1-5 過信の末の大脱走
魔法石。それは魔法使いや魔族が使用する魔妖術を無効化する石である。天然物も存在するが威力が弱いため、現在では専ら人工石が使用される。人工石は製錬技術により強さが異なり、無論、材質や技術が高い程威力を発揮し耐久力がある。それを使われると、いくら私とていくらか魔力が落ちる。が、そこらの魔術師より実力は上。高級な石でも何のその、甚大な力を発揮できる。しかし、世の中にはどのような力でも無効化してしまう最強の石もある。クリノア王国国宝、レイシュム・ストーンがそのひとつである。
「な、なぜ、それをお前が」
持っている、と言おうとしたが、その前に、私はがっくりと膝をついてしまった。ストゥーリは先程まで自信満々だった師匠が屈したという事実が飲み込めていないようだった。
「これはこれは、白の魔術師、トーガレス様ではありませんか。」
ペシスは私の姿を見てもあまり驚かなかった。
「いくら偉人といえども、あなたが犯した身分詐称に不法侵入という罪からは逃れられませんねぇ。逮捕しなければなりません。」
ペシスが右手を上げると、彼の後ろからわらわらと騎士団員、おそらく彼の部下が現れ、ぐったりしている私と呆然としている弟子を拘束し、支部まで連行した。
「ではお二方、今夜はここでお休みください。では、私はデヴェスさんのお宅にお邪魔してきますね。それからお話しましょうか。私が出ている間、精々反省していることです。」
そう言ってペシスは私達を牢に放り込んだ。ペシスはあの憎々しい魔法石を牢番に預け、鼻歌を歌いながら出て行った。残された私は心の内で思いを巡らせた。
(この私を汚らしい小部屋に置いておくだと?何たる屈辱!しかも、横で愛弟子に『だからあの時逃げよう、って言ったのに。』と小言を言われる始末。確かに、あの時の自惚れさえなければ、今の状況に陥ることはなかった。)
私は、ペシスに、そして自分に怒った。
私は頭を抱えた。この間だと、1日やそこらで返してくれるはずがない。きっと裁判に掛けられ有罪、私の社会的地位は完全に落ちるだろう。奴は私が落ちぶれていくのを一生の酒の肴とするのだ。腹立たしい!いっその事、帰って来たペシスを殴り飛ばして逃げようか。いや、それをすると自分の罪を認めているようなもの。もっと地位が危うくなるのは明白だ。第一、あの野郎の手には魔法石があるのだ。迂闊に手を出せまい。となれば、ここから逃亡して、奴のしでかした事を暴き、先に牢に押し込める他ない。まだ体は本調子、というより全然回復していないが、逃げるチャンスは今しかない。そう思い至った私は小声で、しきりにため息をついている弟子に話しかけた。
「爆発草はあるか。」
爆薬草とは、ここいら一帯に自生するある種の薬草を加工したものを指す。乾燥させたそれに発火系の魔法を掛けると辺りを吹き飛ばすことができる。生成法は・・・いや、この話はまた今度するとしよう。
「はい。一発分持っております。」
「よし、それでこの壁を潰すぞ。」
私はストゥーリから爆薬草を受け取り壁に貼り付けた。そして、ありったけの魔力を使い、指に火を灯した。そしてそれを爆発草に押し付けた。
「ドーォン」
それは勢いよく爆発した。分厚い石壁が外へ吹っ飛ぶ。牢番は突然の爆風に為す術もなくどこかに吹っ飛ばされた。下では兵士等が混乱しているらしい。が、私がしでかしたことであるとすぐに気づくだろう。早く逃れなければならぬ。
「ストゥーリ、飛び降りるぞ。」
「正気ですか、お師匠様。10mはありますよ?怪我をしたらどうするのですか。」
「大丈夫だ、問題ない。」
「いやいや、思いっきりフラグ建ちましたよ!?」
「ちゃんと守ってやる。行くぞ、せいのっ。」
「いやぁぁぁぁー」
私達は闇に吸い込まれるように消えていった。