b.f.4
いつも通り、晴くんを見送って
今日の講義は午後からだから、ら
晴くんの家を掃除していた。
とりとめのない、いつもの日々。
だった、
ピンポーン
「はい…」
宅配便かな、と思った。
チェーンをかけて、ドアをあけた。
「すみません、貴田晴さんのお宅ですか?」
「は、はい…そう、ですが…」
「吉本友紀さんですね?」
「…はい。」
「私、こういう者です。」
狭い隙間から渡されたのは、1枚の名刺。
そこには、晴くんが所属する予定の会社だった。
「少し、お時間よろしいでしょうか?」
「…どうぞ。」
「何にもないですが…」
「あ、おかまいなく…」
コーヒーを出して、その人の前に座った。
「あの、晴くんがなにか?」
「いえ、今回デビューするのにあたって、彼の身辺調査をしたんです。」
「はぁ…」
「少しでも彼のマイナスになるものがあると、彼にとっても、うちにとっても困るものですから。」
ざわりと、胸が騒いだ。
「単刀直入に言います。彼と別れていただきたい。」
「え…?」
嫌な予感が的を射る。
「私たちは、彼がブレイクすると思ってます。
だからこそ、彼女がいるとマイナスなんです。
ファンは作れるだけ作らなくてはならない。
そのために、彼女というものは…」
確かに、彼女という存在はマイナス要素だ。
かつて、私もアイドルを好きだったことがあるからわかる。
女の影というものは、見せちゃいけない。
「ご理解、いただけますか?」
理解はできる。
でも、納得ができない。
何年も一緒にいた。
毎日幸せだった。
あの時の気持ちも、ぬくもりも、
笑顔も、すべて失うなんて。
「とりあえず、これで…足りなかったらもっと出しますから。」
カバンから出されたのは、茶封筒。
10センチほどの厚さがある。
なんともベタだ。
「1週間、あと1週間だけ時間をくれませんか?
もちろん、彼には言いません。
でも、心の準備と…この部屋にある私の荷物を運ぶ時間がほしいんです。」
「それじゃあ…」
「私は黙って彼から離れます。
彼のために、です。お金は受け取りません。
1週間経ったら、必ず離れますから。
だから、今日はお引き取りください。」
グッと噛みしめないと、
涙が溢れそうだった。
目の前にいる人も、
なんだか泣きそうになってた。
「本当にすみません…っ」
「謝らないでください…」
きっと、上から言われたんだろうな
ってどこか他人事みたいに考えて。
掃除の続きをしようなんていう気力もなくて。
午後からの講義も行ける気力もなくて。
気がついたら、日が沈んでいた。