1-1 噂の依頼
カランカラーン
ドアベルが綺麗な金属音を発した。お客のようだ。
「いらっしゃいませ!」
とストゥーリが元気よく挨拶する。一応は薬屋なので薬の購入が目的の客が大半だ。その場合は優秀な彼女に任せてある。わざわざ私が出ていくこともない。だが、彼女等が二言三言交わした後、ストゥーリが
「お師匠様、お客さんです!」
と言った。この場合、その客は薬を購入しに来た訳ではない。「何でも屋」に頼みごとをするために訪れたのだ。私は中の小部屋に通すように命じた。その部屋には結界が張ってある。声が外に漏れない仕掛けになっているから要件を聞くに丁度良い。入って来たのは小柄で丸眼鏡をかけた男。ラビオ村の村長だった。
「こんにちは、白の魔術師様。」
白の魔術師とは、私の別称である。
「はい、こんにちは。今日はどういったご用件ですか。」
「実は・・・」
要約すると、村に住む富豪、デヴェス氏の屋敷に盗人が入り、金目の物を奪われた上、一人娘もいなくなった。しかし、なぜかデヴェス氏は娘が誘拐されたことについて、まるっきり否定したらしい。村人は、宝はともかく、子供を見かけなくなったのは事実。裏があるのではないか。そう噂している。どうか真実を調べてきてほしい。とのことだった。
「そういうことなら、村の騎士団にでも相談すればよろしいかと。」
一応、この村には王国騎士団の支部がある。事件の調査もそこがしたのだろうから問い合わせれば良いだけの話だ。
「それが、騎士団でも『そのようなことはなかった』の一点張りで・・・」
「でも、事件自体はあったようなのですね。」
「ええ、目撃者がいますから。」
それは妙だ。確かに、この村長が言うように調査した方が良さそうだ。
「ストゥーリ!仕事が入った。今日はもう店仕舞いして出かけるぞ。」
彼女は慌ただしく用意を始めた。遊びに行くのではないのに着替えまでするらしい。「嗜みです。」と本人は言っているが・・・。いやはや、年頃の女というものは解らないものだ。
私が用意しろと言ってからきっかり30分後、ストゥーリは普段のエプロン姿から、私が以前王都で見繕ってきた薄萌黄のシルクのワンピースを身につけて姿を現した。
「お待たせしました!」
「遅い。」
だがしかし、人を待つのは嫌いだが今回は眼福に免じて許してやろう。やはりこの弟子には緑がよく似合う。流石は私だ。と自画自賛した。
私達は自前の馬に跨り、麓の村に向かった。