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1-4 本棚を抜けると地下道であった

 2人の侵入者は引き戸を開けては閉め、開けては閉め、どんどん奥へと進んで行った。各部屋には調度品や装飾が施されているが、何らか盗人が持ち去ったのであろう、どことなく物足りない様に感じた。そうこうするうち、私達は一段と大きな部屋にたどり着いた。

「デヴェスさんの部屋ですかね。」

「うむ、そのようだ。」

今までの部屋とは違い、天井まで届く大きな棚がいくつも設置され、古今東西の書物が埋め込まれている。

「うわぁ、お師匠様の書斎よりすごいやぁ。」

我が家の本の虫が一心不乱に本棚に駆け寄る。彼女にとって、ここは楽園らしかった。

「こら、余り音を立てるなよ。万一見つかったら困る。」

と言いつつも、読書を好む私としてもこの膨大な量の書物には惹かれないこともない。私は手近にあった「ヤーパンの伝説」というものを紐解いた。

 

 ……パラ。……パラ。静寂の中にページをめくる音のみが響く。私は魔物伝説の章を熱心に読んでいた。

 

 その昔、物の怪が都に現れ散々暴れまわった。何人もの騎士が討伐を試みるが失敗してしまう。民衆がもう駄目だ、と諦めかけたその時、或る無名の騎士がたった一本の矢で仕留めてしまった。その功績のため、彼とその子孫は繁栄した。という話である。一見ただの英雄譚である。しかし、物の怪に秘密があった。実は、その怪は騎士の実の母親だったのだ。彼女は何をやっても上手くいかない息子に何とかして手柄を立てさせてやりたかった。だから、彼女は自ら怪になる呪いを掛け、都を荒らしまくった。そして、自分を討伐しに来た騎士等を打ち負かしながら実の息子が討伐しに来るのを待った。ある時、漸く息子が討伐しに来た。息子は物の怪に渾身の矢を一本射った。そのような力強い武器でもこの未曽有の物の怪には全く効かない代物であったが、怪は息子のために、わざと矢を急所に当てさせたのだった…。


 私が母親の狂気とも言える愛情というものに思いを馳せていた時、大きな物音とストゥーリの悲鳴がした。何かやらかしたらしい。急いで駆け付けると、弟子が腰を抜かして前を凝視していた。

「どうした、何があった。」

「い、いや、私が本を取ろうとしたのですが、固くて引き出せなかったのです。それで思い切り引き抜いたら、周りの本もくっついて出てきて。よく見ると、私が引き抜いた本は偽物だったのです。何かの覆いにしてあるようでした。それで本棚を覗くとレバーが備え付けてありました。私が好奇心で引いてみると、突然本棚が動き出してしまって…。」

私は彼女が指差す本棚を見た。本棚は奥に引き下がっていて、壁の中に狭く細長い空間が出現していた。隠し通路である。私達は現れた通路のその先へ歩みを進めることにした。

 …コツ…コツ…。天井が低く仄暗い通路に二人の足音が反響する。進むにつれ気温が下がっていく。相当地下深くまで行かなければならないらしい。…コツ…コツ…コツ…。暫く歩いて、漸く小径が途切れた。目の前には頑丈な扉があった。

「いやに変な地下室があったものですね。」

先程からずっと先行く私の袖を掴んで離さない弟子が感想を言った。確かに、隠された様にある地下通路のどん詰まりに大きな鉄扉なぞ怪しい臭いしかしない。中には何が入っているのだろう。そう疑問に思った私は大きな観音開きの鉄扉に手を添えた。その瞬間、私は内側で何かが呼吸するのを感じ取った。出払ったと思っていたが、この家の人間がいるのか。しかし扉に錠がしてあるのでこの推測は正しくないだろう。それに、この妙にくぐもった呼吸音。拘束されていると見た。何が?獣の類か、或いは人間か。人間だとすると大人ではない。一体…。

 私は思いあぐねたが、結局、手っ取り早く扉を開いて正解を見ることにした。私が魔法で錠を焼き切ろうとしたその時、後ろからストゥーリでもない、無論私でもない声が響いた。

「そこに誰かいるのだろう。」

私達はぎょっとして四顧した。声を発した人物は丁度我々の後ろに立っていた。私達は再び驚愕の念を抱くこととなった。不敵な笑みを浮かべている奴、この家の人間ではなかった。こともあろうにあのペシスだったのだ。

「お師匠様、居場所がばれていますよ!」

「案ずるな。勘が鋭いだけか、それともただのはったりだ。」

ストゥーリは予期せぬ事態に慌てふためいていた。勿論私もいくらか驚いたが、所詮人間一人が現れたに過ぎないとしか考えなかった。

「10数える内に姿を現せ。10!」

面白い、人間。私のこの強固な結界を破れるものなら破ってみろ。

「お師匠様、何だか解りませんけれど、いったん引きましょう。」

すっかり弱腰になっている弟子が弱音を吐いた。

「5!」

「あの人間には何も出来んよ、ストゥーリ。私の火力は低くないのだ。」

「0!」

ペシスは高らかに宣言するや否や、懐からある物を取り出した。その瞬間、私の結界は砕け散った。

私は危険に陥ることはないと確信していた。しかし、それは早計であった。ペシスの手に握られていた物は魔法石。それも最高級品、レイシュム・ストーンだったのだ。


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