第2章 思い込んだら(2)
晃と私が立てた作戦は、こんな感じ。
まず晃は屋敷に帰って、私がどこにも見当たらないと報告する。そこへ誘拐犯から電話がかかる。電話は公衆電話から変装した遠野が電話する。
それで身代金の要求をする。親が届けに来て、私が無事に帰って、お父様たちが泣いて喜ぶ。
なんかかなり荒いけど、大丈夫かなぁ。
「とりあえず私は帰ります」
晃が私に鍵と当座のお金を渡しながら言った。
「いい? 裏切ったらタダじゃすまないわよ?」
私の精一杯の強がり。晃が協力してくれて嬉しいのに、素直にありがとうって言えない。
でもそんなこと、晃にはお見通しだった。
「お嬢様」
「何よっ!」
「嬉しいときには、素直に『ありがとう』って言えばいいんですよ」
そう言われて、思わず言葉が出なくなる。
からかっているかと思った晃の瞳は優しくて…何か文句を言おうと思ったのに、舌が絡まってしまったみたいに動かない。
「仕方ないわねっ! お礼言ってあげるわよ。あの…その…ありがとう」
お礼は小さな声になっちゃったけど。言ったわよ。言ったからね。思わず下を向いたら、頭の上からくっくっくっという低音の笑い声。
「素直じゃないですね」
余計なお世話よっ!
「べーっだっ。さっさと帰りなさいよ!」
思わず舌を出して、晃を扉の外に押し出した。まだ晃は笑っている。
「すぐにまた参りますから。それまで寂しいでしょうけれど、辛抱していてください」
「うっ、うるさいっ! 晃が居なくても、さ、寂しくなんかないんだからねっ」
そういって扉が閉まるときに見えたのは、晃の笑顔だった。
何よ。その見透かしたような笑顔は。気に食わないんだからっ!
くるりと振り返ると、遠野がまた床の上に座り込んで呆けている。
「遠野っ!」
「はいっ!」
慌てて立ち上がって、直立不動になった。
「お茶っ!」
「はいっ!」
ひっくり返った声で返事をすると、遠野は台所にすっ飛んでいく。
はぁ。大丈夫かなぁ。コイツ。一番心配なのが、誘拐犯本人って、どういうこと?
「あ、お茶は緑茶じゃなくて、ダージリンにしてね」
そう言うと、遠野が台所から泣きそうな顔を見せた。
「ダージリンって…なんですか?」
「あんたねぇ。紅茶の種類ぐらい覚えなさいよっ!」
「す、すみませんっ!」
「しかも難しい種類を言ってるんじゃないんだからっ!」
「すみませんっ!」
「謝ってばっかりしていると、ヌワラエリヤとか、カンヤム・カンニャムにしろって言っちゃうわよ」
「覚えますっ! 覚えますから、勘弁してください」
私は大きくため息をついた。




