第2章 思い込んだら(3)
とりあえず私も遠野もここに出入りしているのを見つかるわけにはいかないから、変装が必要よね。
晃がここに来るときに持ってきた紙袋を見れば、化粧品にウィッグ、伊達メガネ。ついでに新品の服が数着。絶対に私が着ないような下品なチョイス。
さすが晃。移動の前に一瞬消えたかと思ったら、こんなものを用意していたなんて。
でも、紙袋の一番下から出てきたものに私は顔をしかめた。
「下着が入っているのはいいとしても、あいつはなんで私のサイズまで知ってるのよ」
下着から洋服まで、教えた覚えがないのに、ぴったりのサイズ。
「あいつは私のストーカーかっていうのっ!」
私がそう言ったとたんに、隣の遠野がびくっとする。そういや、いたんだっけ。
「はい。あんたの分」
紙袋の中に入っていた男物の一式を渡せば、遠野がびっくりしている。
「どうしたのよ」
「サイズ、ぴったりです」
思わず私は額に手をやった。ストーカー説撤回。晃…あいつ、変な特技を持ってたのね。
とりあえず二日間。私は携帯の電話は切ったまま、家出してやった。っていうか、このマンションに居ただけなんだけど。
料理も食器洗いも洗濯も遠野が全部やった。意外に家庭的な男だったみたい。とりあえずよく分からない和食らしきものを食べさせられた。なんかの煮物とか、煮付けとか。炒めたやつとか。
「遠野」
「はいっ!」
一緒に食事していた遠野が立ち上がる。
「いいわよ。座ってて。この食材、どこから来たの?」
「れ、冷蔵庫の中にありました。すみませんっ!」
私は思わず顔をしかめる。
「賞味期限が切れたやつじゃないわよね?」
「あ、あの、あの男の人が…」
「ああ。晃? あいつが用意したの?」
がくんがくんと遠野の首が前後に動く。お前は壊れた人形かっていうのっ!
「まあ、悪くはない味だわね」
そう言った瞬間に、遠野が嬉しそうに、にこぉっと笑った。初めて見たわよ。こいつがこんなに嬉しそうなの。
「実は家事、結構好きなんですっ!」
はい?
「こう、冷蔵庫の中を見てですね、入っているもので何を作ろうかなぁとか、考えるのが好きで」
いきなり私の目を見て、拳を握りながら語り始める。
「なんか、それって、冷蔵庫からの挑戦っていうか…」
へんな奴。でもなんか楽しそうだからいっか。
「それで、上手くできたときは凄く嬉しくて」
遠野の『冷蔵庫の中身』に対する熱い思いは、このあとしばらく続いた。
私は呆れたけど、こいつがこんなに喋るのを見たのは初めてだし。なんか生き生きと喋ってるから、適当に相槌を打ちながら黙って聞いてあげた。
そして三日目。昼間に堂々と晃が現れた。




