プロローグ
はじめまして。翠子と申します。
軽~い気持ちで読んでもらえると幸いです。
ようこそ、私の店へ!私の名前はトーガレス。しがない魔法使いだ。私はクリノア王国ズール州、ラビオという小さな村で、所謂「何でも屋」をしている。というよりせざるを得なくなってしまっている。ここに住んで500年、時折発生する飢饉やら疫病やらの度に救済をしていたら村人の方から何かと願い事をされるようになってしまい、律儀にそれらの依頼をこなしてゆくうち、いつの間にか「何でもしてくれる魔法使い」として認知されるようになっていた・・・というのが理由である。私の本業は薬屋なのだが。まあ、別に構わない。
店舗兼住居は村が望める小高い丘の頂上にある。重厚な石造りの建物で、私が住まう以前からあった。部屋はいくつもあって、急な来客でも対応できる程。それに庭園も用意されている。私がやってきた頃は碌な手入れもされずに荒れ放題だったが、今では薬草園と化している。
弟子もいる。ストゥーリという人間の少女だ。若いからか、彼女の知識の吸収はこの私でも目を見張る程速い。それに、可憐で気立てがいい。だが、完璧というわけでもない。例えば、私が
「フラスコを持ってこい」
と言うと、
「はい!」
と元気よく返事をして取ってきてくれる。そこまでは良い。が、
「お師匠様、取って参り…あっ」
ドテッ
ガッシャンコーン
「…ひゃあぁぁあぁ、ごめんなさい!」
と、高確率でへまをする。そそっかしくておっちょこちょいなのが玉に瑕である。フラスコ以外にも、花瓶とか窓とか、割れそうなものは何でも壊してしまう。無論、彼女に悪気はなし、多分そういう性質なのだろうからあまり咎めはしない。そもそも私の修復魔法を使えば無機物なら何でも一瞬で直せる。使用する魔力も微々たるものだが、こう何度も魔法を使わされるのは御免被りたい。何でも無駄使いというのは好ましくない。
さて、もうすぐ開店時間になる。雑談はここでお仕舞いとしよう。今日はどんな客がやってくるのやら。