2-1 取り立て屋クスエド
カッランコッロン!
「ガハハ、これが白鷹の家か!ちっぽけだな!」
ドアを乱暴に開け、開口一番失礼なことをいう輩が入店してきた。
「い、いらっしゃいませ。」
流石のストゥーリも驚いたようだった。
「おう、白鷹の嬢ちゃん!元気にしておったか。」
「あ、クスエドさん、こんにちは。お蔭様で私もお師匠様も元気です。先日はどうもありがとうございました。」
「いや、礼をしなきゃあならんのはこちらの方だ。迷惑をかけたな。ところで白鷹いるか。」
大男はキョロキョロあたりを見回した。あのようなでか物にこうウロウロされては商売上がったりだ。そら見ろ、店先まで来た女がこの男の姿を見るやいなや、恐怖のために飛んで帰ってしまったではないか。仕方ない。居留守作戦から追い出し作戦に変更しよう。
「何の用だ、クスエド。」
私は裏から顔を出し、精一杯睨みながら言った。
「よぉ、白鷹!」
「帰れ。」
「おいおい、そいつはねぇだろ!」
この様な騒々しい奴、静寂なる丘の上の薬屋に不要である。我が力で消し去ってやろうか。私達が(主にクスエドが)ぎゃあぎゃあ騒いでいると、ストゥーリが
「それでクスエドさん、どのようなご用件ですか。」
と眼前の大男に問うた。
「ああ、そうだった。いやぁ、先日の事件について謝罪しようと思ってな。」
「あ、はい、分かりました。お出口はあちらです。」
「だーから、何故追い出しに掛かる!話はまだ終わっておらん。」
そういってクスエドは懐から徐に書簡を取り出し私に手渡した。
「何々、請求書?騎士団ラビオ支部が入る建物の修復代金・・・・・・100万ウルム!?」
ウルムとはこの王国内で流通する通貨の単位である。パン1斤が約15ウルムなので、100万というのがいかに高額かおわかりいただけるだろう。
「お前、支部の建物を爆破したろう。その賠償だ。」
クスエドはずいっと顔を私に近付けてにやりと笑った。
「さあ、今すぐ払え。」
まずい。私は500年生きているといえども、そのような大金は持ち合わせていない。あるとすぐに使ってしまうタチなのだ。背中をいやに冷たい汗が伝い流れた。
「・・・サア、ナンノコトダカ。ナァ、ストゥーリ?」
・・・!ソウダヨ、ワタシハソンナコトシテイナイノダ!!
「お師匠様、嘘は良くありませんよ。」
愛弟子は何とか逃げ切ろうと見苦しく藻掻いている私を冷たくあしらった。
「おい!?私を裏切るのか!師を売るのかぁ!『今日着る服は何にしようかしら』なぞ迷っているお前の歳なら吐いて良い嘘程度の見分けは付くだろう?」
「お師匠様、私は純真無垢な乙女なのです。穢れた心は持ち合わせておりません。」
そう言って弟子はぷいっと横を向いた。くそ、非情な奴め。
「ガハハハ。だそうだ、白鷹。もう逃げ道はねぇな。」
両手をわきわきとさせながら、取り立て屋はじりじりと私に詰め寄った。うぬぬ、どうする、どうする私!
「と、ここでお得情報。今、騎士団に協力すると宣言すれば、この請求書は無効になるぞ!」
「な、何をさせられるのだ。蟹工船に1年間監禁されるのか。」
「さあ、何だろうなぁ?で、どうするね。」
請求書通りの金額を支払い、永遠に抜け出すことのできない借金地獄に落ちるか、それとも耳寄りではあるが怪しい取引に応じるか・・・。人生最大の二択を突きつけられた私は悶えに悶えることになった。