第2章 思い込んだら(1)
広々としたリビング。モノトーンの落ち着いた家具。何、この家。
「お気に召しましたか?」
晃が私たち…私と遠野を連れてきたのは、高級マンションの一室だった。
「これ…誰の家?」
晃がひょいと肩をすくめてみせる。
「四之宮家が管理している一つですよ」
「ええっ? そんなの…すぐ見つかっちゃうじゃない」
「大丈夫です」
にやりと晃が嗤う。
「旦那様が奥様に内緒で保持されている物件ですし、直接的には四之宮家の管財物件としてはリストアップされていませんから」
それって…。
「お父様に愛人がいるってこと?」
「作ろうとしていた…というべきでしょうね。奥様のほうが一枚上手で、今だに上手くいっておりません」
そんなの知りたくなかった…。私がしょんぼりと肩を落とすと、晃がポンポンと肩を叩いてくる。
「男にはそういうことを思う時期があるんですよ。どうしても旦那様のほうが入り婿で、お立場が弱いですから、魔が差すこともあるということです」
分かったように言う晃を睨みつける。でも私にはどうしようもないことだし、いいわ。どうでも。とりあえずこの際だから、利用させてもらおう。うん。
「で、どうするの? これからから」
晃が指を一本立てて自分の唇に触る。考え込むときの癖。そして目がきらりと光った。
「遠野」
「ひっ!」
低い声で、晃が遠野を呼べば、さっきからキョロキョロと居心地悪そうに立っていた遠野が息を飲んで飛び上がる。
「しばらくここでお嬢様のお世話をするように。ただし、お嬢様に指一本でも触れたら…君は生きて帰れないと思ってくれていい」
「ひ~っ!」
どっかの悪の組織での返事じゃないんだから、何、その情けない声。
遠野はぶるぶると震えながらしゃがみこんで、私と晃を見上げている。もう。あまりにも情けなくて、私は遠野の襟をぐっと掴んで立たせた。
「いい? あんたは誘拐犯なんだから、もっとシャキッとしなさいよっ!」
小刻みに震えてる遠野。
「返事っ!」
「はい~っ!」
泣きそうな顔になりながら、裏返った声で遠野が返事をした。思わず晃と顔を見合わせる。
「なんとかなるかな?」
「なんとかするしかございません。お嬢様。遠野を『誘拐犯の星』になさるんでしょう?」
晃がすました顔で返事をする。私は自分が言った言葉を今更ながら後悔していた。変なネーミングしちゃったな。
もうちょっと「最強の誘拐犯」とか、「史上初の誘拐犯」とかにすればよかった。
「お嬢様にはネーミングのセンスがありませんね」
どうやら心の声を口に出していたみたい。晃から冷ややかな声で言われて、思わず私は遠野の頭を叩いた。
「あんたが悪いのよ。あんたが。もっとしっかりと、それっぽくしなさいよっ!」
「す、すみません…」
泣きそうな声で遠野に言われて、私はため息を吐き出した。




