のときだった。




