1-7 名探偵トーガレス君
「宝をお返しします。」
「うむ・・・。全部あるようだな。いや、君のお蔭で上手く事が運べたよ。」
デヴェス邸の座敷で2人は密会をしていた。
デヴェスは戻ってきた価値のある品々を撫でながら満足そうに言った。
「ありがとうございます。デヴェスさん、それでですね・・・」
「ああ、ちゃんと掛け合って置いたさ。ペシスは地域住民のために尽くす心の優しい人間。彼は支部長の器だ。とね。」
「恩に着ます。」
「そういえば、今日は予期せぬお客が訪れた様だね。」
「はい、しかし、あの鉄扉の前で仕留めました。明日私がきっちりおもてなしいたします。」
「流石の手際の良さだな。」
「いえいえ。それ程でもありません。」
二人は酒瓶をカチンと合わせて笑いあった。
「そこまでだ!」
私は二人の緊張が途切れたところを見計らい、引き戸を思い切り開け放った。想定外の来客に驚いたのだろう。デヴェスは椅子から転げ落ち、ペシスは酒瓶を握り潰してしまった。
「悪さが過ぎるようだな。」
私の後ろからクスエドが怒りの形相で現れた。彼は床に転がっているデヴェスを睨んだ。彼はひゃっと情けない声にもならないものを発しただけだった。
「こ、こ、これは第一連隊長殿。どうされましたか。私は何もしていませんよ。ええ、決して!」
「嘘を吐くな、支部長。お前、保険金詐欺に加担したろう?」
私はペシスを睨みながら言った。彼はびくっと体を震わせた。
「支部長、お前は民に対してえらく横柄に振る舞っていた。時には暴力も振るった。その素行不良が騎士団本部に露呈してしまい、お前は罷免されかけていた。対してデヴェス。お前は最近商売が傾いたお蔭で借金が膨らみ、財産のほとんどが差し押さえられる危機に直面していたな。」
私は一息ついてから話を続けた。
「ある時どちらかが、きっとデヴェスがペシスの危機を知った。それで、ペシスにこう持ちかけたのだろう?『お互いにうまい話がある。』とね。その話とは、ペシスがデヴェスの計略に協力する見返りとしてデヴェスが騎士団本部にペシスが続投されるように口添えする、という具合だろう?」
デヴェスは脂汗をだらだらと流し始めた。
「デヴェスの財宝を泥棒に扮したペシスが一時的に攫う。そして、翌朝デヴェスは騎士団に通報する。ペシスの息がかかった彼らに調査させ、財宝が失われたと認めさせる。そうすれば盗難が公認され保険会社から莫大な保険が下りる。この計画は上手くいくはずだったが2つだけ誤算があった。1つ目は大袋を持ったペシスが目撃された上、通報されてしまったことだ。ただ、盗人がペシスであったことは知られなかったし、やってきた騎士団員はペシスの息が掛かっていたので大事には至らなかった。次に2つ目だが、これがまずかった。ペシスが宝を持ち逃げするところをデヴェスの一人娘に見られてしまったのだ。彼女は正義感が強い子供だ。真相がばれると言いふらすに違いない。それを恐れたお前等はことの全てが終わるまで彼女を例の地下室に監禁しようとした。違うかね、お二人さん。」
私は自身の推理を披露した。どうやら大筋合っていたらしい。ペシスは明らかに狼狽していた。
「いや、私はただ、ただ、この男に唆されただけでして・・・」
「黙れ!お前達の悪行は全てお見通しだ。このまま王都まで引きずって行ってやる!」
ペシスは精一杯の弁解をしようとしたものの、怒れる獅子は聞く耳を持たなかった。
二人は後から入ってきた隊員によって連れて行かれた。ペシスは往生際悪く「俺は何もしていない!」と言い張っていたが、クスエドに、「取り調べの時にじっくり聞いてやる。」とけんもほろろに撥ね付けられていた。
デヴェスの娘はじめじめとした地下室から無事救出された。幾らか衰弱していた様だったが、命に別状はなかった。私が治癒魔法を掛けてやると平生の元気を取り戻してくれた。これで、私の任務は終了した。後始末はクスエドに託し、私とストゥーリは帰途に就いた。もう零時を廻っている。早く床に就かなければ明日の朝、だらだらとしてしまうだろうし何より美容に悪い。イマドキの魔法使いはスキンケアを怠らないのだ。
その後の顛末をお伝えしよう。2人は裁判に掛けられどちらも有罪とされ、支部長は騎士団本部が早急に無難な人物に差し替えた。私とストゥーリは村から表彰を受けた。村長は礼金を支払おうとしたが、私は固辞した。私はあくまでも薬屋の店主。「何でも屋」はただのボランティア活動である。私を窮地に陥れたあの国宝は国の臓物庫からいつの間にか行方不明になっていたことが発覚し秘密裏に捜索されていたらしい。クスエドが責任持って返却し、紛失騒動は一件落着した。最後に例の娘について。彼女は村で引き取るなり、孤児院に引き取ってもらうなり、最悪私が引き取るという選択肢があったが、結局は王都に住む親族と一緒になった。
神よ、彼女に多福を。私は切にそう願う。
第1話はこれで終わりです。