第2章 思い込んだら(4)
普通に鍵を開けて入ってきた晃を見て、思わず私は駆け寄る。
「あ、晃。普通に来て大丈夫なの? なんか夜中に来るとか、忍んでくるとか」
私の言葉に晃が眉間に皺を寄せた。
「そんな疑われるようなことを、何故やらないといけないんです。昼間のほうが動いていても普通でしょう」
うっ。
「まさかお嬢様が、そんなことにお気づきにならないなんて」
「あ、あるわけ無いじゃないっ! 言ってみただけよっ!」
私は慌てて答えたけど、晃は意地悪にもニヤリと笑って私を見た。ううう。
そしてすっと真面目な顔になる。
「異常は?」
「何もなし。遠野も相変わらず。あ、こいつ、意外に料理が上手いわよ」
そう言ったとたんに、遠野が照れる。
「い、いえ、それほどでも」
それを聞いたとたんに、私の中でなんかのスイッチが入って、素直に遠野を認めちゃいけないって思ってしまった。
「あ、言っとくけど、おいしいとは言ってないから」
「えっ」
私の言葉に固まる遠野。
「やっぱり私の舌を満足させるなら、もうちょっと味付けに工夫してもらわないとね」
遠野が見る見るうちに肩を落として、うなだれる。
ああ…もう。確かに、ちょっと美味しいなって…なんか家庭の味ってこんな感じかな…とか思って、いいなとか思ったりとかしなくもないけど…。
でも素直には認めたくないんだからねっ!
「ま、まあ、悪くはない味だし、手際は良かったわね」
そうフォローすれば、とたんにぱっと顔が上がった。そしてすぐに数日前に見せた笑顔になる。
それを冷ややかに晃が見た。
「お嬢様は遠野のコントロール方法も身につけられたようで」
嫌味だ。口に出すと何倍にもなって返ってきそうだから、黙って心の中でアカンベーをしてから、話を変える。
「それで、そろそろ誘拐宣言しないとね」
そう言うと晃がにやりと笑った。
「それには及びません。すでに脅迫状を出しておきました」
はい?
隣で遠野も「ひっ!」と息を飲んだ。
「出したってどうやって…」
「お屋敷のポストにぽいっと」
そうやって簡単に晃は言うけど…ポストにって、晃が入れたってこと?
「け、警備は? カメラは?」
「当然、変装して正体が分からないように出して参りましたよ」
すました顔で言うところが怖い。
「足が付くような…」
「そんなマネをこの私がするとでも?」
「思いません…」
思わず小声になる。
うーん。こいつを巻き込んだのは良かったのか、悪かったのか。
まあ、良かったのよね。うん。
「すでに昨日より警察が動きだしております」
また遠野が「ひっ!」と息を飲む。
「意外に遅かったのね」
「まあ、家出の線も考えられましたので…」
私は肩をすくめた。
「そうよね。それで身代金の請求は?」
「一応、五億円ほど」
それを聞いたとたんに、また遠野が「ひっ!」と息を飲む。
「うるさいっ!」
わたしが一喝したら泣きそうな顔になった。
「うーん。少し少ないかしらね」
「そうですね。やや控えめかとも思いましたが…」
「い、いえっ! 多いですよ。多いですっ!」
遠野をじろりと睨めば、慌てて口を自分で押さえている。
「警察の反応は?」
「とりあえず電話には逆探知機をかけて、旦那様と奥様の怨恨の線を洗っています」
ま、普通な感じ?




