第第2章 思い込んだら(5)
「本気にさせるためには、電話で声も聞かせたほうがいいわよね」
「そうですね」
「逆探知…。あのね。お父様の個人携帯に直接電話したらどうかしら?」
「個人携帯ですか?」
「うん。または会社の電話。会社の電話だったら仕事の話が一杯くるだろうから、まさか警察を張り付かせるようなマネはしないと思うの」
「なるほど」
「そこへお父様がいる時間…朝一番に電話するっていうのはどう?」
「どこから?」
「外の電話ボックス。ちょっと田舎に行けばあるでしょ」
ふむ、と晃が指を一本立てて唇と触りながら考え始める。
「遠野。君、運転は?」
私たちの話を黙って聞いていた遠野は突然名前を呼ばれて直立不動になった。
「は、はいっ! 免許は持ってますぅっ!」
蛇に睨まれたカエル?
「じゃあ、遠野に連れていってもらえばいいじゃない? 遠野と私は変装するの。遠野を女装させて女の子二人とかにしたら、意表を突けるんじゃないかしら」
晃が遠野の顔に自分の顔を近づけた。
「失礼」
そう言うと、遠野のメガネを外して、うっとおしい前髪を分ける。
あら、意外にきれいな顔してるじゃない。コイツ。細いから女装ができそうって思ったけど、顔もそのままで化粧したら、いけそうな感じ。
「その案、行きましょう。遠野、ちょっとこのメガネを借りるよ」
「えっ。それを持って行かれると何も見え」
「何よ。口答えするのっ!」
「し…しません…。どうぞ…」
晃を止めようとする遠野を黙らせるて、私は晃を見た。
「どうするの? そのメガネ」
「遠野の女装には邪魔なので、ちょっとした用意を」
晃はにやりと笑う。
「少々お時間を頂きます。それまでまたしばらく、こちらで控えていらしてくださいませ」
わざとらしく綺麗にお辞儀をすると晃は去っていった。
また二人きりで取り残される。遠野はメガネが無くて見えない分、さらにオロオロ度がアップしていた。
「遠野」
「は、はい」
「替えのメガネは無いの?」
「お金がないので…作ってないです…」
あ、なんかかわいそうになってきた。
「どのぐらい見えるの? それで」
「えっと。まあ、物があるぐらいは」
「それって…」
私が眉を寄せたのをどう捉えたか、遠野が必死で手を振った。
「大丈夫です。お茶ぐらいは入れられますから。ちょっと時間かかりますけど」
本当は違うの。ちょっとだけ普通の生活をするのも大変かなとか思って、気遣おうと思ったんだけど、遠野がそう言うから、私もつい変な方向で答えてしまった。
「当たり前よ。お茶入れられない遠野なんて、存在価値無いわ」
遠野がしょぼんとする。
ああ、もう。私ってば。いつも余計なこと言っちゃう。
「あの…その…遠野の入れるお茶、美味しいから…」
思わず恥ずかしくなって小さな声になれば、全部聞こえていた遠野は顔を上げて、嬉しそうな笑顔で私を見た。
「その顔止めなさいよっ!」
「えっ!」
「褒めてなんかいないんだからねっ!」
そんな顔されると、こっちが困るじゃない。
私はいても立ってもいられなくて、思わず寝室に逃げ込んだ。




