飼育委員の女の子と冒険したい白うさぎ ~『名もなき創作家たちの恋』作中作編集版~
連載小説『名もなき創作家たちの恋』作中作の編集版です。
澄んだ空気がおいしい秋の放課後。少し陽が傾き始めたころ。
小学校の飼育小屋。飼育委員の3年生の女の子は白ウサギを小屋から出して、外の囲いで給餌をしている。
「はい、ニンジンあげるっ!」
「いやいや、ぼくはニンジンよりキャベツのほうが食べやすくて好きなんだ」
女の子はプラスチックのバケツから手のひらサイズに切り分けたキャベツを一枚つまんで
「そうなんだ、はい、キャベツ」
キャベツを手渡すと白ウサギはそれをもきゅもきゅと三口かじり、手中に抱えたまましゃがむ私を再び見上げた。
「ありがとう。わがままついでに、僕の夢を叶えてくれないかい?」
「夢?」
「そう、夢。小さな夢」
「なぁに? 言ってごらん?」
「ぼくはね、おそとの世界を見てみたいんだ」
「おそと? おそとの世界は危ないよ? 車とか、カラスとか、敵がいっぱいだよ?」
「くるま? なんだそれ。ぼく知らない」
「車っていうのはね、私よりずっと大きくて、どんな動物さんよりも速く走れるとってもこわ~いものなの。でも、どうしてもって言うなら、ちょっと冒険してみようか」
「やったぁ! ところで、どうしてきみは、ぼくが喋っても驚かないの? ほくはいま、生まれて初めて人間の言葉を喋ったのに。それとも他のところで飼われているウサギは、ぼくみたいに喋るの?」
この小屋には他に二羽のウサギがいて、いまはお昼寝をしている。ついでに仕切りを隔てた隣のお部屋には二羽のニワトリと、セキセイインコもいる。
「ふふっ、そういうことを言うと夢の世界が壊れるからやめようね」
「そうか、わかった。ははははは」
「ふふふふふっ」